羨望5
二人して鹿のレバーを刺身で食べ、野草やキノコに干し肉を入れたスープで身体を温める。
夢中になって食べていると、直ぐに食べ終わってしまった。
「アラン。とりあえず、今日はここで休んで明日の早朝から村に戻ろうと思うんだ」
「ん? もう、狩りは良いのかい?」
「そうだね。鹿を2頭にカモが2羽捕れた。これだけで充分だ。それに、これ以上捕っても持って帰るのが大変だしね」
「それもそうか。わかったよ」
夕食後、鳴子をチェックした後に魔闘気の鍛錬を行うことにした。
ちなみに、ジャックは川で冷やしている得物が流されないか確認したら直ぐに寝ると言っていた。
ジャックがやっていたあの気配が消えるような感覚。あれをものにしたい。当人は、自然に身に付いたものと思っているようだが、確かに魔闘気を消す方法はあると確信していた。
目を閉じて、心を無にする。イメージは自然と一体化するように。流れている魔力の流れをより少なく、薄くするんだ。
イメージ通りにやると、身体を流れている魔力の流れが薄く見えにくくなったように見える。
ジャックのように完全にそこにいるのかさえわからない具合までにはいかないが、魔力反応を小さくすることにはできた。
これは重要な事だ。これが出来るようになれば、敵に気づかれずに不意を打つことが可能になるからだ。それに、偵察等にも上手く使えるようになるだろう。早速、鍛錬を続けなくては。
そして、最後に赤いオーガを倒した時の事を思い出す。
あの時、私は死を覚悟していた。
だが、結果的にはそうはならずに敵を倒す事が出来た。
それは、圧倒的に増え、爆発的に魔力が増えたからだ。あれの鍛錬もしておかなくては、何か危機的状況に陥った時に対処できなくなってしまう。
心臓から魔力を大量に流し込み、爆発的に体の隅々に行き渡らせる。
出来た! 身体から炎のような魔闘気が溢れ出る。
力が満ち溢れ、今まで以上の身体能力を発揮する。
それは、走ることも飛び跳ねることも剣を振り抜くことも全てが通常よりも圧倒的に向上している。
その状態で剣技を行う。瞬動に紫電の太刀を繰り返す。
と、5分くらいだろうか。抗えないような眠気と疲労が襲ってくる。
魔力切れだ。
私は鍛錬を止めて、寝床に戻る。
やはり、あの炎のような魔闘気は上手く扱えない。直ぐに体力が無くなってしまうのもあるし、魔力切れも起きる。
それは多分、現代で何か見たようなことなんだろう。
具体的には頭が人間の身体能力にリミットを設けているというものだ。
魔闘気もそれと同じで30%しか本領を発揮できない状態を無理に上限を増やして動かしているという風に考えられる。
そして、あの炎のような魔闘気はそれを2倍かそれ以上に引き上げて、限界ギリギリまで身体を酷使しているのでは……と。
あくまで私の推論だ。だけど、恐らくそこまで違いはないだろう。
だけど、5分間しか持たないのかぁ……。
実際の戦闘が始まれば回避やけん制等、動きながらの戦闘になる。多分、動けて2分か3分といった所だろう。
本当に最後の切り札だな。使ったら、怪我もするし、魔力と体力が切れて動けなくなる。一人だとしたらそれは絶望的な状態だ。
なるべく使わないに越したことはない。でも、いざという時の為に、少しづつでもあの状態を長く続けられるように鍛錬しよう。
そう思いながら、私は眠気に身を任せて就寝した。
早朝、昨日の残りのスープを二人で飲み、寝床や荷物の片づけをした後に、雌鹿2頭とカモ2羽を吊るした木片を前後で持ちながら森の中を進む。進み足は軽やかだ。
なんて言っても、一回目にして得物は大量だ。これが、一ヶ月もあると思えば結構な収入になるに違いない。それに、魔物の魔石も金になるしね。
森を歩いて2時間程だろうか。あと少しで村に着くだろうというところで、またしても緑色の小鬼――ゴブリン――を見つけた。
今度は3体だ。
「ジャック。ゴブリンが3体いる。倒してくるよ」
「こっちも見えた。わかった。荷物はこっちで見てるから退治の方はお願いするよ」
森の中を走りながら、進むゴブリンとの距離は100mまで近づいた。相手は直ぐに気付いてこちらに向かってくる。
3体のゴブリンは2体が木の棒を持ち、動物の骨をかぶっている1体は錆び付いたナイフで武装している。
投擲で2体に怪我を負わせて、親玉らしき動物の骨をかぶっているゴブリンを袈裟切りで両断する。そして、2体のゴブリンにも止めを刺して、魔石を回収した。
ジャックの下に戻って、荷物を背負い直す。
「お疲れアラン」
「うん。まぁ、ゴブリンだから危険はほぼないけどね」
「アランならそうだろうね。でも、この3日間のうちにゴブリン7体と魔狼4匹と出会うなんて、やっぱりそれだけ危険になった証拠なのかな」
「うーん。どうだろうね。でも、確かに気になる。特にさっきのゴブリンについて……」
「ゴブリンがどうしたんだい? アラン」
「……いや、なんでもない。それじゃあ村まで戻ろうか」
私とジャックは荷物を背負い直して、村に向かった。幸い、それ以外に魔物は現れず、真昼頃には村に到着した。
「ふー……村に到着したっと!」
「お疲れ様アラン。とりあえず、僕の家までお願いするよ」
「わかった」
村の中を通ると、村人がジャックの事を呼んで、狩りの成果に喜びの声を上げていた。
「ジャックは人気者なんだね」
「いやぁ、まぁ危険な仕事だからね。それに成果も出てるから喜んでくれてるんだよ」
ジャックの家に着いた。とりあえず、外の物干し竿に得物を吊るして、中に入った。
「あら、おかえりなさい。あなた! アランさんもお疲れ様です」
エイシャさんが出迎えてくれる。エイシャさんは私たちが想定よりも早く帰って来たことに驚いていたようだ。
そして、外に干してある得物を見ると、凄く可愛らしい笑顔で喜んでいた。
「アランさん! 今日は夕食後をご一緒してください。腕によりをかけてご馳走しますから!」
エイシャさんにそう言われて、どうするかと困ってジャックを見ると、ジャックも頷いてこちらを見返してくる。
「そうだね! アランも食べて行ってよ。エイシャのご飯は美味しいからさ」
そう言われると断りづらい。それに断る理由もないので、夕食にお呼ばれすることになった。
私は、ジャックの家を出ると冒険者ギルドに顔を出す。要件はさっきのゴブリンについてだ。
受付のおばさんにギルド長を呼んでもらうように言うと、席に着いて待っててほしいと言われたので、席に座って待つことにした。
数分後、受付のおばさんが机にやってきて座った。
「あの? ギルド長を呼んでもらったはずなんですけど……」
そう言うとおばさんはにっこりと笑みを浮かべた。
「あたしがギルド長だよ」
「え、えぇ!? 本当ですか?」
「あぁ、そうだよ。一応、現役時代はCランク冒険者だったんだ。受付もやってるのはここじゃ冒険者が寄ることもないし人が全然いないからね。人件費の節約ってやつさ」
「な、なるほど」
「んで、話したいことっていうのは?」
「3日程ジャックの手伝い兼、護衛をしていたんですが、その時に魔狼4匹とゴブリンを7体倒しました」
「ほぉ、そりゃ凄いね」
「魔狼については別に良いんですが、ゴブリンとは最初4体次に3体と遭遇して倒しています。村から2時間くらいしたところで発見したんです。もしかしたら村が襲われる可能性もあるかと思いまして、それに2回目に遭遇したゴブリンは簡易なものですが武装していました」
「……ふむ。なるほどね。村が襲われる危険性か。それに、武装したゴブリン。もしかしたら、知恵のついた個体が群れを作ったのかもしれないね」
「ですよね。通常、ゴブリンは3から6体で行動しているけど、武装したゴブリンはほとんどいない。なのに武装していたってことは上位の個体――変異種――が生まれた可能性があるかと」
「上位の個体か。ゴブリンシャーマンかジェネラルか。やっかいなことになっちまったね。じゃあ、アランに特別依頼を出したいけど良いかい」
「どのような内容でしょうか」
「なに、ゴブリンの巣穴を発見して、数や上位の個体の有無を確認するってとこだ。腕に自信があるならそのまま討伐してくれてもいい。調査なら50コル。討伐なら150コル出そう。当然、討伐したゴブリン1体につき報酬も出す。……どうだい。やってくれるかい?」
「えぇ、わかりました。その依頼受けましょう。でもEランクの私で良いんですか? もしゴブリンシャーマンやジェネラルだったら討伐難易度はDからCランクってとこですけど」
「なに、無理そうなら逃げてくればいい。倒せなかったら次の手を考えるさ」




