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虹倉姉妹  作者: 加藤無理
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星霜を経た懐古

 武と淑彬スビンは日本と韓国を往復した。単に逢瀬を楽しむだけではなく、一緒に仕事をした。韓国語と英語の新作を発表すると確かな手応えがあった。淑彬は武の新作を監修するだけではなく、武と一緒に歌ったり踊ったりした。これも評判を呼んだ。


 淑彬は公私をシッカリと分けていた。人前に出る時は武と息の合った表現をこなすが、全く惚気のろけてはいなかった。元アイドルとしてファンへの気遣いも非常に上手だ。女性ファン達は嫉妬どころか淑彬に素直に好意を持った。


 一方、二人きりの時や身内の前では淑彬は武に甘えた。武は淑彬の顔の使い分けに戸惑いながらも応じていった。三十過ぎて初めてに近い交際。淑彬が抱擁したり口付けをすると武は照れる。淑彬は不思議そうに、

「本当に不器用なのね」


 けれども時を経ると武も慣れ、淑彬を求めるようになった。どちらかがどちらかの住まいに滞在するのは旅費がかさむ。武と淑彬は結婚を考えるようになった。互いの両親に挨拶して事情を説明した。武の両親は驚いたが淑彬の両親は驚かなかった。淑彬の両親は淑彬に日本への移住を提案した。一人娘を異国に嫁がせるのに抵抗はあったが、日本人を婿入させるのも躊躇する。淑彬を元気付けた武を信頼もしている。武と淑彬はそれに従った。


 二人は韓国で挙式をした後、札幌に住むことになった。その後、娘が生まれた。名前は賢美ヒョンミ

「賢いに美しいでヒョンミ」

 と、周囲には紹介した。以前のキラキラネームの影響が有ったのか役所もその読み方を奇跡的に受理した。


 武と淑彬は一緒に家事と育児をこなしたが、賢美が淑彬にベッタリなので暫くは武は表に出て独りで仕事をした。悪戦苦闘の私生活と将来の不安とささやかな幸せ。それが絶妙に混ざった楽曲を創っては発表した。家庭を築いた二人に嫉妬するファンもいたが、新しいファンも増えた。


 淑彬のいとこの李はアイドルを引退し、大学時代の同期が起業した会社に入社した。武と親交のあった白崎も引退して子どもに歌と踊りを教えている。稲島は音楽活動を続けているが、働いてきた建設現場から退いて教会と一緒に慈善活動をしている。


 時の流れを感じる。疲れて寝ている賢美と淑彬の顔を見ながら武は思いを巡らす。武は仕事部屋に行くと古い音源を小さめの音量で聴く。過去に遡っていくと胸の疼きを伴う懐かしさが耳に入る。


 虹倉姉妹と共演した楽曲だ。何年経っても色褪せない。姉妹については淑彬には伝えなかったし、ファンも忘れているだろう。武だけの思い出。武は虹倉姉妹が試行錯誤して創った楽曲を何度も聴いた。


 「もっと音量を上げても良いのに」

 淑彬の声。武が驚いて振り向くと淑彬が賢美を抱きながらドアの前に立っていた。賢美も起きている。淑彬は不思議そうに、

「何時録ったの?」

「君と出会う前」

 武は暗い声で答えた。淑彬は不安そうに、

「何か悲しい事が有ったの?」

 武は目を泳がせて、

「このベーシストとドラマーにフラレた」

 淑彬は目を大きくさせて、

「まだ未練が有るの?」

「まさか。ここ十年近く忘れていた」

 武は答えた。賢美は淑彬の腕の中で宙を睨んでいる。楽曲を聴きたがっているようだ。武は最初から楽曲を聴かせた。賢美は楽しそうに腕と頭を揺らす。淑彬も、

「良い曲ね」

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