転生
虚無感。
疲労。
悲しみ。
怒り。
心地よい風。
草木、土の匂い。
花の香り。
川の音。
穏やかな風。
天国か。
それとも、地獄か。
目を開ける。
「は?」
間抜けな声が出たが、聞いて欲しい。
想像と違う景色が広がっていたのだから。
遠くまで見える空気に包まれ、青天の空に、辺り一帯を覆う野原と花々、木々。入ったら気持ちの良さそうな大きくはないが小さいとも言えない川。遠くには山。
いや、それと建築物。
その建築物はまるで中世のような建築物だ。よく見れば人も大勢いる。しかも、きっと王族か貴族がいるであろう城もある。
「どういうこと?」
正直、混乱している。今までそんなにパニックになったことは少ないが、このようなのは意味が分からず混乱とパニックで何も動けなかった。
負傷しているはずの体は綺麗だった。いや、負傷というか死んだはずだ。銃に撃たれて、そのまま。
思い出した。
裏切ったクソ野郎を殺したい。
八つ裂きにしたい。
私たちをあんな目に遭わせた奴らを。
怒りが支配した。
この状況なのに、怒りで頭は支配された。
風が吹いた。
心地の良い風。
……そうだ。
今は怒りよりも、この状況がどうなっているのかを調べなくてはならない。
立ち上がる。
痛みはなし。
怪我もなし。
川に近づき顔を洗う。
水面に映ったのは、私の顔。疲れ切っているが、なんとも言えない無表情の顔。目は、両方無事だった。幸運なのか、よく分からないが。
周囲を見回す。
黒い影が2名。
匍匐の姿勢となり警戒する。
腰にはどういうことかお気に入りのナイフがあった。ナイフを抜いて、伏せたまま目の前に持ってきていつでも襲えるようにする。
しかし、どうやら敵ではなかった。花を摘みに来た子供たちだった。それでも、見つかるわけにはまだいかないので、匍匐で下がっていく。とりあえず、先程のい
建築物がある場所に向かう。ゆっくりとした歩きではあるが、警戒をしている無駄のない目配りをしながら歩き続ける。
さっきまで負傷していたはずなのに、嘘のように体は軽かった。
しばらく歩き、城下町に到着した。
……私はどうやら舐めていたらしい。それほど大きくない城下町と思っていたら、本当に城を囲むようにできた大きな城下町だった。多種多様な店や宿などがあるようだ。
ナイフをいつでも出せるようにしておき、城下町に入る。
中世ヨーロッパを再現したような街並み。様々な店があり、賑わっている。人の出入りも激しいようで、歩けないほどではないが大きな道には人が溢れていた。
今更ではあるが、私自身の格好がスーツ姿であるためこの人だかりでもよく目立っていた。私はどこでしょうかクイズを出しても、一目瞭然で分かるくらいだった。
周囲の目が私に突き刺さる。
おそらく自分自身は気づかなかっただけで、城下町に入っていた時からずっと注目されていたのだろう。人によっては視線を向けても興味を失ったようにすぐに歩き出したり、話をしたりしているが大半は、視界から消えるまで見ていた。
「どうしたものか。」
服装をどうにかしなければならない。しかし、自分はお金もないし、おそらく言語も通じないであろう。正直嫌ではあるが、無駄な足掻きはせずに、我慢することにした。それに、このスーツはボディーガードをする上で特注されたスーツだ。一応防刃加工になっており、燃えにくい素材だ。スーツの下には未だに防弾チョッキを身に着けている。正直重いが、この状況だ。脱ぐわけにもいかなかった。
「あ。」
混乱しすぎて忘れていたことがあった。武器の確認。
路地裏に入り、スーツを脱ぐ。
ない。
拳銃が。
ナイフはいつも持っているナイフが5本。それは全てあった。しかし、拳銃と予備のマガジンですら、1本なかった。空になったマガジンもしまっていたはずだ。しかも、タクティカルライトも、腕時計もない。
元から存在しなかったようになかった。
もし戦闘になればナイフ格闘のみでの制圧だ。
「参ったなぁ。」
情けないが、正直諦めの感情で支配されつつあった。
それでも、まだ死にたくはない。一度は死んでいるが、ここでもまた死ぬのは嫌だ。
服はどうしようもないと判断し、武器は隠した状態で行動することにした。今のところの武器は、ナイフが5本。内訳は、5mm厚のD2スチールの5、10、20、センチメートルの小さなナイフから大きなナイフ。マチェット。ナイフや定規、ハサミなどの付いたレザーマンツールを装備。一応、最終手段のベルトがある。
そして、この地域のことを調べなくてはならない。
この地域の特徴。制度、法令。誰が、どのように統治しているのか。言語。宗教。地理。軍事。警察と治安。経済。身分といった差別があるのか。どんな思想や主義なのか。ありえないと考えたいが、魔法とは非現実的なことも調べる必要がある。
「むぅ。」
調査のために夜に行動をすることにした。
料理している音、匂い。食事をしている音や匂いなどから、今はおそらく昼過ぎだと予想できた。人の目が多いため、調査するには怪しまれる上に行動しにくい。それこそ、まだここの軍事と警察、治安、制度、法令も分からないため、明るいこの時に行動して捕まるようなことがあれば難しくなる。いざ戦闘になっても魔法があれば太刀打ちできないし、もし銃器もあれば難しくなる。
数時間程待った。時間の感覚としては、私の知るいつも通りの感覚だった。
予想外だったのは、夜になっても賑わっていたことだった。ここでなら酒場でもあるのだろう、酒の匂いもしていた。しかし、幸運だったのは夜になっても夜間外出禁止令や酒類禁止令のようなものはないことが分かった。また、ここの兵士と思われる姿も見れた。本当に中世ヨーロッパの騎士みたいだった。槍と剣、鎧の装備。銃器はなさそうだった。
スーツを脱いで腰に巻く。持っていたバラクラバを口元、鼻を隠すようにして武器は隠して、至って普通に歩く。
「綺麗。」
私が隠れていた場所から少し歩いていたが、街灯のような柱と建物の光、炎がとても綺麗だった。人の数は少なかったこともあり、遠くまで見えた。しかも、ほぼ独り占めだった。
景色を楽しみたいところだが、本来の目的を忘れてはならない。
私は、どこなのかも分からない街の中へ、世界へ歩いて行った。
感想などなど、待ってます。
よろしくお願いします。




