羨望4
次の日、朝食に温かいスープと干し肉を食べながら、昨日の魔力が見えなくなった技についてジャックに聴いてみた。
「へ? 魔力が見えなくなる技?」
聴いてみたのだが、ジャックは全然わからないようだった。なので、まずは魔闘気について聴いてみることにしてみた。
「じゃあ、ジャック魔闘気って知ってる?」
「いえ、知らないですね」
その答えに今度はこっちが驚いた。魔闘気を知らないのか。だが、それもそうかもしれない。ここでは冒険者もいないし、それを育てる環境もない。この村で育ったジャックからしたら魔闘気の使い方なんて知らなくて当然なのだろう。
「いや、ごめん。知らないなら良いんだ」
そうか。でも、じゃああの魔力が一切感じられなかったあの感覚はなんだったんだろうか? 俄然気になってきた。
「ジャックが得物を狙う時に魔力の流れが見えなかったんだ。なにか特別な何かしてたりする?」
ジャックは首をかしげて「そうだなぁ」と唸る。
「強いていうなら、……森と一体化する。と言うか、何も考えずに無心になるってところですかね。
そうすると、得物が逃げにくかったり、気づかないことが多い気がするかなぁ」
ほほう。無心になる……か。瞑想をするような感じなのかな。お坊さんが滝に打たれたり、座禅を組んだりとか。
今夜、早速試してみよう。
「ありがとう。ちょっと試してみるよ」
「なんかヒントになるなら良いけど……」
その後、朝食を食べた後、川で冷やしているカモが流れていない事を確認すると、背嚢を背負って、森の中に進む事になった。
「今回は、鹿や猪をターゲットにするつもりなんだ。だからそのつもりでよろしくね」
「わかった。私も得物を狙っても良いかな?」
「うん。寧ろこっちからお願いするよ!」
道中、会話をしながら先を進む。
歩いて2時間ほど経ったところで、目の前に敵を発見した。
「ジャック。敵を見つけた。四足歩行だから魔狼だと思う。数は2匹」
「……うん。こっちも見えたよ。倒すか迂回するかの判断は任せるよ」
「そうか。じゃあ、倒そう。積極的に魔物は倒すべきだしね」
「そっか。お願いするよ」
距離は300mと言った所か。2匹ならここは小細工無しで正面突破しよう。
私はホルスタ―からダガーを2本取り出して、魔狼に近づく。
200mくらいだろうか。相手はこちらに気づいて走り寄ってくる。
50m地点でダガーを2本投げて先頭の1匹に投げる。その2本は首と顔に刺さり、そのまま絶命する。
最後の1匹は先頭の魔狼が倒れたのを一切気にかけずにこちらに走り寄ってくる。
片手半剣を抜いて、上段に構える。
敵が目の前まで来たところで、相手が飛び掛かってくる。
その突進を左に避けて胴体を一閃。
魔狼は地面に飛び込みながら血を内蔵をぶちまけた。
ダガーを2本回収したところで、ジャックがやってきた。
「いやぁ、アランって本当に強いんだね」
「魔狼2匹程度ならまだまだ大丈夫だよ」
「そっか。それなら安心だね」
「それにしても、魔物が結構現れるようになってきたね」
「うん。そろそろ、狩場が近い。それを狙って魔物も出てきているんだと思う」
「そうか。じゃあ、気を引き締めて行こうか」
道中を進む。1時間ほど過ぎた所で森の中にぽっかりと草原地帯があるのが見えた。
目を凝らしてみると四足歩行の獣が6匹いるのが分かった。
近づきつつ観察すると、それは角が生えている。鹿だ。
鹿はのんきに草を食んでいた。
「ジャック草原地帯に6匹の鹿がいるみたいだ」
「恐らく群れだね。最低でも、1体。出来れば2体は捕りたいな」
「じゃあ、私も参加するよ」
「うん。アランの腕なら任せられるよ」
草原地帯に出ると70m地点に鹿が草を食んでいる。立派な角を持った鹿。多分、雄はこちらに気づいているのかじっと、こちらを観察している。だが、他の鹿は特に警戒していない。
ジャックは弓矢を準備する。
「アラン。鹿を狙う時は体の前側を狙って。出来れば左足の付け根の後ろくらい。そこが心臓だからそこを狙えば一撃で倒せると思う」
「わかった」
二人して鹿を狙う。
ジャックは先に矢を番えて、矢を放った。私も2本のダガーを投擲する。
ジャックの矢は寸分違わず、雌鹿の心臓を射抜いていた。
私の放ったダガーも前側の左足の付け根と右足の付け根に刺さっていた。
一斉に群れが逃げる。ジャックの射抜いた雌鹿はその場にどっと倒れて動かないが、私の狙った雌鹿は立ち上がろうとして立ち上がれずにその場に蠢いている。
私とジャックは近づいて雌鹿の心臓に深くダガーを入れなおして息の音を止めた。
その後、近くの森から大き目の木片を2つ持ってきて、1本ずつに鹿の前足と後ろ足をロープで縛る。二頭分を吊るすと、ジャックは満面の笑みで喜んだ。
「いやぁ、本当にアランが依頼を受けてくれて助かったよ! 一回の狩猟でカモが3頭に鹿が2頭も取れた」
「運が良かっただけだよ」
「またまた、そんな謙遜しないでよ。アランの腕は間違いないからさ」
「ははは……」
「さて、じゃあ川の方まで戻ろうか」
「わかった」
両肩に1本ずつ二人で前後に木片を背負って、川に戻る。
両肩に乗る鹿二頭の重さは結構したが、それは嬉しい悲鳴というやつだ。
ジャックも私も少し足早に川に戻った。
川に着いた頃にはもう夕刻に近くなっていた。
拠点に戻って、1匹を川で冷やしている間に、近くの木に雌鹿をロープで吊るしてジャックが解体を始める。
喉笛から肛門まで薄く切れ目を入れる。
切れ目を入れた所から左右にナイフを入れて毛皮を開いていく。背中の中心の所で、毛皮が取れた。
胸骨を取り外して、内臓を傷つけないように開く。
食道を頭側で切り取って足を開いて木の板の上に内蔵を取り出す。
すると、するりときれいに内臓が丸ごと全部取り除けた。
「凄いねジャック。とても早くてきれいだったよ」
「そうかい? ありがとう。本当も内蔵は食べられる部分もあるんだけどレバーだけ食べて、後は埋めよう」
「そうなんだ。わかった。埋めるのは私がやっておくよ」
「うん。お願いするね」
レバーを川の水で冷やして、それ以外の木の上に乗っている内臓を見ながら、持って
森に入る。
穴を軽く掘って、その中に内臓を入れた。
片づけて川に戻ると、ジャックはもう一頭の解体を始めていた。
それもものの10分か15分くらいで終わり、また内臓を埋めに森に入った。
夕食、ジャックがレバーを取り出した。
「アラン。レバーは捕ったその日に食べるのが一番美味しいんだ。生で食べられるんだよ。ほら、食べてみて」
そう言って、ジャックはレバーを切り取って、こちらにナイフ越しに渡してくる。
うーん。この世界って生で肉食べても大丈夫なのだろうか。感染症とかなんかがあったら怖いんだけど……。
でも、こんなにジャックが進めてくるしなぁ。これは断れない。
「うん。わかった。食べてみるよ」
ええい、ままよ! 生でレバーを口に入れた。
「うん! 美味しいね!」
「でしょ? これは、猟師をやってる特権みたいなもんなんだよ。他の人は付いてこないと食べられないからね」
鹿のレバーは、現代で食べた牛のレバーよりもとても美味しくて瑞々しかった。




