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旧市街の逃亡劇

 コツコツ、パタパタと背後から聞こえる足音が狭い路地に反響する。

音だけ聞いていると大勢が背後に迫っているように感じてしまうが、わずか数人だ。


 それでも、大音量で脳内警報が鳴り続けている。

このままではヤバい。命に関わる。



 相手は複数人で武器を隠し持ってるに違いない。

対して俺は、手ぶらだし、今までに喧嘩すらしたことがない。

戦うなんてもってのほかだ。


 落ち着け、俺。

こんな時に焦ったら負けだ。


 俺が水島刑事だったら、いざという時に身体が勝手に動いてくれるんだろうか。

もし、動かなかったら最悪だ。



あー、くそっ!


だめだ。もう逃げるしかない。



走って逃げ出したい本能を抑え込むのが、こんなにも大変だったなんて知らなかった。



 今は、ただの通行人を装って、そのまま路地を歩き続けるしかない。



 裏路地の小さな交差点でカーブミラーをそれとなく見上げると、10mくらい後ろに4人。

いたって普通の格好をしている。


 世紀末の悪党みたいな格好ならひと目で分かるのに。



 次の曲がり角まで30mくらい。

右に折れてシャッター街に出たら、そのまま大通りまで真っ直ぐだ。

振り切るには、このタイミングしかない。



 曲がり角が近付くにつれ、心臓も高鳴る。


 相変わらず一定の距離で足音が聞こえている。

 何食わぬ顔で角を曲がる。


 あともう少し……焦るな……。


今だっ!


 見えなくなった瞬間に猛ダッシュし、あっという間に10mは稼いだ。


 よしっ、逃げ切れる。


 確信があった。




「追え、逃がすなっ!」


 俺が走り出したことにリーダーらしき若い男が気付いて声を上げた。

同時に4人が走って追いかけてくる。


強盗か? 追い剥ぎってやつか?


 俺はスピードを落とすことなくシャッター街に飛び出した。


 昼間から閑散とした新大宮バザールを疾走すると、タタタタッという足音とともに、風圧でシャッターが揺れる音がガタガタと響き、とんでもないスピードで疾走している気がしてくるから不思議だ。


それに、走ると気持ちが落ち着いてくる。

行動すると意識が変わるんだ。



 走り続けて、シャッター街が終わろうとしている辺り、最後の角を曲がれば大通りに出られる。

だが、曲がろうとした先には、3人の若者がたむろしている。

黒の革ジャン、青いパーカー、黄色いトレーナー、いずれも薄汚れている。


革ジャンが俺を見てニヤッと笑った。


くそっ、挟み撃ち狙いか。


 転がっていた空き缶を蹴飛ばしながら、手前の角を左に折れる。

路地にカランカランと、けたたましい音が響いた。


間違いなく、追い込まれてる。


とにかく大通りに出なくては。


 追手が路地に入ってくる前に右折し、すぐ横の低いブロック塀をベリーロールの要領で乗り越え民家の庭に降り立った。

受け身を取ってくるっと回転すると、そのまま立ち上がって庭を突っ切り、建物を回り込んで裏口へと走る。


 裏口から路地に出ず、そのまま隣家の塀を越える。


 あれ? 想像以上に走れるし身体もついてくる。


 これなら、まだまだ行ける。



 ふと上を見上げると、電柱に街灯と並んで監視カメラが設置されている。

カメラ首を振り、俺を追尾している様が見て取れる。


だとしたら、この先で待ち伏せされてるのか?


 門扉から飛び出すと、速度を上げて路地を駆け抜け、適当な路地に入り込んだ。もう、どっちに向かっているのか分からない。


「いたぞ!」


通り過ぎた路地の右手から声が聞こえた。


 右の塀を越えて民家に入り、庭を突っ切って次の路地に飛び出した。

男たちは俺の意表を突いた逃走に翻弄(ほんろう)されているようだ。



俺は逃げ馴れてるかもしれない。




 そう思ったのもつかの間、前後の路地を2人ずつに押さえられ、逃げ道がなくなった。

さっきのパーカーとトレーナーが前、後ろは紺のジャージと黒のジャージだ。


 肩で息をする若者たちが、じりじりと距離を詰めてくる。

俺も多少は息が上がったが、まだ大丈夫だ。


「お、おい。もう、逃げ、られないぞ」


「俺に、なにか用か?」


 よし。落ち着いた声で返すことが出来た。

ナメられたら勢いづかせることになる。


「ふざけんな! 忘れたとは言わせねぇぞ」


パーカーが吠えるが、俺が知るわけがない。


「何の話だ?」


「オトシマエつけろって言ってんだよ」


黒ジャージが凄んで見せる。


くそっ、なんてこった。

水島刑事の有名税を俺に払えって言ってるのか。


「だから、お前たちのことは知らない。初対面だろ?」


「ふざけんな。口から出まかせ言いやがって、ムカつくぜ」


「なぁ、もう、ヤっちまっていいんじゃねぇか?」

「あぁ、そうだぜ。ヤっちまおうぜ」


ジャージ2人組は気が短い。


 紺ジャージがポケットからナイフを取り出す。

刃渡り15cmくらいの小さなものだが、十分に殺傷能力はある。


 トレーナーは腰から下げていた伸縮式の警棒を取り出した。

強く振ると伸びるアレだ。潰れた雑貨店から盗んできたんだろう。


だが、そんなこと考えてる場合じゃない。


4人がじりじりと距離を詰め始めた。このままじゃまずい。


 塀を背に左右2人ずつを相手に出来るか。

いや、無理だ。


「やっと追い付いた。手間かけさせやがって」


シャッター街で待ち伏せていた革ジャンが追い付いて早々に吐き捨てる。


後を追っていた2人も追い付いた。

全部で7人。


万事休すだ。


だが、無抵抗でやられるのはもっと嫌だ。



腹を括るしかない。




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