自由25
ベランダでヴァルト王子が馬車に乗って去っていく姿を見送った後、客間から出て、キースさんのいる部屋に向かった。
「今のは一体、何なんですか!? それとさっきの王子の事も! それにキースさんは一体何者なんですか!」
「おやおや、そんな質問攻めにしないでください。一つづつ答えますから」
私の怒涛の質問攻めにキースさんは苦笑を浮かべている。
「すみません。では、まず、さっきの話はどういうことなんですか? ヘンリー王子が亡くなったということですが」
「それについては、私も驚きましたけど、ヘンリー王子は元からヴァルト様に疎まれていたらしいようですね。それで、丁度良い機会だということで亡くなって貰ったのでしょう」
「亡くなって貰ったって……殺したってことじゃないですか……」
「まぁ、確かにその通りですね。でも、ヴァルト王子からは金も散財するし、王族の威信も弱くなる。なにより、民衆からの支持を得られないと。悪い点しかなかったわけですね。なので、殺したってことでしょう」
「そうですか。王族の暗い部分を見てしまったみたいですね」
「はははっ! そうですね。でも、良かったじゃないですか。ヘンリー王子は亡くなった事になりましたし、緘口令も布かれます。つまり、今日のオークション会場の出来事は表面上は無かった事になったのです。アランさん達の罪も不問となったわけですね。いや、本当に良かった」
何事もなかったかのように笑うキースさん。肝が太すぎませんかねぇ。
こちとら、ヘンリー王子が亡くなったという事実に驚いたと思ったら、ヴァルト王子からあれは殺したと言われて開いた口が塞がらない状態ですよ。
「まぁ、罪が不問になったことは素直にありがたいです。これで、街中で歩いてても捕まる心配はありませんしね」
「そうです。それで良いじゃないですか。深く考える事はないですよ」
「いやいや、ヴァルト王子に借りを作ってしまった。という事実が残っているんですが……そもそもヴァルト王子はどのような人物なんですか?」
「そうですね。ヴァルト王子は王位継承権第二位のお方です。上にテオドール王子がいます。そちらは王位継承権第一位の方ですね。彼ら二人は王位継承権の争いはせずにテオドール王子が次の国王になる事が決まっています。二人は腹違いなのですが、仲が良く国民からの支持も厚い。民衆を思っての政治を心掛けていたりと、とても好感の持てる方です」
とても好感の持てる方と言う言葉に引っかかる。
先ほどのヴァルト王子は明らかに悪役のような面構えだったような気がするんですけど。
「とても好感の持てる方……ですか」
「ええ、ヘンリー王子に比べたら万倍マシというものです。ヴァルト王子は兄のテオドール王子の邪魔になる存在を消す事に躊躇しない。分かりやすい性格の持ち主です。実質的に軍を掌握しておりますし、武の心得もかなりあるとの事です」
それは邪魔になる存在になったら簡単に殺されるということではないのだろうか。
まぁ、この国を陥れるような事は絶対にしないけどさ。
理由もないし。
「まぁ、分かりました。とりあえず、良い機会だからヘンリー王子を殺して、幼龍を討伐した私に恩を着せたとそう言うことですね」
「その通りです。あなたは堂々としていれば良い。幼龍を討伐した英雄として、ね。また、なにか用があったら私かそれともあなたに直接話が行くでしょう。私としても、アランさんのおかげでヴァルト王子と繋がりが強くなったので、願ったり叶ったりと言った所です。ありがとうございます」
ははは……キースさんもタダじゃ転ばない性格してる。良い性格してるよほんとに。
ヴァルト王子とのパイプを強くするために私をダシにしたってことだろうに。
「とりあえず、これで二つの疑問は解けたましたかな」
「ええ、そうですね」
さっきのオークション会場での一件。
ヘンリー王子が亡くなった件。
それにヴァルト王子について。
これについては分かった気がする。
「最後に、私の事でしたが、大したことはありません。偶々、私どもの奴隷をヘンリー王子が購入して王族とのパイプが出来ました。それで、ヴァルト王子とも面識を得たというわけです。あとは、アランさんもご存知の通り、アランさんに護衛を頼み、リリィを買った。ただそれだけの商人です。まぁ、幼龍を討伐した英雄と懇意にしているっていう点は魅力ですね。これが、青田買いというものでしょうか。これから名が売れそうですしね」
「キースさんには敵いませんね。まぁ、良いです。幼龍を討伐にも促された気がして気が気じゃないですが」
「そこまで疑いますか? 確かに、それくらいしないとヘンリー王子には勝てないと思ってましたが、正直、本当に討伐するとは思ってませんでしたからね」
「そうですか。まぁ、なら良いです」
「とりあえず、明日から外に出ても問題はありませんよ。良かったですね本当に」
「はい。それについては少しやりたい事があったので本当に助かります」
「ほぅ、それはなんですか?」
キースさんの目が細くなる。
得物を狙う鷹のような目だ。
商人ってのは怖いな。
「そんな大したことではありませんよ。――」
「なるほど。あなたは本当に面白い方だ。これからも困ったことがあったらここに来てください。英雄にはどんな些細な事でも支援しましょう」
話をすると、キースさんはにこやかに笑った。
それにしても面白いのだろうか。
そんなに面白い事は言ったつもりはないんだけどなぁ。
「恐縮ですね。でも、その機会は多いと思いますので宜しくお願い致します」
「ええ、こちらこそ。では、食事にしましょうか」
「はい。そうですね」
次の日、キースさんの屋敷をリリィの手を引いて外に出る。
「お兄ちゃん。外に出ても大丈夫なの?」
「ああ、もう大丈夫だよ」
リリィは昨日追っかけられたことを思い出しているようだ。
外にでるのもおっかなびっくりの様子だ。
今日のリリィの服装は白と赤のエプロンドレスに赤いフードを着た赤ずきんちゃんの恰好だ。
エルフは耳が尖っているのでそれがバレたら直ぐに人とは違うと思われてしまう。
そのための赤いフードだ。
だけど、そこから覗く、金髪のツインテールがふさふさと揺れる様はとても可愛らしい。
「今日もリリィは可愛いね」
「お、お兄ちゃん。いきなりはダメ!」
リリィは顔を赤くしてフードを深く被って顔を隠す。
とても愛らしい姿だ。
「はははっとりあえず、行こうか」
「お兄ちゃん。今日はどこいくの?」
「それは秘密さ。着いてからのお楽しみだよ」
そうして歩く。十字路の大通りに出ると、人の多さにリリィはびっくりしているようだ。
私はその一角のペンと剣をモチーフにした看板の建物に入る。
中は、早朝にしてはかなり騒々しい。
依頼ボードを多くの人が見ては自分に見合ったものを見つけようと血眼になっているようだった。
私達はそこを通って、受付に向かう。
いつも通り、ノインさんの場所には誰もいない。
こんなに混んでるんだから、別に気にしなくてもいいような気がするんだけどな。
それだけ、獣人族は差別の対象なんだろうか。
耳も尻尾も可愛らしいけどな。
まぁ、良いか。
「やぁ、ノインさん。おはようございます。いつも通り人がいないですね」
「ああ、アランかおはよう。一言多いっての」
「で? 今日はなんの用だい?」
「要件は隣のリリィについてですよ」
「隣の可愛らしいお嬢ちゃんか。よろしくね」
「よろしく」
「なんだいこの可愛い子は! お人形さんみたいじゃないか!」
「はははっ! そうですけど。とりあえず、この子に冒険者証を作ってあげてください」
「え? 冒険者証? お兄ちゃん?」
リリィは困惑しているようだ。
「あいよ。じゃあこの羊皮紙に書いてね」
それを私が受け取って、必要項目を書いていく。
「はい。出来ましたよ」
「よし。んじゃ、これでっと完成だ。お嬢ちゃん。失くさないようにね」
リリィはそのカードを両手で受け取って、天高く掲げて目を輝かせた。
「うわぁー!」
「リリィ」
「なに? お兄ちゃん」
私は昨日から考えていた言葉を言う。
「はじめまして、冒険者のリリィさん」
そう言うと、彼女は大粒の涙を流しながら答える。
「はじめまして! お兄ちゃん!」
この日、少女は奴隷ではなく冒険者としてはじめて私と出会った。
――さようなら はじめまして――




