自由13
「落ち着いて下さい。一応、話だけでも聴きましょう」
「はい。実は、龍退治の依頼は半年前くらいから依頼を出していたのです。ですが、誰も受ける冒険者はおらず、村の家畜や人を二、三ヶ月に一回攫って行ってしまうのです」
「あー……」
頭を抱える。これって、塩漬け依頼にされてた幼龍退治か。未だに残っていたのか。
確か、B+からA-の依頼に指定されていたよね。
こんなの自分の実力でどうこうできるものでもない。
はっきり言って無理だ。
「今は、冬だからなのか襲う頻度も少なくなっておりますので、なんとか冬越えはできそうですが、これからまた活発に動き始めたらこの村は近いうちに滅んでしまうでしょう! ですから、お願いです! どうか冒険者様。私達を助けると思って!」
「いえ、私は今護衛の依頼をしている最中なので、龍退治はできません」
きっぱりと断ると、村長はがっくしと肩を落とす。
「まぁ、無駄だとは思いますが、私の依頼主のキースさんに頼んでみたらどうですか? 私の実力じゃあ倒せないでしょうけどね」
そう聴くと、キースさんの方向に向かって村長は駆け出していく。
話の早い人だなぁ。
まぁ、それだけこの村がピンチなんだろうけどね。
でも、私一人じゃできないだろうし仕方ないか。
裾を引かれる。
「あれで良かったの?」
リリィが尋ねてくる。でも、実力不足は本当だし、今はリリィの護衛だ。それを放棄して違う依頼なんて出来っこない。
「今はリリィの護衛だからね。それに、私に龍を退治できるほどの腕はないよ」
「そっか。お兄ちゃんはリリィの護衛だもんね。しょうがないね」
リリィは嬉しそうだ。
あれから、少し落ち込んでいたけど、持ち直したようだ。
時折、笑顔を見せてくれることも多くなった。
冒険者になれなかった一件は、まだ彼女の中に残っているかもしれないが、傷は少し癒えたのかもしれない。
前方の馬車の方で村長とキースさんがやり取りしている。
村長さんは何度も頭を下げているが、キースさんは取り合おうとしない。
暖簾に腕押し。この様子ならこの話はなかったことになるだろうな。
キースさんがこっちに向かって来る。
「お疲れ様です。キースさん」
「ええ、まさか龍退治を依頼されるとは思ってもいませんでした。でもまぁ、その村長も帰しました。首都に着いたら、知り合いの冒険者に掛け合ってみると言ったら、下がってくれましたよ」
「そうでしたか。まぁ、退治を受けても私一人じゃ倒せる訳もないですけどね」
「龍というのは10から20人の大規模で狩るような魔物です。私達だけで倒すなんて到底無理な話ですね」
「そうですね」
「では、宿屋に行きましょう」
宿屋に行って、一泊だけ取ることにした。
このまま、この村にいても村長に泣きつかれるか龍に襲われるかもしれない。
それなら、直ぐに出発しようということだ。
この村には悪いが、それが一番最善だろう。
なにせ、商人なのだ。そんな利の無い事に慈善事業みたく参加するなんてもっての外だろうしね。
当然のように、リリィと一緒の部屋になり、リリィと一緒に部屋に入る。
背嚢を下ろして、肩を回す。
やはり馬車の生活というのは窮屈なものだ。
楽って言ったら楽なんだけどね。ただ、長時間の間、揺れる馬車に座っているとお尻が痛くなる。そう思うと、リリィは痛いとは一言も言わないので、偉い。
慣れてしまったのだろうか。
時刻は夕刻だ。リリィと手を繋いで食堂に向かって、夕食を頼む。
黒パンに干し肉と芋のスープだけだった。
うわぁ……この食事を見るだけで、村の生活がカツカツなのが目に見える。
「頂きます」
リリィは文句を一つも言わずに食べている。
そうだな。気にしないで食べよう。どうせ、明日の朝には首都に向かうんだしね。
「頂きます」
手を合わせて食事を取る。直ぐに食べ終わってしまったので、リリィの食べ終わるのを待つ。
相変わらず、小動物みたいに食べる姿は可愛い。
思わず、頬を押してみたくなる。
「お兄ちゃん。なんか恥ずかしい」
リリィが顔を赤くしながら戸惑っている。
「ごめんごめん。気にしないで食べてよ」
「気になる……」
まぁ、嫌な事は忘れよう。今はリリィを愛でるのだ。
食事後、お湯を桶に貰ったので、布でリリィの髪を梳いて、背中を洗う。
リリィも前は自分で洗っている。
「リリィ。もう洗い終わったかい?」
「うん。終わった」
この光景にも慣れたな。いや、流石に後ろ姿だけだけどさ。
魅惑のお尻はあまり見ないようにしながら慎重に洗うことに気を付ければそんな問題はない。
「じゃあ、自分を洗うとしよう」
「リリィも手伝う」
「じゃあ、背中をお願いね」
「うん。わかった」
髪を梳いて、顔から腕、腹に下半身と洗っていく。
リリィは一生懸命に背中を洗っている。
「お兄ちゃんの背中おっきいね」
「まぁ、大人だからね」
「おっきくとゴツゴツしてる」
「少しは筋肉もついたからかな?」
そうして、体を拭いて、二人でベッドに入る。
今日もリリィは手を離さないでくっついてくる。
「お兄ちゃんは首都までの護衛なんだよね?」
「うん。そうだね。だから、あと四日かな」
「そっか。じゃあ、もうお兄ちゃんとは会えないの?」
「そんな事ないさ。何か理由をつけてキースさんに会えるようにお願いしてみるよ」
「ほんと? なら嬉しいな」
頭を撫でる。リリィはこうするともっとしてと言うように頭を擦り付けてくる。
あと、四日で首都か。
首都に着くころには冬は終わって春になるだろう。
そうしたら、この護衛の仕事ももう終わり。
リリィに会えるようになんとかキースさんに頼んでみるつもりだけど、大丈夫だろうか。
まぁ、そんな邪険には扱われないだろう。
リリィの寝息が聴こえる。もう眠ってしまったのだろう。
私も少しして直ぐに眠ってしまった。
明けて、早朝。
宿屋で侘しい朝食を食べた後、馬車に乗って首都に向かう。
村長さんは最後までキースさんにお願いをしていたようだ。
だが、それも馬車が走ってしまえば終わりだ。
無情にもこの村を去っていく。
本当の主人公や英雄なら、ここで龍を退治するんだろうけど、そんな人なんて誰もいない。
この世界は自分たちの生活で精一杯なのだ。
そこに、誰かの為に全てを投げ出すような英雄なんて誰もいない。
それはお伽噺の世界の話だ。
この村は春になって、冬眠から目覚めた龍にいつか襲われるのだろう。
家畜や人は食われて、村は無くなってしまうかもしれない。
でも、それはここに残るという選択をした村人がしたことだ。
私たちがどうこういうことじゃない。
だってそうだろう? 私は英雄ではないんだから。




