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さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第二部 羨望
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羨望11

今年は有難うございました。

来年も宜しくお願い致します。


「こうやって森の中で猟師をやって生活していると思うんだ。ああ、僕たちは森に生かされているんだなってさ」


「森に生かされている、か。私もまだ、そんなに猟っていうのを分かってはいないけど、こうして、獣を狩って、その肉を食べる。こういう風に生活をしていると、生きるって凄いんだなぁって思ったよ。なんか言葉には出てこないんだけどさ。なんか、生きるって凄いことなんだなって」


「ははは、そうだね。猪や鹿は森の恵みを食べて育ち、人は猪や鹿を狩って食べる。そして、死骸は森の養分となって恵みを作り循環していくんだ」


現代の日本人で生活していた頃なんて、こんなこと絶対に思わなかったなぁ。肉や魚、果物なんてスーパーや商店街で売っているのが当たり前で、それを育てたり、狩ったり、獲ったりっていう苦労なんてみじんも感じられなかった。


だけど、この世界に来て食べ物を当たり前に食べられる有難さに気づいた。

この世界では時には食べたくても食べられない時や、冬越えのために食料を食べるのを我慢したりとお腹一杯食べられる事なんて、当たり前に出来ることじゃないんだ。


日本で生活していた頃、食べ物を食べる時に頂きますって言って食べていたけど、それは本当に大事な事なんだなってつくづく思う。


頂きますって言葉は、命を頂くっていう言葉以外にも、肉を獲ってくれた人、魚を獲ってくれた人、食物を育ててくれた人みんなへの感謝を込めて言う大切な言葉なんだ。


「現代じゃこんなこと全然分からなかったなぁ」


「え? 現代? なんのこと?」


ジャックに私の呟きが聴こえていたようだ。少し恥ずかしい。


「いや、なんでもない。忘れてよ」


「えー、気になるじゃないか」


「良いじゃないか。それよりも、もっと肉をくれよ」


「もう、分かったよ」


その後、食事を再開して食べ終わった頃。ジャックはもう寝ている。起きているのは私だけだ。

私はこの世界の事を想った。

この世界は変だ。

魔法とか言う変な物はあるし、魔物はいる。

危険は至る所にあって、命の軽さなんてそれは飛んでもなく軽い。

道端で死ぬ事だって、魔物に襲われて死ぬ事だってあるだろう。

時にはお金が無くて餓死することもあるかもしれない。


そんな変な世界で、私はなんとか生活が出来るようになっていた。

それは最初は大変だった。だけど、次第に慣れていって、剣技も習得したし、魔闘気も習得した。

路銀を一人で稼いで、一人前の冒険者として生活出来るようにもなった。


でも――独りは


「――とっても寂しいな」


この世界に慣れるに一方で、妻がいないこの世界が、現代の日本の事がとても恋しくなる。


 君がいないこの世界はとても――

――寂しくて

――辛くて

――悲しい


凄く、君の事が恋しい。出来るなら早く現代の日本に戻りたい。


「どんな手でも戻ってみせるさ」


やり方なんて分からない。手がかりなんて何もない。

でも、絶対にやってやる。諦めることなんてしたくない。


 ねぇ、名前も思い出せない私の大切な人。

君もこの夜空の月を見ているのかな。同じ月を見ているなら嬉しいな。

それが、例え違う世界だとしても。


君はどう思っているのかな。

私がいなくなってから、悲しんでいるのかな。

そうだったら嬉しいな。


この世界はとても生き辛くて、そしてなにより心細いんだ。

独りはもう嫌だ。とっても心が痛いんだ。

会いたい。


君もそう想ってくれているなら、良いんだけど。


私の勝手な妄想かもしれないね。


 私は日課の剣技と魔闘気の鍛錬をしてから身体を布で拭く。

寝床に着いて横になると直ぐに眠気が襲って来る。

疲労感と魔力切れの両方の眠気に身を任せて私は目を瞑った。


「せめて、君の名前だけでも――」


――思い出せたら良いのに。


その言葉は口に出す前に泡沫のように消えていった。



 明けて、森に入って3日目だ。もう、合計で6日も森で狩りをしていることに気づいた。

それに、休みの1日も入れたら一週間も経ってしまったようだ。

なんだか、慣れたのかもしれないけど時間が経つのが早いなぁと思った。

しかも、休みの1日はゴブリンの巣穴を見つけて、潰すとかいう全く休みになってない行動をしている。私は一体いつからバトルジャンキーになったのやら……。


 ジャックと二人で焚火に当たりながら冷めた体を温めつつ、スープを飲む。体の芯まで温まる。


「アラン。今日はもう帰ろうか」


「ん? 良いのかい?」


「うん。残してきたエリシャの事と熊の事も気になるし、猪の解体も家でやりたいんだ。毛皮の鞣しもしなきゃいけないから、正直、時間が足りないくらいだよ」


「そっか。まぁ、嬉しい悲鳴ってやつなのかな?」


「そうだね。それに、多く得物を狩猟してもそれはそれで来年の冬が厳しくなるからね。僕たちは冬を超えられる量の得物が取れればそれで良いんだ」


確かに、獣を狩りすぎて次の年は捕れませんでしたじゃどうしようもないしな。捕りすぎてもいけないし、かといって捕れなさすぎるのも問題がある。

それのバランスが難しいんだろうけど。


「じゃあ、猪の肉を持って帰ろうか」


ジャックの言葉に頷いて、食事を取り終えて、荷物を纏める。

川に冷やしてある猪は内臓が無くなるとかなり萎んで見えた。

それを木片に吊るしてジャックと私の二人で持って村まで進む。


足早に進むと、昼前には村に戻れた。

戻って、村をジャックの家まで進むとまた歓声が上がる。

そりゃあ、猪1匹に熊1匹と鹿2匹だ。

2回目の猟でこれだけ獲れれば、みんな驚くだろう。


 ジャックの家まで行くとエリシャさんが扉の前で待っていた。


「おかえりなさい! ジャック! アランさん!」


「ただいま。エリシャ。熊の解体はどうなってる?」


「もう、解体も終わって毛皮も鞣しているところよ。胆嚢もちゃんと破れずに取れたわ」


「そうか。流石、エリシャだね。偉い偉い」


そう言って、ジャックはエリシャさんの頭を撫でる。エリシャさんも「頭がくしゃくしゃになっちゃうでしょー」と言いつつもされるがままになっている。

本当に仲の良い夫婦だ。


「とりあえず、猪を置かないかい?」


「あ、そうだね!」


猪の肉を庭先の物干し台に吊るす。


「いや、恥ずかしい所を見せちゃったね」


照れくさそうにジャックは言う。いやほんと、見ているこっちが恥ずかしくなるラブラブっぷりですよね。


「そうだね。でも、良いじゃないか。夫婦仲が良い事は一番重要なんだから」


「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいな」


「他に、なにかやることはあるかい?」


「いや、アランがやることはもうないかな。あとは僕たちの仕事だからアランの仕事は終わりだね。今回もありがとうアラン。君のおかげで、大成功だよ」


「いやいや、そんな事ないって」


「そんな事あるさ! 熊が出てきたときなんか僕、死んだと思ったからね。アランがいて良かったよ。本当にさ」


「そう言ってもらえると、護衛冥利に尽きるかな」


「うん。じゃあ、明日はお休みで、申し訳ないけど明後日もお休みで良いかな?」


「うん? 分かったけど、なんかあるのかい?」


ジャックがモジモジしている。男がやっても可愛くないぞ。男ならシャキッとしろ。


「明後日はエリシャの誕生日なんだ。だから……さ」


「あぁー……なるほどね。それなら先に言ってくれれば良いのに」


「まぁ、そうなんだけどさ。とりあえず! そういうことだから3日目からまた狩をしに行こう!」


「わかった。それじゃあ、また」


「うん。またね。アラン」


「アランさん! ジャックをどうもありがとうございました! また、宜しくお願いします」


ジャックとエリシャの二人の声を背にジャックの家を去る。

正直に言って、彼達の姿は私には眩しい。早々に立ち去るのだった。

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