プロローグ 前編
初投稿です。
この物語は俗に言う異世界トリップものです。
至らない点など多々あるでしょうが読んでもらえれば幸いです。
誤字脱字などがありましたら感想にて報告してもらえれば助かります。
執筆速度は遅いですがエタらないようにがんばります。
ヴァーチャルリアリティ。仮想空間生成技術が実用化され数年。その技術は医療、商業、軍事、あらゆるものに活用された。これは今世紀最大の発明であるといっても過言ではないと言われている。……のだが、
高校生である俺、天野澄にとってはどうでもいいことだ。
毎日通う学校はこの現実の世界に存在して生身で足を運ぶ必要があるし、板書だって黒板にチョークを書きなぐる。はっきり言ってヴァーチャルだのなんだといっても俺の世界はアナログに出来ている。現に俺の目の前ではハゲ頭に瓶底眼鏡の数学教師が黒板にチョークで文字を書き付けている。
「えー、これにXを代入すればおのずとYが……」
ボソボソとした声と黒板をこすりつける音がまるで催眠音波のように頭を揺らす。
今の季節は6月のはじめ、もう夏に入ったのかと思うくらい気温が高くクーラーが付いているとはいえその陽射しはこちらの集中力をジリジリと奪っていった。
「ふぁ~……ん」
喉の奥から無意識にあくびがこみ上げる。声に出してしまいそうになり慌てて口を塞いだ。
いけない、こんなことで目立ったら恥ずかしすぎる。
今のあくびがあたりに聞こえていないか確かめるためあたりを見渡す。辺りのクラスメイトは板書を黙々とノートへ書き写している。よし、誰も気づいていないなと一安心。眠気覚ましも兼ねて辺りを観察することにする。クラスメイトも同じ気持ちなのだろう。眠たそうに板書を取っている。とはいえ一応は進学校だ。居眠りしている奴はいない。
「く~、かこ~」
いた。目の前、俺の斜め右前の席に頭についた尻尾を揺らしながら机に突っ伏している馬鹿が一人。牧野芹だ。後ろからなので顔は見えないがその安らかな寝息を見る限り実に気持ちよさそうだ。
教師も気づいていないのか知っていて無視しているのかわからないが淡々と公式を説明している。注意しろよとも思うがこいつの居眠りは日常茶飯事なので諦めているのかもしれない。
俺も無視すればいいのかもしれないがそういうわけにもいかない。
なぜなら俺と芹は幼稚園以来の友人、いわゆる幼馴染という間柄だ。家も隣で芹のおばさんからもよろしくと頼まれている上にもうすぐ中間テストだ。テストの直前になったら勉強教えてと俺に泣きついてくるのは簡単に予想できる。だから中学の頃から芹の家で勉強会というのがいつもの恒例行事になっていた。主に俺が教師役で。
となれば起こさないわけには行かない。ここで安眠させていれば後で苦労するのは間違いなく俺だ。
そう考え俺は筆箱の中に手を突っ込んだ。その中から常備していた輪ゴムを取り出し指に巻きつけ、人差し指を芹に向ける。芹の席と俺との距離は肩をたたけるような距離じゃない。となれば飛び道具を使うのが有効だろう。
よく狙いを澄ませる。制服に当たっても効果は薄い。後ろからでも当てられ肌が露出している首元、そこを狙って指を調節する。息を止めて目を細める。1秒が1時間にも感じられるような緊張感、気分はさながらスナイパーだった。芹の寝息と指の揺れが徐々にシンクロしていく。それが完全に合わさった時、俺は親指を折り曲げた。
ピンッ
乾いた音を立て伸びきった輪ゴムがはじけ飛ぶ。それは一直線に芹に向かい――
「あいたっ!?」
命中した。輪ゴムは一部の狂いもなく芹の首元を叩いた。
驚いたのだろう、芹は素っ頓狂な上げ思い切り跳ね上がった。
「どうしましたか? 牧野さん?」
「あ、えー、うっかり机で足を打っちゃって。すみません」
「あー、気をつけてくださいね。ではこの式ですが――」
あたりでクスクスと笑う声がする。当の芹は何をされたのか悟ったのだろう、こちらを真っ赤な顔で睨みつけている。俺は目を合わせないように板書をノートに書き写した。
放課後となった。
「ひどいよ、澄ちゃん!」
授業が終わったあとすぐに芹が俺に詰め寄ってきた。
「ひどいって?」
「私を輪ゴムで叩いたことだよ! 私、すっごく笑われたよ!」
「居眠りしてた芹が悪いだろ。むしろ感謝して欲しいくらいだ。うちの学校二期制だから中間落としたらマジでやばいぞ」
「私は! もっと! 優しく起こして欲しかったの!」
芹は大袈裟な手振りを交えて力強くそう主張する。その身振りに少しうざったいなと感じ思わず冷めた目を向けてしまう。
「例えば?」
「ん~、そうだなぁ」
そういうと芹は考え込む仕草をする。少ししたあと思いついたようでおどけながらこう言った。
「キス……とか?」
「出来るか阿呆」
物理的にも精神的にも社会的にも無理だ。
「アホじゃないよ! いいじゃない古今東西、女の子は王子様のキスで目覚めるものでしょ!」
「お前ノリで言ってるだろ。古今東西どこに授業中にキスする高校生がいるか!」
「む~」
芹はむくれると人差し指を俺に向けた。
「しない」
「え~」
「しない。そもそも俺らただの幼馴染だろ。そういうことする間柄か?」
「うん!」
「即答かよ!」
そうして芹と問答していると周りから「またやってるよ」「天野君もそろそろオチたらいいのに」「俺、天野がオチる方に食券賭けてるんだよな」「ああ、やっぱり。ってか振る方に賭けてるやつ奴いるのか?」「いないんじゃね?」「それ賭けになんねーじゃん」などと野次を飛ばされる。おい、人のことでトトカルチョするな。見世物じゃねーから。
「はあ……そんなことはどうでもいい。それより今日の授業のこと一切頭に入ってないだろ? 帰ったらウチに来い。今のうちに勉強教えるから」
「うん、行く!」
返ってきた向日葵のような笑顔に思わずたじろいだ。
「う、嬉しそうだな。お前勉強嫌いだよな?」
「そんなことないよ、ただ……」
「ただ?」
言い止めた言葉の先が気になって芹に尋ねた。芹は頬を赤らめ少し考え込んだあと心底楽しそうに俺の手を取った。
「なんでもないよ、それじゃ早く行こう!」
「お、おい! お前部活は? 勉強は部活終わってからだよ!」
駆け出そうとする芹を止める。芹はテニス部に所属していて毎日部活に精を出している。だから勉強会も部活の後にするつもりだった。
「休む!」
「そんな勝手許されないだろ。休むなら許可とって来い。つーか別に家も隣なんだし少し遅くなっても大丈夫だろ。部活に行って来い」
「なら許可取ってくるよ。ちょっと待ってて!」
そういうと芹は静止も効かず廊下へと飛び出していった。
「仕方ないな……」
あいつは子供の頃から変わらないなと思い、ため息をつく。立っていても仕方ないので自分の席に座ることにした。
「ふ~」
「なかなか楽しそうじゃねーか。お前ら」
「涼か」
話しかけてきたのはクラスメイトの秋山涼だった。頭の中央部だけ長めに切った独特のヘアスタイル、ソフトモヒカンにガタイのいい引き締まった筋肉のウチのサッカー部のエースだ。そして性格は明るく社交的、男女ともに人気のあるうちのクラスのヒーローでもある。
普通そんな人間と俺みたいなひねくれて内向的な人間とは越えられない壁があるもので、クラスメイトとはいえ話すことはほとんどないんだろうなと俺も思っていたのだが意外なところで接点があり良好な友人関係が築けている。
「別に楽しくない。仕方ないから面倒見てるだけだ」
「そうか? 傍から見てるとおまえ、嬉しそうだぞ」
「嬉しそう?」
「ああ。牧野と話すのが楽しくて仕方ないって感じでさ」
「芹と話すのが楽しいって、別にそんなこと思うわけないじゃん。芹がおバカして俺がその尻拭いってのがいつものことで珍しいことでもないしさ」
そういうと涼はニヤニヤしながら俺の肩を叩いた。
「それが日常になってるから楽しんでるって言ってんだよ。牧野ってけっこう人気あるんだぜ? お前こういう好意は迷惑なのか?」
「そういうわけじゃないし、あいつが人気あるのも知ってる。けどあいつ妹みたいなものだし」
芹は世辞抜きでも可愛いと言える部類に入る。ポニーテールの髪がその元気さを強調し、明るくて物怖じしない性格から男子からの人気も高い。そういう女子って同性から嫌われたりするものだが甘え上手でクラスの妹分みたいなポジションに収まっている上に好意がこのクラスで空気みたいな俺に向けられてるからか女子からのやっかみもない。
「ふーん。まあお前ツンデレだから素直になれないんだろうけどな」
「人を変なスラングに当てはめるな。少なくとも男に当てはめる言葉じゃない」
「いやいや、男のツンデレも需要あるって、ほら『勘違いするな。お前を倒すのは俺だ』みたいな?」
涼はどこぞのライバルキャラの真似をして決め顔を作っている。
俺も好きだった漫画のキャラクターの台詞にもそんなのがあったなと妙に納得するもそれを自分に当てはめられるとは心外だ。
「それで何の用だ。俺を茶化しに来たわけじゃないんだろ?」
「いい加減素直に好意を受け止めればいいのにさ……っと睨むな睨むな。今日SGの大型アップデートがあるだろ?」
SGとは魔導機甲サイバー・ゴーレムと呼ばれる俺たちが最近ハマっているゲームだ。俗にいうロボットアクション物のゲームでVR技術がふんだんに使用された最新ゲームであり、俺と涼が仲良くなったきっかけの物でもある。
「あれ、今日だっけ。忘れてたな」
「ああ、でもお前は牧野を部屋に連れ込んで秘密の勉強会だろ?」
「不穏な言い方すんな! いい加減しつこいぞ!」
どうしてだか涼は俺と芹をくっつけたがっているような節がある。俺たちのことを本気で心配しているというより俺の反応を見て楽しんでいるって感じだが。
「別に7時、8時には切り上げるつもりだしそれからやればいい。もし9時くらいまでログインしてなかったら電話をくれ」
「アイアイサー」
そういうと涼は手を振って廊下に歩いていった。
「なんなんだよ、あいつ……」
「澄ちゃん!」
「って、うおっ!?」
涼と入れ替わるように芹が教室に駆け込んできた。出て行ってからまだ五分くらいしか経ってない。
「早かったな。それでどうだった?」
「もちろん許可もらってきたよ! 澄ちゃんの家で勉強するって言ったらいいよって」
「待て、お前俺の家で勉強するって正直に言ったのか? それほんとに許可出るのかよ」
幼馴染ととはいえ腐っても男の部屋にノコノコ行ってくるといったのだ。常識的に考えて許可など下りるはずがない。
「うん。『天野なら仕方ないし、学校辞めて働くような事態にならない限り問題ない』って」
「おい」
そういう事態想定してるなら止めろよ。いや、そういう事態にするつもりはないけどな!
あと仕方ないってどういうことだ。絶対に手を出さないって信用してるてことか。それはそれで複雑だぞ。男として。
「これで澄ちゃんも納得でしょ。ってあれ、なんでそんな不貞腐れた顔してるの?」
「いや、なんでもない。ちょっとこの学校の人間にどう思われているのか気になっただけだ。男として」
「ん~? よくわかんないけどこれで大丈夫なんだよね」
「あ、ああ。帰ろうか」
そういうと俺は芹と並んで帰路についた。




