3-17
メランダも寝込んじまってる今、とりあえずできること、としてブロンの提案に乗ってみることにした。
魔石を指で挟み、コリコリと転がして粉末状にしていく。
ジャランも真似してコリコリしていたが、「あ、だめ、指痛い、無理」と、今では見学の位置だ。
「こう見られてると落ち着かねえんだけど」
「……魔王殿。これがどんなにか非常識なことなのか、魔王殿自身が知るといい」
「そんなに非常識かな……?」
「非常識も非常識だ。……魔石が砕けるなんて、この目にするまで聞いたこともない」
そんなこと言ってる間に、一山の魔石の砂が出来上がる。
「……次は、これを固める」
「……どうやって?」
「……うむ、そこは余も想像できん。
こう、……手で握ってみる、なんてどうだ?」
「……まあ、やってみるけどよ」
言われたとおり、掌にこんもりと魔石の砂を乗せ、握り込む。ギュウっとな。
「いやこれ、固まらんだろ……でもなんか、スッゲー熱くなったけど」
手を開くと、魔石の砂は砂のまま。そのかわりに少量の煙が立つ。
「え、ハンチョーそれ熱くねえの?」
「いや、熱いって」
「へえ?」
半信半疑という様子でジャランが俺の掌の上の魔石の砂に指を伸ばし——
「うわちゃちゃちゃっ!超熱いっ!なんでこれ手に乗せてられんのっ!?」
「……熱いって言っただろうがよ」
俺の手のひらを見つめるブロンがポソリ
「魔石が強くぶつかり合うと発火する……。
もしかしたらそれの一歩前、……なのかもな」
「あ、それは知ってる。スッゲェ燃えるよなっ!」
エルモアの鉱山消し飛ばしたのも、魔石をぶつけ合わせたボン、を利用したものだしな。……山が消えるとまでは想像してなかったけど。
「つまり、このように細かくなっても、魔石としての特徴は失われていないということ、だな」
「やっぱさ、細かくした方が飲みやすいだろ、くらいにしか思ってなかったけど、正解だったな!魔石丸呑みなんか、飲みにくいもんなっ!飲んだことねえからわかんねえけどっ!」
「それに、治りも早かった気がします。里のゴブリン達がいい例です」
「え、そうなん?ジュークってばよく見てるぅ!さっすが上忍っ!」
「……細かいからこそ、消化が早い、のか?」
「あ!……固める方法、だけどよ。
……M.T.フィールドでギュンってしてみていい?もし、爆発してもM.T.フィールドなら耐えられると思うんだよね。それなら俺も遠慮しないでいいし」
「モルモイで見た、あれか?
あれを、どうやってその、……ギュンをするつもりだ?」
「えっとなあ、M.T.フィールドを玉みたいにするだろ?
……で、魔石の粉入れて、ギュン。……な?」
「あの、魔王殿?
……ちょっとよくわからんが……」
「まあ、論より証拠だよなっ!
とりあえずやってみっから、なんか意見あったら教えてくれよ。ってことで……
ほいっ!M.T.フィールドっ!」
手のひらサイズのM.T.フィールドを両手に出す。
お次は……コイツをお椀みたいに半球状にして……
「よっしゃ、魔石の粉入れてっ!」
「い、いきなりボンってしないよね?」
おっかなびっくりジャランが粉を持ってくる。
「え、それはわかんねえけど」
「ひいぃ、怖いよう」
「うるせえな、早く入れろよ。
最悪、ボンかも知れねえけど、ちゃんと守ってやっから」
「うひいい……」
変な声を出すジャランは、魔石の粉をM.T.フィールドの左のお椀にサラサラっと入れる。
「ボンっ!」
「うぎゃああー!」
「ダハハ!ついついイタズラ心が顔出しちまったい!すまんすまん!」
「んもうっ!ハンチョー、今のは良くないっ!ちびるかと思った!」
「ダハハ、すまねえって。大事の前の小事だ。今からが本番だぜぇ?おかげで心の準備ができたろう?」
「そういやあ、今ので落ち着いた気が……しねえよっ!
びっくりしただけっ!」
「へっへ。
さ、本番だ」
ジャランあたりは逃げるかと思ったが、ジュークと一緒に目の前で座った。
「……あのな」
「班長。
……お側に」
「お、俺はちょっと嫌だけどねっ!」
「ふん、好きにしやがれ」
両手のお椀の口と口を合わせて球体にする。
あとは、全方位から「ギュン」だ。
幸いM.T.フィールドは紫色がかっちゃいるけど半透明。中身の魔石の粉の様子までライブ配信だぜ!
少しずつ球体を狭めていく。内壁は粉でいっぱいになる。
さらに圧縮していく。突然ギュンしたらボンかも知れんから一応ゆっくり、な。
すると、魔石の粉がにわかに光り出した。すわ爆発か、いや、ボンじゃねえ、ビッカーンって感じだ。
ふむ、さらに圧縮。両手にいっぱいほどあった粉は小指の先より小さく圧縮され……突然、光を失う。
「あれ?……失敗……?」
「……よ、よく見せてくれっ!」
「おわっ!あぶねえぞ!ブロンのおっちゃん!」
「こ、これは……!?」
「お、成功?」
「いや、……な、なんだコレは……?」
M.T.フィールドの中で輝きを失った、ちっちぇえビー玉みたいな玉を見て、ブロンの目も丸くなる。
「……魔晶石というものは、大きさの大小はあるものの、五角錐の底面を合わせたような細長い十面体を作る……。
……しかし、コレはなんだ!?完全な球体ではないか!?」
「フィールド、開けてもいい?」
「いいいや、……ちょっと待ってくれっ!一応避難するっ!」
「大袈裟だなあ」
ブロンのおっちゃんが物陰に隠れるの見届けて、ほいっとM.T.フィールドを解く。
ポトリと落ちる丸い玉。表面はツヤっとして綺麗で、赤紫のビー玉みてえだ。
「おおい、爆発はしねえみたいだけどー?」
物陰からひょこと顔を出すブロンのおっちゃん。
「……そのようだな」
膝についた砂をポンポン払いながらお澄まし顔で歩いてくる。
俺は俺でビー玉を拾い上げてみる。熱くもねえ。冷たくもねえ。
なんかやっぱり、小ぶりのビー玉にしか見えねえなぁ。
「なんかよ、このまま飲めそうなサイズ感だな。薬みてえな」
「いや、それこそやめた方がいいだろう。
何が起こるかわからなすぎる」
「そっか」
「しかし、安定しているように見えるな……魔力測定器がないのが惜しまれる」
「魔力チュースイに突っ込んでみりゃわかるんじゃねえか?」
「なるほどな。
たしかに魔力抽出機構ならば、魔力の強弱はわからずとも、ある無しはわかるだろう」
「なるへそ。
魔力があるなら吸えばいいし、ないならないで……ただのビー玉か……。何かに使えりゃいいけど。ぶん投げて武器にするか、転がして遊ぶか……あ、水平かどうか調べるのにも使えるっ!」
「……余としては、しっかり研究したいところではあるが、な」
「あとよ、チュースイにかけるとして、誰が吸うか、だよな。……イチオシは俺」
「仮に、その球体に魔力があったとする。……ネスメランダは、短期間に魔石、魔晶石と続けて使用したからな。……比較対象としても別の者に当てたいところだな。……ちなみに魔王殿は対象外だ」
「……丈夫だよ?」
「そうじゃない。
少なくとも、ネスメランダのように身体の一部を欠損している、という条件が必要だ。……比較の意味がない」
ふうむ、と考え込む。
俺としてはよ、もうちょっと安全かどうかは確証を持ちたいよな。今寝転がってる魔族達はメランダ入れて8人。みんな今すぐにどうこうって傷じゃねえし、そんなリスク、わざわざ背負わなくていいじゃねえか。なあ?
「……ならバ、このヨグをお使いください」
「へっ!?ヨグっ!?」
「このヨグ、つい先ほド、……ちょーっとバかり、平凡なミスをしまシてな。右腕を落としてシマいました」
「はあ!?」
ヨグの右腕は確かに肘上からなかった。
石斧で何回も何回も叩いて切ったような切り口からは鮮血が滴る。
「聞ケば、なにやラ、魔族の失っタ部位を回復させル実験だとか。……このヨグがお役に立ツと思いマしてな」
「おお、最適ではないか!」
ブロンがヨグに肩を貸す。ジュークが即座に間接圧迫で止血を試みる。ジャランがオタオタ動き出す。
「……ジューク、こういう時は、間接圧迫だけじゃダメだ。傷口が大きすぎる。
……こう、するんだよ」
俺は、ヨグのめちゃくちゃな右腕の傷を握る。握り潰さねえ程度に、力いっぱい。
ギチリと音を立てるヨグの、その下がない右上腕。
「ウぅっ!うがぁー!」
「……おいコラヨグ、テメェ、……なんか勘違いしてねえか?」
「……ぐぅ、ワ、私は、……魔王様のためになればト……!」
「……俺が、いつそんな事頼んだよっ!?ああっ!?」
「……!」
ヨグの息は荒い。体がブルブルと震えている。……大きな怪我した時のあれだ、えっと……振戦?
かなり血を流してやがる。体温も低い。……マジでやべえ。……ここはいっちょ、気合いをブチ入れるしかねえな。
「おうコラボケ作っ!こんの、大馬鹿野郎がっ!
後でしっかりぶん殴るからなっ!死んだらぶち殺すぞっ!?わかったかっ!?わかったら返事ぐらいしろってんだよ!」
「……、お、仰せのまマに……!」
「ブロンっ!早く魔力チュースイ持ってきやがれっ!」




