3-3 戦力の把握
相変わらずのどんよりとした雲の下、メグミを先頭に歩く五人。
あちこちからまだ逃げていないワイバーンの雄叫びや悲鳴が聞こえてくる
メグミは昨日よりは体調を持ち直したようだ。
同僚に支えられ、自身の使命を思い出し、自身を奮い立たせているのだろう。
黙々と歩く五人、ジェラルドが口を開く。
「時に三人方、貴方達はどれ程の、そしてどの様な魔法をお使いになられるのでしょうか? いざ何かと交戦となった時に知っておきたい」
メグミが、ハッとして答える。
「そ、そうでした、まずそこから聞かなければいけませんでしたね」
恐怖故にパーティ戦の基本すら忘れていたメグミは慌てて謝罪する。
「我々は基本的にはイベルダルクの上級魔法までは使えます、銀錬一喝や月光岩穿など、有名所は大体使えて、練度も……まあ多少の自身はございます」
「イベルダルクの……」
「我々は神都からの公務官故に実力さえ伴えば行使を許されております」
「なるほど、しかしそこまで使えるとは……私は基本的な術に加えて大地や武器の神と契約しております、詠唱の隙さえ頂ければここから半径十メートル周りの地面を操り、壁やトラップ、手持ち武器を創る位は出来ると思ってもらえれば」
「この一帯……凄いですね……いざという時には頼りにさせて頂きます……ネモ様は?」
「僕は氷狼王や氷の精霊さん達と契約してます、普通のワイバーン位だったら一発だけど、ご存知の通り少し詠唱長めなのが多いから、僕もいざという時は時間稼ぎしてもらえると嬉しいですね、でも剣も使えるからそこまで心配しなくても良いかな」
「氷狼王!? あの!?」
ラムとアガベは驚く。
「氷狼王って……質素倹約な生き方をしていないと契約できないんじゃ……」
「ネモ様、昨日結構酒と肉いってましたし、そのめちゃくちゃ高級そうなアクセサリーと鎧、大丈夫なんですか……」
ネモは気まずそうに頭を掻きながら言う。
「いやぁ、色々事情がございまして……」
コホンと咳払いしたメグミが会話を遮る。
「個々の事情を詮索するのはよしましょう、今は皆様が何が出来るかです」
ジェラルドも腕を組みながら、話を逸らすために言う。
「そうですね、今は誰が何処まで何が出来るかを把握しておきたいだけなので」
「すみません、出過ぎた真似を……」
ラムとアガベはネモに頭を下げる。
ネモは微笑みながら手を軽く振る。
「いえ、疑問は当然です、でも氷狼王の意に反しているわけでは無いのでお気になさらず」
「そうなのですか」
「でもお互い、今出来ることだけは隠し事無しで行きましょう」
メグミは深く頷く。
「承知しました、お互い誠心誠意で共に行きましょう」
「……メグミ様……」
しかしそこでアガベが少し重い口をメグミにこっそりと開く。
「……では、メグミ様も一つ言わなければならない事があるのでは」
「何のことです……」
「夜に……修練場で……」
「……見てたのですね」
「あれも話すべきでは、いざという時にあれほど頼りになる魔法は……」
「しかし……あれはイベルダルクの最上級魔法……まだ私には制御が……」
コソコソ話す二人に流石獣人というべきか、耳の良いジェラルドが言葉を挟む。
「申し訳ないですが全て聞こえていますよ……お二人とも」
「あ……申し訳ございません、メグミ様っ!」
慌てるアガベ。
腕を組みながらジェラルドは問う。
「イベルダルクの最上級魔法を使えるといいましたが……」
緊張した空気。
それを切り裂くようにネモがびっくりしたかのように叫ぶ。
「最上級って、燼滅巨神爪っ!?」
メグミは少し驚いた様子で言う。
「なっ……!? なぜご存知なのですか!?」
「はえっ? なに? そんなびっくりする事!?」
その反応に驚くネモ。
ジェラルドが念話魔法を使いながらネモの背中を強くつねる。
(普通の人はイベルダルクの最上級魔法がある事は知ってても燼滅巨神爪って名前は知らないんだよっ!)
(ごめんごめんっ!)
(まあいいっ、何らかの事情で知ってる体でいく)
「こいつは昔その魔法を目の前で見ていましてね、イベルダルクの最上級魔法というと燼滅巨神爪だと思ってる節がありまして、私もその語りを酔ったこいつから何度も聞かされているんですよ……」
「いや……私が最上級魔法を使えるのは事実でございますが、いや……その……」
よくわからない気まずさに包まれる一行、次の言葉をどう紡ぐか各々が逡巡している。
「ハァ……」
メグミが大きな溜息をつく。
「これから生死を共にする貴方達に嘘を言うのはよくありませんね、確かに私は燼滅巨神爪を発動はできます……」
ジェラルドはその言葉に驚く。
「信じられないが、それが本当であれば素晴らしい、それならば本来はワイバーンなど取るに足らず、何も恐れる必要は無いはず」
自嘲気味に首を横に振るメグミ。
「あれはまだまだ制御出来ていないのです、あまり巧く動かせませんしそれに長く維持できません、実戦で使うにはまだまだなのです」
「そうなんですか……ですがそもそも出すこと自体が常人にはほぼ不可能な魔法と聞いています、それが曲がりなりにも出せるというのであればやはり貴方は頼りになりそうだ」
「……そうですね、この様にワイバーンに腰の引けている情けない状況でなければ、もっと胸を張って私に任せろとも言えるんですけどね」
「……であれば、もし貴方が……」
語る二人のその背後から雷鳴の様な叫びが響く。
「ガアァァァッ!」
体長十メートル程の赤い鱗のワイバーンが五人に突撃する。
「一夜儚の霜剣!」
「錬煉鉄火!」
ネモとジェラルドが詠唱破棄をした魔法で武器を展開、氷の剣と岩の斧が速攻で赤いワイバーンを叩き落とす。
「アギャアァッ!!」
翼を削がれ腱を断たれたワイバーンはもんどりうって地面を転がる。
そこにラムとアガベがイベルダルクの高位魔法を唱える。
「イベルダルクの護り神!貴殿を害する不届き者に、清らかな神の鉄鎚を、銀練一喝!」
響く激音、震える大気。
二つの尖った鉄鎚がワイバーンを叩き潰す。
その鉄鎚に押し出された血と内臓を吐き散らしワイバーンは血を花のように吹き沈黙。
四人が鮮やかにワイバーンを叩きのめす中、メグミは二歩も三歩も出遅れてレイピアを構える。
震えるその手、弾ける動悸、勇敢な四人に感化され腰を抜かす事もなく必死にレイピアを構える姿。
ネモ達四人の目に映るそのメグミの姿はトラウマに立ち向かう姿。
しかしメグミの見た、ワイバーンの屍の瞳に映った自身の姿はどうしようもないゴミの様な臆病者の姿。
「畜生……」
メグミは震える自身のレイピアを見て小さく小さく呟いた。




