① 出会い
春の鶴舞公園は、暖かな日差しが気持ち良かった。
今日は風も穏やかで、散歩には持って来いの日だ。
ボクの自宅は近所なので、週末にはよくここを通って、鶴舞図書館に行く。
その日も、そんないつもの一日が、まさに始まるところだったのだ。
しかし、その公園を、南東から北西に縦断する、散歩コースの途中で、ボクはひと目見て、目が離せなくなるモノに出逢ったのだ。
ソレは、一人の美しい少女だった。まるで、漆塗りの工芸品のように、黒く長い髪。白磁のように、どこまでも白い肌。薔薇の花弁のように、濡れた赤い唇。ただ、今日は日曜日だというのに、何故か彼女はセーラー服を着ている。
彼女は、池の傍の木陰のベンチに腰掛けて、赤いハードカバーの、本を読んで居た。彼女の、現実離れした美しさのせいで、持っている本まで、魔導書に見えて来てしまうから困る。
……ソレはともかく、その余りにも絵になる佇まいに、すっかり心を奪われてしまい、ボクは彼女に一目惚れしてしまった。ボクは、目の前の彼女を、そのまま、額に入れて飾りたい気分だった。
ボクが、彼女の前に通りがかった時、彼女はふと、本を読むのをやめて、ボクの方をチラリと見た。そして……。
「あら、アナタは……。」
彼女は何か言いかけたが、途中で言葉を止めて、本を閉じ、ベンチから立ち上がった。
その瞬間、ボクの身の周りの音が、すっかり聞こえなくなった。辺りを見回すと、ブランコに乗った子どもたちが、空中で斜めになったまま止まっている。
それを見守る母親たち、カメラを構えて鳥を撮る老人、自転車に乗った青年、手を繋いで歩く若いカップル……その他の多くの人々が、ことごとく動きを止めていた。
それはまるで、突然みんなで、"ダルマさんが転んだ"を始めたような光景だった。ボクは何だか、言いようの無い恐怖に襲われた。
「……ゴメンね。今から、ちょっとだけ暴れるわよ?」
彼女は、そんなセリフを呟くと、ベンチの後ろに隠し持っていた、剣を抜いた。ソレは、中世ヨーロッパの騎士が使うような、両刃の剣だった。ソレは刃が金色の、見た事も無いような材質のモノだった。
そして、ソレをボクに向かって……いや、視線はボクの顔より、少しだけ上か?……青眼に構えた。
「……え?」
「動かないで!じっとしてないと、ケガするわよ?」
そう言いながら、彼女はジリジリと、ボクとの間の距離を、詰めて来る。




