施設ツアー
「トレーニングルームの次に来る機会が多くなる医務室です。こちらが当直医の杉山先生です」
エレベーターで1階に戻り、最初に案内された——連れて行かれたのは医務室だった。
少人数しか滞在しておらず、診療行為は外傷だけという意識からか、見る限り高度な設備ではない。
簡易診療所、もしくは……野戦病院。これが第一印象だ。
サディスティックな意図からか、嬉しそうに微笑む三上教官の言葉に、ブルーの手術着を纏う、軟弱を絵に描いたような男性医師が心得てますよとばかりに軽く会釈する。
「何かあったら相談するようにね」
ひと言も話さず、冷ややかに俺たちを眺める視線は、人ではなく、ただの作業対象を見る目だ。
杉山先生を残し、背筋に冷たいものを感じながら隣の部屋に向かった。
「これから1日の大半を過ごすトレーニングルームです。自主練する時は事前申請するように」
広さは体育館くらいある。
床はグリーンのマットが一面に敷かれ、壁はブルーの柔らかなマットが貼ってある。勢い余ってぶつかっても怪我をしないような配慮だろう。
手前の壁際には棒や木刀が立ててある。
外周に沿って楕円形に白いラインが引かれ、ランニングコースになっている。
奥には4つの扉があり、左から用具倉庫、トレーニングマシーン室とあるが、その右は何も書かれておらず中も見えない。
空き部屋なんだろう。そして最後がシャワー室。
「次は宿舎を案内します。荷物を置いたら食堂で昼食。13時からトレーニングを開始します」
さすがに別フロアだろうと思ったのだが、まさかトレーニングルームの真ん前とは……。
宿舎は全部で5部屋。
総勢7名だから、最後の吉田以外は2人で1部屋。相部屋だ。
俺は青木と同室することになった。
室内はダークグレーに統一され、中途半端な間仕切りと、左右にベッドが1つずつ、書き物机と椅子が1セット、小さなクローゼットが1つずつ。
トイレ、洗面などは宿舎共同になっており、文字通り寝るだけの部屋だ。
終日、このフロアに閉じ込められ、トレーニング三昧になるのか。
考えただけで気が滅入ってくる。
「青木光太郎」
まさにスポーツマンという爽やかな青年が名乗りながら右手を差し出してきた。
「坂崎翔画だ」
青木とガッチリ握手する。
思った以上に握力がある。
クロヒョウを思わせる身のこなしは、空手ではなく、ボクサータイプだな。
そして、これから2週間、共に訓練を励む仲間だ。
「なぁ坂崎さん、あの三上って教官、ヤバくないか?」
「そうだな。あぁ見えて、かなり強いな。適任じゃないのか」
「いや、そうじゃなくてよ。もっと……見てると悪寒が走るっていうか……。まぁいいや。それより飯行こうぜ」
宿舎の隣は、20人ほどで満席になるこじんまりとした殺風景な食堂だ。
ここも娯楽を提供する気は全く無いとみえる。
その代わり、四方の壁にデジタル時計が埋め込まれている。
上段は地球時間、下段はトレーニング開始までのカウントダウンだろうか。
13時までの残り時間が23分と表示されている。
これでは気付かなかったという言い訳なんて出来はしない。
さすがに食事くらいは、さぞかし栄養価に配慮されたメニューが提供されるんだろうと思いきや、現実を見て俺たちは失望に沈んだ。
普段食べてるのと大差ないレトルトカートリッジを調理師タイプのオフィスノイドが盛り付け、高タンパクのプロテインゼリーを添えて提供しているだけだった。
トレイを受け取って席に着くと、残りは18分を切っている。
これでは、のんびり食べてもいられず、雑談する余裕も無い。
「時間ねーじゃん」
誰かが呟く。
これって、あれだ。何とかブートキャンプ……。
俺たちの生活全てがトレーニング中心に組み立てられ、他の楽しみを全て奪い、極限の負荷をかけて限度を超えた成長を求める……たしか、薬剤を併用すると効果が飛躍的に高まると何かで見た覚えがある。
まさか、このランチプレートに薬が仕込まれてるのか?
ゼリーの方か? はたまた水か?
疑心暗鬼で掻き込んだランチプレートは全く美味くなかった。




