18.アリアの秘密②
11/6:誤字修正
「私の名前は沙希。貴女が前世だと思ってた記憶の持ち主よ」
その言葉に私は混乱中です。
ここが前世で読んだ本の世界と思った記憶は私のではなく、彼女のだと言うのならば何故私はその記憶が見れたのでしょう。
前世でないとしたら憑依なのでしょうか。
「憑依じゃないわよ。私は貴女に呼ばれてここに来たのよ?」
ふふふっと笑いながら少女は言いますが、私が呼んだとはどういう事なのでしょうか。
「ねぇ?ここでは貴女の声も出るわ。
心の声読むの結構面倒だから声に出してもらえる?」
「え?あ・・・」
沙希と名乗った少女の言葉に思わず声を出すと思ったより簡単に声が出ました。
「ここは怪我をしていない状態になるのよね。心の中だしね」
「あの、今の私の状態って・・・」
「うん。ちゃんと説明してあげる。長くなるから座りましょう?」
そういうと真っ白だった空間にソファーが現れました。
少女はソファーに座り、私にも勧めたので座ることにしました。
「ここは心の中ですもの。ソファーを出すのは簡単な事よ。
さて、これから話すことは貴女を驚かすことばかりになるわ。
心して聞いてね」
私が頷くと少女は真剣な顔で私を見つめました。
「まず、16年前に貴女は本来は死産のはずだった。
でも『死にたくない』と願った貴女の心に惹かれて私はここに来たの。
貴女は生きるには力が弱かったわ。
そして異世界で死んで間もなかった私にはまだ力があったから貴女と共に生きることにしたのよ。
でも、わたしが貴女の中に入ったはいいんだけどそれでも微妙に足りなかったのよ。
そしたらもう1つ力が入って来たの。
それはとても弱くてでも赤子の貴女の側にいるには危険な存在だった。
だから私はその力と共に貴女の中で眠ることにしてバランスをとったの。
もう1つの力の娘はアンと言ってね。
私も詳しいことはわからないけども闇の精霊と人間のハーフの人の分身みたい。
分身と言っても3つに分けられた1つで力はそれほど強くないって言ってたわ。
お姉さんに襲われて消滅しかけたのをお兄さんが貴女の体に入れたみたい。
アンはただ普通に生きることを望んでいてね。
貴女の中でこのまま寿命を迎える事を望んでいたわ。
だから私はアンと2人で貴女の日常を見ていたのよ」
あまりの事に理解が追い付かない状態ですが、後半の闇の精霊の話は黒服の男が言っていたのと同じ気がします。
あの時は意識がもうろうとしてましたが、なんとなく話は聞こえてました。
「あの。どうして貴女は私と共に生きることにしたのですか?」
「それは企業秘密です」
少女はにっこり笑って答えたけどもキギョウ?って何だろうと私が首を傾げていると苦笑して、内緒ですと言いなおしました。
「如何して私に貴女の記憶を見せたのですか?」
「見せたわけじゃないんだよね。
まさか木から落ちるとは思わなくてね。
しかも落ちる寸前に私がレイヴィン様に気付いちゃってさ。
えーあれ?って思ってる時に落ちた貴女に私の記憶が伝わってしまったんだよね。
木から落ちた衝撃と私の動揺とが起こした事故と言うべきかしら。
なるべく余計なことは見せないようにしたんだけどね。
ごめん、焦って貴女を寝込ませる結果になってしまったわ」
シュンとしながら言う少女の言葉に私こそお転婆ですみませんという気持ちになってしまいました。
でも、私はあの記憶を見て私は今の未来を決めたのだから私にとってはあの出来事は良かったと思うのですが、見てなかったら物語通りになっていたのでしょうか。
でも、先程少女は物語と異なったことが結構あると言っていました。
「あの、先程言ってた物語と違う点って」
「うんうん。
さっきも言ったけど貴女も弟君もいなくてお母様は亡くなってたし。
そもそもアンもいなかったというより、魔女の分身なんて設定物語にはなかった。
物語ではカミーラは魔女の生まれ変わりだったのよ?
年齢も結構違ってるし、物語と似て異なる世界かなと思ってるよ。
おまけに第2王子は物語では言葉使いちょー悪かったのに違うしね。
それとリゲルとサラは第2王子の護衛してたんだよ!!」
それは2人に悪いことをしてしまったんじゃないでしょうか。
私の護衛より第2王子の護衛の方がこれから先の未来が広がったはずです。
「まぁ。物語では2人を拾ったのは王子になってたしね」
「拾った?
だって2人は事故で両親を亡くして身寄りがないからお父様が引き取ったはず」
「そうリゲルとサラの両親は商人で男爵家によく出入りしてて懇意の仲だったから引き取った。
でも物語では商人でもないし、男爵家とは縁もゆかりもなくて両親を亡くして路頭を彷徨ってる時にお忍び中の王子に拾われるのよ。
物語に沿ってるのに違ってて私はみてて間違い探しをしている気分だったよ」
「随分と違う・・・」
「でしょ?でもさ、違っててよかったと私は思うよ」
「どうしてですか?」
「だってさ、リゲルとサラは両親がなくなってから1年近く経ってから拾われたのよ?
子供2人で生きるには過酷すぎるよ。
それに物語と同じだったら多くの人が亡くなったのよ?
オスクリタ国は壊滅状態だったんだから・・・。
それに私が読んだのは物語であって、今は現実だもん。
違っててあたりまえなんだよね。
だから私個人の意見だと物語を変えたとかって気にしなくていいと思う」
確かに彼女の言ってる通りかもしれません。
私が物語を知らなければまた違う未来になったでしょう。
でも”もしも”は存在しないのです。
だったら今を見つめて私らしく生きていくべきなのでしょう。
「そうだ重要な事言い忘れてたよ。
今の状況だけどね?アンの意識が貴女を支配してるの」
「はい」
「でもね。アンは貴女の体を乗っ取ろうとは思っていってことは信じてほしい。
あの日、私はアンと約束したの。
アンは表にでて、全てに決着つけたらこの体から完全に消えると言ったわ」
「アンさんは死ぬってことですか?」
私の言葉に少女は首を横に振りましたが顔は悲しそうでした。
「お兄さんの中で眠ると言ってたよ。
アンは今は誰かに寄生しないと個人を保てないみたい。
だからそれまで貴女の体を使わせてほしいと言ってたよ」
「それは目的を遂げたら私は元の体に戻れるって事でしょうか」
「戻れると思う。それでね。戻ったら私も新しい命に生まれ変わろうと思うんだ」
まっすぐに私を見て言う言葉に思わず息を止めてしまい、そしてゆっくりと息を吐き少女の顔を見つめ返しました。
「どうして?」
「貴女の魂はもう安定しているもの。
1つの魂に3つの意識が入っていた現状がおかしい状態だったのよ。
だからこれを気に正しい状態に戻るべきかなって」
「そんな。だって私知らない間に貴女達にお世話になってたのでしょう?
それなのにお礼も何もしていないのにいなくなるなんて」
「お礼ならもらってるよ。
私もアンも貴女と共に生きた時間は楽しかったんだ。
私達はあんなにお転婆に走り回ることも剣をふるう事もできなかったんだよ。
できなかったことをしてくれてそれを体験できて嬉しかったんだ。
だから私も貴女から出て新しい命として生まれ変わる決意が出来たんだよ」
嬉しそうに笑いながら少女はいいますが、私は彼女達が楽しいと思えるような日々を見せる事が出たのでしょうか。
むしろ本来ならばこの世界にいなかったかもしれない私に世界をみせてくれたのは彼女達のおかげと言うべきではないのでしょうか。
そう考えてると少女が不意に笑顔を消して言いました。
「ただね。
今まで3つの意識で過ごしてきたのにいきなり2つ消えてしまうでしょ。
魂が安定しているとはいえ、影響があるのかないのか正直わからないんだ。
下手したらバランスが悪くて貴女に影響がでてしまうかもしれない。
それでも今を逃したら次の機会はないと思うの。
それでもいいかな?」
もともと力が弱くて2人の力を得て私は今日まで生きてこれたという事です。
彼女が言うにはもう力は安定しているとのことですが、それでも今まで3つあった意識のうち半分以上消えてしまったら下手したら死の可能性もあるという事でしょう。
それに私もなんとなく理解しました。
ここは真っ白で何もない空間です。
アンさんが消えてしまって、私が表に出てしまえばここにはこれません。
そうなると沙希さんは1人でここにいることになります。
私の生活を見ることができるといってもここに1人は私だって嫌です。
死ぬのは嫌です。
でもここで1人きりにさせるのも嫌です。
ならば私は・・・。




