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さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第三部 自由
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自由12

リリィを止めるか迷う。冒険者ギルドで働いていた手前、冒険者になるための条件というのは知っている。

ただ、奴隷じゃない事。それだけだ。

奴隷は誰かの所有物であり、人としては認められていない。

だから、奴隷は冒険者にはなれないのだ。


「リリィ。ダメだよ。キースさんの許可なく冒険者にはなれないよ」


当たり障りのない言葉で傷つけないように慎重に言葉を選ぶ。


「……キースの許可がないと冒険者にはなれないの?」


「そうだよ。リリィはまずキースに許可を貰わないといけないんだ」


「……そっか。分かった」


「お嬢ちゃんは奴隷なのかな?」


受付嬢さんはリリィに尋ねる。それは、私にとって一番行って欲しくない言葉だ。


「うん。そうだよ」


「じゃあ、冒険者になりたいならご主人様に聴いてみると良いよ」


「分かった」


それ以上、受付嬢さんは何も言わない。多分、受付嬢さんもリリィが奴隷であることが分かったのだろう。

なので、否定はせずに遠回しに答えている。


「さっ、リリィ行こう。今日はいっぱい歩き回ったし、疲れただろう? 今日はもう帰って夕食を食べようよ」


「うん」


リリィは少し項垂れながらとぼとぼと歩いてきて、手を握ってくる。

私はリリィを引いて冒険者ギルドを後にした。



それから、リリィと二人で夕食を取ってから、二人で風呂に入る。

流石に一日前とは違って少し余裕は出来ていた。


「ふー……」


「……ん」


リリィは浴槽の中で私の膝の上に座って足を伸ばしている。

今日は色々町を練り歩いたので疲れた。

なので、熱い湯が体に染みる。

沈黙が辺りを支配している。



 あれから、リリィは少し気落ちしてしまったようだ。

冒険者には簡単になれると思っていたところで、引き留められてしまったので、思うところがあるのだろう。

多分、考えている事は分かる。

でも、その答えに私は答えられる自信はない。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「なんだい。リリィ」


次の言葉が私には分かった。それだけ、リリィはあれから悩んでいたのだろうから。


「奴隷は冒険者にはなれないの?」


どう答えれば良いのだろうか。リリィを傷つけない言葉が出てこない。

素直に言ってしまった方が良いのだろうか。

リリィの握る手が強くなる。


「リリィ。……リリィは冒険者にはなれないんだ」


言ってしまった。彼女を傷つけてしまうかもしれないが、言葉が出てしまった。


「そっか」


「うん」


「やっぱり奴隷だから冒険者にはなれないの?」


「そうだね。奴隷は冒険者にはなれないんだ」


「……奴隷は自由にはなれないんだね」


そんな事はないさ! と強く言いたかった。

でも、私にはその言葉を言えるほど権力も強さもなかった。


「…………」


「お兄ちゃんは優しいね」


そんなはずはない。私はちっぽけで、惨めだ。

物語の主人公のようにリリィを救う事も出来ない。

ただの冒険者でただの護衛だ。


私に力があれば、金があればリリィを救う事も出来るかもしれないのに。

そんな事は天地がひっくり返っても出来ない。


「さぁ、そろそろ出ようか」


「うん」


リリィと共に風呂場を後にする。体を拭いて寝間着に着替えて、就寝の準備をしたら二人してベッドに入った。


リリィは手をずっと離さない。

まるで、離してしまったらもう二度と会えないかのように。

きつくしっかりと握る。


「お兄ちゃん。リリィね。奴隷じゃなかったら、お兄ちゃんと家族になりたかったな」


蒼い瞳が私の目を捕らえる。瞳は潤んでいて、悲しんでいるように見えた。


「私も、リリィみたいな子が家族にいたら凄く嬉しかったな」


「ほんと?」


「うん。そうさ」


「えへへ、嬉しいな」


リリィの頭を撫でる。

それが、例え叶う可能性がないものだとしても、せめて今だけでも家族のようにリリィを慰めたい。


撫で続けていると、リリィから寝息が聴こえてくる。

私は彼女の顔を見て、瞳から零れる涙を掬う。


せめて、夢の中だけでも自由であって欲しい。

ただ、それだけを祈って私は彼女の頭を撫で続けた。




 二日後の早朝。

キースさんと使用人さんが馬車の用意をしている。

私とリリィは既に馬車の中に入っている。

馬車の中は当然、私とリリィの二人だけ。他には従者しかいない。


「この町ともお別れか。なんか寂しいな」


この町の温泉はとても良かった。久々に湯に浸かれたというのもあるし、リリィの衣装も買えたし、お揃いのおもちゃの指輪も買った。

悪い事もあったけど、思い出が詰まった良い町だった。

とても名残惜しい。


「うん。そうだね」


リリィは私の買ったエプロンドレスに赤いフードを着ている。

見た目は赤ずきんだ。

あれから、リリィは私の買った服を好んで着ていた。

私としても、リリィが喜んでくれているならとても嬉しい。

最初に見たゴスロリ衣装もリリィには似合っていたが、今の恰好も子供らしい可愛らしさが出ていて良いと思う。

ツインテールがフードから揺れていて魅力的だ。

我ながら良いチョイスだなと思った。



これから、一ヶ月半かけて隣の村について、その後に四日で首都に着く。


その間に何もない事を祈るばかりだ。




旅は順調だ。馬車の中は飽きてしまうが、リリィに色々な話を聴かせて、先を急ぐ。

リリィには現代日本の話も良くした。


魚や海の動物が沢山いる水族館の話をすると、「見てみたい!」と言い、

遊園地の話をすれば「面白そう」と目を輝かせる。

他にも現代日本の話をすれば、余り理解はしていないが、行ってみたい。楽しそうと喜んでくれた。




一ヶ月半が経った。冬の寒さが和らぎ、春が近づいてきている。

ついに隣村に着いた。隣村についたは良いが、なぜか活気はない。

村自体の人々が沈んでいるように見える。


宿屋について、馬車を下りる。


「冒険者様ですか!?」


ふと、声を掛けられる。そこには、50代のお年を召した男性がいた。


「はい? 一応、冒険者ですけど」


それを聴くと、男性は自分の目に狂いはなかったと言って続いて言葉を話す。


「私はこの村の村長をしている。ノマと言います」


「はい。私は冒険者のアランです」


「アランさん! お願いがあります! 龍を退治して欲しいのです!」


村長は私の両肩を掴んで懇願する。龍を退治する? 何を言っているんだ?


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