羨望10
二日目。朝に目を覚ますと、ジャックが焚火の前で鍋をかき混ぜていた。私は寝床から起き上がり、ジャックの対面に座って「おはよう」と挨拶する。ジャックも「おはよう」と挨拶を返してきて、お椀に鍋の中身のスープを渡してくる。
「ありがとう。ジャック」
干し肉のスープを飲みながら返事を返した。ジャックはその声に頷く。
「そういえば、アラン。昨日の熊なんだけど100kgくらいはある大物だったよ」
「へぇ、そうだったんだ。100kgって言ったら持って帰るのも一苦労だね」
「ははは、そうだね。んで、今日なんだけど、流石に罠を見に行く前に熊を村に持ち帰りたいんだ。他に得物も捕らえてたら、持ち帰るのも大変だしね」
「そうか。確かにそうだね。ちなみに解体とかもしていくの?」
「いや、それは村に帰ってからエリシャに任せようと思うんだ。それで、罠を設置したところに戻って確認したいんだよね」
「え! エリシャさんって解体出来るの?」
「うん。鹿とか猪なら解体したことはあるよ。流石に熊はないけど。多分、出来ると思うんだ」
流石、猟師の妻。エリシャさん凄いな。女性だから解体とかできないのかと思ったけど、そんなことないみたいだ。この世界の住人はやっぱりパワフルだな。
「わかった。じゃあ、食べたら熊を持ってこうか」
了承の旨を伝えて、お椀の中身を一気に飲み干す。荷下ろしした荷物はまた戻ってくるから持って帰らなくていいな。よし、熊を持って帰るだけだ。
二人して熊を両脇に抱えて森の中を戻る。熊の体重は100kgくらいと言っていたので、かなり重い。魔闘気で強化しながら森の中を進む。ジャックの方が魔闘気を使えないので大変そうだ。
引きずるようにずるずると森の中を進んで、昼頃にやっと森に着いた。
村に入ると、村人は熊の姿に驚いて、喜んでいた。ジャックや私に感謝の言葉を浴びせながら私たちはジャックの家の前に向かう。
エイシャさんは村人の騒ぎ用から帰って来たのに気づいていたようで家の前で待っていた。
「おかえりなさい! ジャック! アランさん!」
天真爛漫な笑顔に癒される。
「ああ、戻ったよエリシャ。早速で悪いんだけど、熊の解体をお願いしても良いかな?」
「え、でも、私は熊の解体はやったことないけど……」
「大丈夫。出来るさ。一応、ある程度、重要な事は教えるからやってみて」
「うん! わかった」
彼女が頷いた所で、大きな木の板を持ってきてもらってその上に熊を下ろす。
ジャックとエリシャさんはエリシャさん主導で解体を行いながら、ジャックが教えているようだ。
30分くらい経ったところでジャックがこちらに戻ってくる。
「もう、良いのかい?」
「ええ、エリシャにはもう教えました。熊の胆嚢が重要なくらいでそれ以外は鹿とか猪の解体と同じだからね」
遠目に見ると、真剣に剣鉈を片手に解体をしているエリシャさんを見る。
まぁ、大丈夫そうか。
「じゃあ、罠を設置したところまで戻ろうか」
「うん。そうだね」
来た道を戻り、川に向かう。荷物は無くなったので、進む足は速い。ものの2時間程で、川に戻ると、川を越えて森の奥深くに向かう。
罠を設置したところまで着いた頃には夕暮れが顔を覗かせていた。
もうこんな時間になってしまったか。
早く確認だけ済ませてしまおう。
1つ目にしかけたヌタ場の周辺にかけた罠を見る。
そこには木の実やどんぐりが食べられた後はあったが、得物は引っかかってなかった。
「餌だけ食べられてしてやられたってとこかな」
「ははは、こんなもんですよ。罠猟ってのは化かし化かしあいですから。より上手く隠せた方が勝つんです。さっ次に向かいましょう」
2つ目の罠は木の幹に泥が付いていた場所だ。
直ぐに到着するが、得物は見つからない。ここも食べられた後だけだ。
なんか悔しいなあ。
3つ目の罠の所に着くとなにか大きな質量が掛かっているのが見えた。
猪だ。丸々太った猪は結構な巨体に見えた。
「おー猪がいた!」
「アランさん! 危ないから気を付けて! 猪の突進は牙も鋭いので刺さったら危ないんだ」
「わかったよ」
ジャックは弓矢を番えて、猪の心臓を狙う。
ヒュンッと風切り音がして猪の心臓に突き刺さる。
そのまま、猪が息絶えるのを待ってから罠を取り外した。
「近場に罠があと2つあるのでそれを見てから戻って持って帰ろう」
ジャックの言葉に頷いて、その場を後にする。
結果だけ言うと、罠はかかってなかった。しょんぼりだ。
でも、猪が掛かっていたので結果オーライだな。
猪の掛かっていた3つ目の罠のとこに戻り、長い木片に前足と後ろ足をロープで縛って宙づりにすると、肩にかけて川に戻る。
警戒していたが、魔物はいないようだった。この調子だと、護衛も楽で良いんだけどな。
川の拠点に戻るころには日が落ちかけていた。
ジャックは木の板の上に猪を下ろすと、解体を始めた。
私がやりたいと言ったら、ジャックから猪は脂肪が多い分鹿より難しいから今度で、とやんわりと断られてしまった。悲しいなぁ。
猪の胸骨から刃を上向きにしてナイフを入れていく、猪の皮の直ぐ下には内臓が出てきてしまうため、慎重に切っていく。
股まで裂いて行くと、次はアバラの結合部分に刃を入れて、木づちで叩きながら喉まで刃を入れていく。
次に肛門に剣鉈を入れて木づちで股関節の骨を砕きながら切っていく。
切れたら、内側に張り付いている肉の膜を切る。
食道を切って、内臓を丸ごと外に引きずり出した。
そこからレバーと心臓を取り出して、内臓を私に渡してくる。
私はそれをまた森の中に埋めてから戻ってくる。
ジャックはどうやら解体は一段落したのか、猪を川に入れて冷やしていた。
「アラン。お疲れ様」
「うん。そっちこそ解体お疲れ様」
「そろそろ食事にしましょうか」
「そうだね。もう夜になっちゃったしね」
焚火の前でジャックが木の板の上で猪の肉を食べやすいようにカットしている。
「猪の肉は心臓とあと一つが生で食べられるんだ」
「へぇ……心臓とあと一つね」
鹿のレバーを生で食べたのでもう生で肉を食うことに余り抵抗はなかった。猪の肉も鹿のレバーのように美味しいのだろうか? 楽しみだなぁ」
「まず、心臓だね。食べてみて」
切り取った身を渡してくる。それを受け取って、口に入れた。
柔らかくて美味しい!
「うん。美味しいよ! 猪の心臓」
「それは良かった!」
そう言い、ジャックも猪の心臓を食べる。二人して食べるとアッと言う間に食べ終わった。
「じゃあ、最後のもう一つにいこうか」
ジャックはそう言って、もう一つの肉を切っていく。見た目はかなり小さいアメフトのボールみたいな見た目だ。あ、なんか白い液体が出てきた。
「どうぞ。食べてみてよアラン」
ジャックはにっこりと笑顔で渡してくる。だが、私はその笑顔の裏になにか怪しげな気配を感じた。
なんか嫌な予感がするんですけど……。
ええい、ままよ!
パクリと口に入れて噛む。濃厚でクリーミーな味わいと少しの苦みを感じた。
「うん。こっちも結構、美味しいよ」
「そりゃあ、良かった」
「でも、これっと何の部位なの?」
そう聴くと、ジャックは待ってましたと言わんばかりに嫌な笑みを浮かべる。
「それはね、猪の睾丸だよ」
「ブフッ!」
おいおいおい、そんなもん食べさせてたのかよ! なんてもの食べさせるんだジャックは!
「ははは、でも、美味しかったでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ」
「ならいいじゃないか」




