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3−6 不穏の爪痕

「キエェエェエエエ!」

奇声を上げながら、翼の名残のある強靭な前脚で急旋回する。砂塵と、自身の傷口から吹き出す血風を撒き散らしながら、その陸生ワイバーンは魔法詠唱中のメグミへと突進する。

馬など比にならないほどのスピード。しかし――

「銀錬一喝っ!」

詠唱完了と共に巨大なハンマーが振り抜かれ、陸生ワイバーンにカウンター気味の豪快な一撃。皮肉にも天へと突き上げられた陸生ワイバーンは、地響きと共にメグミの狙い通り岩塊の上へ落下し、そのまま絶命した。

「凄いよメグミさん! もう全然ビビってないじゃんっ!」

ジェラルドの隠密結界から勢い良く飛び出し、称賛の声を上げるネモ。

トラウマ克服の作戦開始から二日半、メグミは襲いかかるワイバーンを既に六体討伐していた。

ジェラルドの知見から来る生息地の予測により、徐々に徐々に、討伐対象がスタンダードなワイバーンに近付くよう、慎重に段階を踏んで討伐していったのだ。

ジェラルドも隠密結界を解除し、メグミを賞賛する。

「素晴らしいですな。もうその陸生ワイバーンは飛べないだけで、シルエットそのものはほとんど空生のワイバーンと一緒です。もう、ほぼ克服と言っても……メグミさん?」

動かないメグミ。

そのまま、とんでもなく大きなため息と共にへたり込む。

「……いや、まだまだ。と言うか、今のはめちゃくちゃ怖かったです……」

手が震え、冷や汗が噴き出ている。

「メグミ様、お水です!」

「タオルお使い下さい!」

ラムとアガベが急いで走り寄る。

「そんなになってるのによくあんな動き出来ますね、凄いや」

この二日半、メグミの闘いを見ていたネモは驚嘆していた。

速く精確、激しく動きながらも息を切らさず、然るべきタイミングで無駄なく詠唱・発動。

魔法戦闘テストで百点満点中、百二十点取れるような完璧過ぎる動き――それを一介の政務官がやってのけていることに。

(ジェラルド、これは僕達が下手に本気出すより、メグミさんにこのままやってもらうほうが……)

(そうだな。我々のためにも、それに、ついでと言ってはなんだが彼女の今後の為にも、それが良いと思う)

念話を終えると、ジェラルドがメグミに近づき語りかける。

「何を言いますか。初めて会った時と比べて動きが別人です。確実に、訓練の芽は出てると言っても良い」

本音と共に、このままメグミを主とし闘いたいジェラルドはフォローを入れる。

「そうでしょうか」

「はい。自信を持ってください。この後、休息を取ったら空生のワイバーンの生息域――あの岩山付近がいいでしょうかね。あそこに行きましょう。今の貴方なら闘えるはず。駄目なら私達が戦えばいいし、このまま一気に行ってしまいましょう」

「は……はいっ!」

メグミは一瞬躊躇うも、覚悟を決めて頷いた。


−休憩後−

食事を取り体力も回復させた一行はまたトラウマ克服の陣形を作り、先程ジェラルドが言っていた岩山へ向かう。

だが、様子がおかしい。

普段ならばワイバーンの生息地にこの様な岩山、小五月蝿いほどに空生ワイバーンが飛び回っているはず。

「妙だな……っ!?」

天を仰いだジェラルドの鼻に強烈な血と肉の匂いが飛び込む。

「ネモ! メグミさんを結界の中に!」

「えっ!? わ……分かった!」

疾風の様に結界から飛び出しメグミを捕まえジェラルドの元に戻るネモ。

「ふぇ!? ど……どうしたんですかネモさん?」

戸惑うメグミ、ジェラルドが代わりに返答する。

「明らかに様子がおかしい、明らかにこの先に大量のワイバーンの死体の山がある」

「え!? どういう事?」

「わからん、皆、結界の中から出ないでほしい、慎重に進もう」

結界の中でゆっくりと山を登る一行、徐々に徐々に、獣人ではない他の四人にも死臭が香って来る。

「一体何が……」

「不気味ですね……」

登る内に急に、高低差で遠くから確認できなかった鉢状の窪地が現れる。

その中に貯められていたのは大量のワイバーンの死体。

いや、捕食すらされていない、バラバラに惨殺されただけのワイバーンの肉片の山だった。




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