小山内
小山内
わたしの演説の感触はまあまあと言ったところであった。さすがに拍手喝采とはいかなかったが今までの参加者のたちの中では一番同情を誘えたと言う自負があった。「酷い……酷すぎます」なんてハンカチで目尻を拭っている人も見える。一方で「イジメの対象から外れたければボクのような手段をとってもよかったのに」と少し冷めた意見を口にする中学生くらいの男の子もいた。
「やっぱりわたしの勝ちのようですね」
明戸さんの元へと戻るといつの間にか合流していた篠生さん達がいた。わたしは口角を少しだけ上げて彼に勝ち誇った笑いを浮かべる。どうやらわたしの笑顔と言うやつは、薄暗い感情の時に文字通り顔を出す傾向があるらしい。
「何のことだ?」
解かった上でわざとらしく首を捻る篠生さん。これも負け惜しみと捉えれば腹も立たない。
「わたしとの賭け、忘れたなんて言いませんよね?」
彼も「ずるいやつが勝つ」信者の一人であった事を思い出し、念を押しておく。口約束だなんだとかで、ちゃぶ台をひっくり返す程幼稚な人物とは思えなかったが、人間いざとなれば平気で嘘をつく。ハムスターを殺した責任をわたしに擦り付けたあの同級生や、薄々真実と解かっていながらわたしの言葉に耳を貸さない先生のように。
「ああ、その事か。もちろん覚えてるよ」
とりあえず胸をなでおろすわたし。さあ彼にどんな命令を下してやろうか。「向こうに戻ったら引きこもりをずっと続けながらも絶対に自殺しないで下さい」だとかは相当嫌だろう。逆に「どうやってでも彼女と復縁して下さい」と言うのも、それはそれで陰湿で悪くない。
「お前が賭けに勝ったら僕はお前の命令を何でも聞くんだったよな?逆に僕が勝ったらお前は僕の命令をお前が聞く。それで間違いないな?」
「ええ、わたしが篠生さんとのプレゼン勝負に勝ったら何でも言う事を聞いてもらいます」
また、悪い笑みが浮かぶ。明戸さん曰くどんな感情からこようと笑顔は笑顔でいいものらしいが、はたしてどうなのだろうか。
「おっと、そいつは違うぞ」」
わたしの言葉に異論を投げかける篠生さん。この期に及んで往生際の悪い。
「……一体何が違うんですか?」
「賭けの内容はお前が優勝するか否かだったはずだろ。お前の順位が僕より上か下かなんてのは関係ないぞ?」
「……え?」
彼の言葉に硬直するわたし。
「そういう約束だっただろ?」
いけしゃあしゃあとそう続ける篠生さん。わたしは彼と交わした言葉を思い出す。確かに彼は「お前が優勝したら」と、そう言っていた気がする。
「何だその顔は?」
篠生さんは悔しさに下唇を噛むわたしを揶揄する。やられた。わたしはまたはめられたのだ。
「約束って言うのはちゃんと内容を吟味した上でしないとな」
「……そんなの」
「ずるいか?さっきも言ったよな、世の中ずるいやつが得をするんだよ」
わたしの言葉を遮ってそう続ける篠生さん。その顔に特に悪びれた様子は見受けられない。
「お、泣くのか?騙されて悔しいですって泣き喚くのか?」
「……本当に貴方は最低ですね」
滲んだ涙が零れないよう目を瞑る。気持ちを切り替えよう。簡単な話だ。わたしがただ単に世間を知らないお子様だっただけなのだ。
「でも、わたしが優勝したら絶対に約束を守ってもらいますからね!」
そう、とどのつまりわたしが優勝すればいいのだ。優勝すれば自殺も履行されるし、賭けにも勝てる。そもそもとしてわたしの目的は優勝以外にはないのだ。だったら、彼との賭けの内容に少しばかりの齟齬があったところで何も変わらない。幸いプレゼンの感触は悪くない。
「ああ、お前が優勝したら約束は守ってやるよ」
そう言って篠生さんはさっきまでのわたし以上に悪い笑顔で呟いた。
「……優勝出来たらな」
その顔には自分の負けはないと確信する愉悦と共に、何故だか苛立ちの表情が紛れているように見えた。




