3-11 死闘決着! 熱斧、氷剣、巨神爪!
曇天の中、僅かに雲の間隙から差した太陽光に目を眩ませつつ、黒龍は目の前の女に付いて考える。
昔、嬲った上で目の前で弟を殺してやったこの女、今度は仲間を屠ってまたあのガタついて泣き寂る様を観ようと近づいては見たものの、あの青いチビ、アイツに何か、吹き込まれたか?
この俺に怒りを向けて倒れた仲間の前に立ちふさがっている。
ー舐めやがってー
先程から玩具が自身の思い通りにならず、あまつさえ自身に甚大なダメージを与えて来た事に自身のこれまでの生涯で最高のイラつきを覚えている途中にこの態度。
「バオオオォオオオォッ!!」
ダメージにより落ち着いていたドラゴンのボルテージは一気に上昇する。
雑に距離を詰めメグミを切り殺そうと腕を振りかぶったその瞬間。
【雷の精よ、螺旋を刻め、鉄心、磁転、鋼のゼンマイ、渦を貫く閃光を我の槍とし使役する、鉄貫飛雷針ッ!!】
鋭く巨大な雷の槍がドラゴンの太腿に着弾。
ドラゴンは予想外の激痛にもんどり打ちながら大きく転倒する。
不自然な大ダメージ、ネモとジェラルドとの攻防で受けた深い切傷を精確に抉ったからだ。
「ギエェエエエアアアッ!」
しかしドラゴンは這いずりながらもメグミを叩き潰そうとその巨大な腕を振り上げる。
【破戒、犯戒、不敬、不遜、最高神への叛逆の、行き着く先果て、一事も成せぬと心得よ! 月神断壊壁っ!】
分厚く白い壁がメグミの前に出現、ドラゴンの一撃を受け止める。
「ガァアッ!?」
受け止めるだけではない、打ち付けたドラゴンの腕が溶け燃え上がる。
「ギエェエエエアアアッ!」
たまらず大きく距離を取るドラゴン、その顔は怒りと屈辱でひしゃげそうだ。
その反撃の様を見て、笑いながらネモは立ち上がる。
「あーあ、メグミさんがもっと速く本気出してくれれば、こんな怪我しなくて済んだのになぁっ! なあんてね」
火傷まみれの息絶え絶え、笑う膝を押さえ込みながらネモは軽口を叩く。
「……っ申し訳ございま」
「ほら謝んなくて良いって」
言いかけたその台詞をネモは微笑みながら静止する。
「メグミさん、僕とジェラルドがサポートと二人のガードをするよ」
「いや、ご無理をなさらず……」
「甘く見ないで、まだまだイケる、ね、ジェラルド」
ジェラルドもよろめきながらも立ち上がる。
「ハァ……ハァ……ああ、たかが一撃で落ちるほどやわじゃねぇ! だが、締めは貴方に任せるぜ、いいなメグミさん」
「そうだね、気持ちよくぶちかましちゃえよ!」
ボロボロになりながらも激励する二人。
怒りと頼もしさと、複数の感情がメグミの力を沸き立たせる。
「キエエエエエェアアァァッ!」
その間にドラゴンは体勢を立て直し怒りの咆哮。
空気が震える、大地が揺れる。
巨大な力のうねりが恐怖となりメグミを包み込む。
だがその恐怖を軽く超える勇気と怒りがあるれ出る!
【イベルダルクの最高神よ! 貴殿に害成す逆徒共、屠る力をこの我に! 覇を和と成すため月を喰み、慈愛と共に創造せん! 破戒無慙を破滅に導け!】
ゆらりと光りながら妖しく美しい巨大な二つの白い魔法陣がメグミの背後に展開する。
そして彼女は詠唱の締めの一句を激しく雄叫ぶ。
【燼滅巨神爪!】
魔法陣を爆音と共に叩き割りながら巨大で、靭やかな二本の巨大な腕が出現する。
その腕は白銀の羽毛を纏い、雲の隙間から差した陽光を照り返して眩く輝いている。
「うわぁぁ……綺麗……」
「燼滅巨神爪……神力で象られた使用者の力と精神の映し身、これほど美しい物は数えるほどしか見たことがないな……メグミさん、イケるか?」
「う……ぐぅ……行けます!」
ふらつくメグミ、巨神爪の維持のために大量の魔力が消費されていく。
だが無理矢理に踏みとどまり、腰を捻り右ストレートの構え。
巨神爪もシンクロし同様の構えをとる。
そこにドラゴンがメグミを踏み殺さんと半狂乱で突進して来る。
巨神爪が見えていない訳では無い。
しかし、自身の力でこの状況を押し通せない事を認める訳にはいかないのだ。
「ウゥオラァァアッ!」
ドスの効いた雄叫びと共に右ストレート、ドラゴンの顔面にカウンターの要領で鋭く重く突き刺さる。
ー痛え痛え痛えッ!殺す殺すぶち殺すっ!ー
たかが羽虫共の抵抗に弱り果てていく自身を認めずドラゴンは巨神爪に再度猛進、がむしゃらに格闘戦を挑む。
白銀の巨神爪と漆黒のドラゴンは雲間から差し込む陽光をバックに乱打戦を始める。
一撃一撃が交錯するたびに並の人間であれば立つことすら困難な程に地面が揺れる。
「……凄い……めちゃくちゃ強いじゃん」
ラムとアガベをその余波から守りながらネモは感嘆する。
「吹っ切れたおかげか、コントロールにも迷いがないな……しかし」
ジェラルドは見逃さない。
この僅か数十秒の撃ち合いでメグミの魔力は限界が近づいている。
「ネモ!」
ジェラルドはネモに語りかける。
「何?」
「この闘い、メグミさんの勝利に華でも添えてやろうぜ?」
ジェラルドの掌に魔力が溜まっていく。
付き合いの長い相棒の魔力、ネモはジェラルドが何をしようとしているか即座に察する。
「いーじゃん♪ イケてる決着になりそうだ♪」
「だろ?」
【金屋子神よ!熱く蕩かし堅く打てぇっ!煉練鉄火!】
【氷の精よ!淡き幻夜に奮い立つ!霜杭の如く打ち立てよっ! 一夜破金の霜剣!」】
二人が同時に詠唱を終えると、メグミとドラゴンの間から巨大な、赤熱する斧が大地から、氷水晶の剣が虚空から、勢いよく飛び出し、ドラゴンにぶち当たる。
「ブギャアッ!」
情けない声をあげて後退するドラゴン、宙に浮かぶ二つの武器に驚くメグミ。
「メグミさんっ! 使って!」
瞬時に意図を理解したメグミは巨神爪で右手に赤熱する斧を、左手に氷水晶の剣を掴み、後退したドラゴンに思い切り振り被る。
「ガァア……」
再度突進を試みようとしたドラゴンの動きが止まる。
脚が動かない。
輝く武器を両手に構える白銀の巨神。
強力な魔法使い三人が創り上げたその威風に恐れ慄き気圧されたのだ。
「行ったれぇぇメグミさんっ!」
「オラァァアッ!」
振り下ろされる巨大な刃。
ーなんだ……この力っ!? これが……恐ろしい?……やめろっ! この俺が……この俺が!?ー
自身の肉を裂く音、焼ける音、凍りつく音が聴こえる中、その生涯で初めての恐怖を、味わう時間もなくドラゴンは十字に切り裂かれ、その傲慢な生を終え、天を仰ぎながら斃れ込んだ。




