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篠生
篠生
「……まずい事になったな」
僕はこめかみをかく。これはまずい事になった。
「ああ、あの様子じゃ優勝なんかとは程遠いだろうからな」
いけしゃあしゃあとほざく黒井。かいていたこめかみに血管が浮き出る。
「優勝どころか、小山内さんにも勝てないんじゃないのか?」
のほほんと、お茶でも啜るテンションで言葉を続ける黒井。思わず胸倉を掴んでやりたくなるが、先程の醜態を思い出し自制する。
「もし彼女が優勝でもしちゃった日には明戸さんが怖いぞ」
黒井はやはり平淡な口調でそうのたまう。向こうのサポーター女の事などどうでもいいが、小学生の女の子との賭けに負けるのは僕のプライドが許さなかった。「引きこもりはプライド高いからねえ」と僕に聞こえるように呟く黒井は無視する事にする。
「やむを得ないか……出来ればとりたくない手段だったが」
僕はそう言って、一度目を瞑った後に黒井の方へと向き直った。
「黒井よ。サポーターとして、僕に手を貸してくれ」
黒ジャケットの男は「やれやれ」と肩をすくめた。