優劣をつけられない
夜中にアパートに戻った姉妹は静かにシャワーを浴びた。先程、喫茶店で食事を摂ってきた。就寝しようとしても二人は寝付けない。
優花が低い声で、
「実花、どうしようか?」
「どういう事?」
実花が訊き返した。優花は、
「二人共、黙って武さんを同時に諦めるか、それとも正々堂々と勝負するか」
「具体的にどんな勝負をするの?」
実花は再度訊き返した。優花は、
「さあ。恋愛の勝負なんて私にも分かんない。二人同時に告白するのもなんか違うし」
「同時に諦めた方が良いんじゃないの」
実花は弱気になった。優花は、
「真摯に気持ちを伝えれば武さんは振り返るかもしれないんだよ」
実花はうーんと唸った。優花は、
「試しに私が先に挑戦してみるよ。当たって砕ける気持ちで行くから」
「じゃあ、武さんがその返事をする前に私も告白してみるよ。武さんが即答したら恨みっこ無しで」
実花が提案すると優花は頷いた。
その翌月の七月の半ば。武は悩んだ。
慰問会から一週間後に優花は一人で武に会いに来ていた。生演奏会の後、大事な話が有ると連絡があった。会場から客が出て行くのを待つと優花は目を泳がせながら恋慕を語った。夏の合宿から思いを寄せていたのだ。武には寝耳に水だった。更に優花は実花も近日中に告白する事を声を震わせて伝えた。武は頭が白くなった。武には選ぶ権利が有ると言うと優花は立ち去った。
優花の言う通り、その数日後に実花から連絡が有り、喫茶店で待ち合わせをした。実花は俯きながら躊躇いがちに恋慕を語った。最初は胡散臭いと感じていた事を詫び、武の演奏する姿に魅了された事を素直に伝えた。実花もまた、武の選ぶ権利を語り、紅茶を飲み干す前に立ち上がり、自分の分の会計を済ませた。
音楽家として凄腕な上に美人で品行方正な二人から同時に恋慕されて男としては嬉しい。しかし片方を選ばなければならないのだ。二人共、武がどちらを選んでも誰も恨まないと主張していたが、非常に気まずい。選ばなかった方からの嫉妬を単に恐れているわけではなかった。武にとって二人は揃ってこそのビジネスパートナーなのだ。優劣もつけられない。
真摯で正確な実花のドラムと柔軟で重厚な優花のベース。二人の強い絆と性格があってこそだ。ドラムとベースは仲が良い方がバンド自体もしっくりくる。どちらかを選ぶとなるとそれを崩すことになる。
二人をどちらも選ばずに交際を辞退するしかない。倫理的な問題で一度に関係を共有するわけにもいかない。
その旨を伝えようとするが、関係が完全に絶たれてしまう気がした。武はここ一週間、悩んでいる。日課の練習をしているがあまり集中出来ない。編集作業も打合せも士気が下がって周りから心配される。
話を聴いた稲島からは、
「直接、二人と会って腹を割って話し合ってみろよ」




