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さようなら はじめまして  作者: 鈴木 淳
第二部 羨望
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羨望3

皆さま、クリスマスイブですね。まぁ、私はクリスマスボッチ確定なのですが……

「倒しちゃうおう。まぁ、護衛の見せ所だし」


「わかった。援護とかした方が良いかな?」


ゴブリン4体だ。援護というと弓矢でやってくれるのかな? でも、無くても問題ないだろう。どうせ4体だし、こちらにも遠距離攻撃手段はある。それに、討伐依頼も受けたしね。積極的に狩りましょう。


「いや、大丈夫だよ。倒しちゃうからゆっくり向かって来てね」


「わかったよ。アラン」


私はそう言うと、森の中を走る。敵との距離は300m程度ってところかな。先ずは接近しなくては。


距離が100mまで来たところで近くの茂みに伏せる。投擲で確実に倒すにはもう少し近づくべきか。

中腰の状態で近づいていく。距離は50m付近まで近づいた。まだ敵はこちらには気づかずにのんきに歩いている。


私は背嚢を下ろして、片膝立ちの状態でホルスターから2本のダガーを取り出して、魔闘気で強化し、投擲を行う。


1本は外れた。近くの木に刺さったが、2本目は1体のゴブリンの胴体に刺さる。

胴体にダガーが刺さったゴブリンは投擲の威力でその場で倒れる。


3体のゴブリンがこちらに気づいた。なにか叫び声を上げながらこちらに近づいてくる。


ホルスタ―から追加のダガーを4本取り出し、2本を投擲。

そのダガーはもう1体の頭部に刺さりその場に倒れる。よし、1体は確実にやったか。続いて、2本をもう1体に投げると2本とも胴体に刺さり、うつ伏せに倒れた。


相手のゴブリンは仲間がやられたことに動揺して、慌てている。

勝機だ。一気に押し込む。

最後に一体にはこちらから走り出して近づく。


剣の間合いに入ったところで、横薙ぎに剣を振り、首を刎ねた。


「ふぅ……なんとかなったな」


私は首を刎ねたゴブリンから魔石を取り出し、討伐証明のゴブリンの鼻を切り落とす。近くの蹲っているゴブリンに止めを刺して魔石を取り出し、鼻を切り落とす。他の2体にも同様に魔石と討伐証明の鼻を切り落として、投擲に使ったダガーを回収した。


「いやーお見事だね。アラン」


遅れてやってきたジャックが笑顔で近づいてくる。


「これくらいの敵ならなんともないさ」


「そんなことはないさ。今の時期の魔物は凶暴だからね。通常よりもやっかいだったりするんだ」


「へぇ……それってなんでなんだい?」


「冬の季節だからね。この時期になると魔物は餌を手に入れるためにより凶暴になるんだ。人型の魔物とかだと、村から家畜や人を攫うこともあるんだよ」


「なるほどね。だから、こんな人里近くにゴブリンがいたのか」


「そういうことだね。でも、アランの手際は凄かったね。投擲も剣技もさ。流石、オーガを倒したって言うだけあるよ!」


「いやぁ、まぁあの程度ならね」


褒められるが、精々ゴブリン4体程度だ。このくらいなら一般の冒険者なら余裕だろう。ジャックだって矢の本数を気にしなければ、倒せただろうしね。


その後も、褒めてくるジャックを宥めながら先を進む。魔闘気を流して、歩いていたが他に危険になりそうな生物はいない。鳥程度しかいない。


昼頃になると、水の流れる音が聴こえてきた。川が近くにあるのだろう。強化した目で見ると、川が見えた。


私たちは川に到着すると石を積んで、簡易のかまどを作ったり、道中で拾った薪木を置いた。

ジャックは背中に背負っていた木の板を2枚下ろして、他にも鉄板を下ろした。


「アラン。とりあえず、ここを拠点にして動くつもりだから荷物は下ろしちゃって」


「わかった」


私も背嚢から寝袋等の荷物を出して、周辺の森から燃料になりそうな木を集めた。


そして、二人して岩の上に腰を下ろして保存食を食べた。


「とりあえず、今日はここで準備をしたら夕飯用になにか鳥とかでも捕ってこようか」


「そうだね。夕飯も保存食だと味気ないしね」


「あはは、確かにね。じゃあ、行こうか」


ジャックが立ち上がったので、私も立ち上がり背嚢を背負う。ジャックも準備が出来たみたいなので、二人してもう少し奥の森に入っていった。




「ジャック。……ここから目の前100mの地点にカモが4匹いる」


ジャックに声を掛けたが、ジャックも気付いてたようで、軽く頷いた。


「……もう少し近づこう。出来れば後半分くらいの距離まで。そこまできたら外さないから」


静かに近づく。距離が50m地点まで来たところで、二人とも片膝立ちになって、カモを見る。4匹はこちらに気づかずに地面を突いている。

ジャックが背中から弓を取り出し矢筒から矢を1本取り出す。


「ジャック。私も狙っても良いかな?」


「え? そうだね。じゃあ、お願いするよ」


ジャックの許しを得たのでダガーを2本取り出して狙いを定める。

ジャックも弓矢でカモを狙っている。


静寂が訪れる。



ジャックが矢を放った。私も強化した腕でダガーを2本投擲する。

風切り音が響く。


そして、1匹のカモの胴体に矢が当たった。

私のダガーも1本が1体のカモの胴体に1本がカモの首に刺さっていた。


最後の1匹は驚いて即座に羽ばたいて逃げる。

他のカモも逃げ出そうとするが、そこまでの体力がないのか鳴き声を上げながらその場に倒れ伏す。


「よし。当たった。今日の夕飯ゲットだね! それにしても2本投げて2匹倒すなんて本当に凄いね」


ジャックの笑顔が眩しい。正直、まぐれで当たっただけなのだ。1匹は正確に狙って胴体に当たったが、最後の1匹は完全にまぐれだ。私は乾いた笑いを浮かべて頭を掻いた。


カモを3匹手に入れたのでそれの足を持って、拠点に戻った。本日の狩りは終了というところかな。


「じゃあ、血抜きをしようか」


ジャックはそう言って、カモの首を切り落とすと、ロープを足に巻き付けて近くの木に吊るした。

私も1匹の首を切り落として気に吊るす。


「あとは、血抜きが出来たら羽を毟ろうか」


夕刻に差し掛かったあたりで川でカモを洗いながら羽を毟る。ジャックはてきぱきと要領良く羽を毟っているが、私はいかんせん上手く行かずに少し毟った羽に皮が付いていたりなどで出来栄えも大分悪かった。


ジャックは「気にしなくて良いさ」と言っていた。寧ろ、今度、2体以上取れたら解体の仕方も教えてくれるという。これはありがたい。



出来栄えの悪かった私の毟ったかもを焚火で焼きながら、ちょっと気になっていたことを聴いてみることにした。


「ねぇ、ジャック。なんで、あの村にはジャックしか猟師をやっていないんだい?」


そう聴くと、ジャックは「あはは……」と乾いた笑みを浮かべた。


「危険だからだよ。秋の最後の季節から冬の季節まで狩猟をするんだけど。鹿や猪、熊なんてのも襲われたら危険だし。なにより、魔物がいるからね。魔物は冬になると餌を求めてより活発に活動するようになるんだ。だから、魔物にも野生生物にも襲われる危険性が多いこの仕事は余りやりたがらないんだ」


「へぇ……なるほどね。でも、じゃあなんでジャックはこの仕事をしているの?」


「それは、まぁ……父がやってたし、小さい頃から弓の練習もしていたからかな。あと、村の冬の蓄えの為にも、狩猟はしないと厳しいしね。40人程度の村だけど、蓄えはあるに越したことはないし、他の村にお金で売れるからさ」


「なるほど。偉いんだねぇジャックは」


「ははは、よしてよ」



じゅうじゅうと油の焼ける音を聴きながら、会話をしていると、カモがそろそろ焼けたのかジャックが焼けたカモを大胆に木の板の上で半分に切り分けて、もう半分を木の板に乗せて手渡してくる。


「熱いから気を付けてね」


「わかった」


熱々の鶏肉を受け取って、ダガーで小さく切り分けながら食べる。良く油の乗った鶏肉は甘くそして美味しかった。私は、夢中になって鶏肉を食べた。


食べ終わると、ジャックは寝床を準備していた。


私は、ジャックに鳴子を作ってくることを言って、その場を後にした。

周辺に簡易な鳴子を作りながら、先ほどのジャックがカモに狙いを定めていた場面を思い出す。


あの時、ジャックの気配が消えたのだ。いや、確かに隣にいたのは確かなのだが、なんというか。目を魔闘気で強化して見ると、魔力の流れや反応が見えなかった。自分でも例え辛いのだが、視界としてはジャックは見えていたが、魔力の流れが見えなかった。そう、まるで死体のようにだ。


あれは一体どういう技なのだろうか。人や魔物に生物には絶対に魔力が流れている。それが生きている限り。だのに、魔力の流れが見えなかった。まるで、自然の一部のように。


あれも、魔闘気の一つの技なのかもしれない。明日になったらジャックに聴いてみるか。

鳴子を設置し終えて満足すると、寝床に戻ってその日は就寝した。


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