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3-1 ワイバーン襲撃調査

曇天、暑くしっとりとした空気が頬に纏わりつく。

熱気を孕んだ湿気はまるで重量すら感じる程に重苦しい。

街の出口の石門の前でネモはジェラルドに悪戯っぽく語り掛ける。

「しかしやりますねぇー獅子軍神様、面倒な手続き全てぶん投げで美味しいとこだけ啜るなんてー」

腕組みをして溜息を付きながらジェラルドは応える。

「少しばかり楽しくて調子に乗りすぎたかもしれん……後で報酬の幾らかは渡すつもりだ……」

「いや良いよ、貰えるもんは貰っちゃいなよー、路銀はあって困ること無いでしょ」

「…………気前よくイベルダルクの神官にサファイアの高いピアスをくれてやった奴がいう台詞かね」

「あの時はあの時! それにまだ沢山持ってるし! それにあれは半端な覚悟で換金できるもんじゃないよ」

「まあ確かにお前の馬鹿高いアクセサリーを売買出来る所なんぞ本気で探さないと無いよな、……ん……おい、来たみたいだぞ」

頑丈そうな黒い馬車が二人の目の前に止まる。

その中から公務官の野外行動用の制服を来た三人の人間が出て来る。

先頭に女性、後ろに男女1人づつ。

(精鋭、特に真ん中の短髪銀髪の眼鏡の彼女……)

ジェラルドは少しばかり警戒する。


「貴方達が、ゴーデム準一級組合員の紹介のジェラルド・ハンマーロック様とネモ・アイソリテュード様で間違いございませんか?」

二人の偽名を呼ぶ銀髪。

「はい、あなた方が今回のワイバーン襲撃の……?」

女性は眼鏡をクイッと上げる。

「はい、そのとおりです、私はソルトマウントの公務官のメグミ・ホウジョウ、後ろの二人は部下の……女性はラム・ハイト、男性はアガベ・ドラゴと言います」

二人はペコリと頭を下げる。

ジェラルドとネモも応じて頭を下げる。

「宜しくお願いします」

「こちらこそ……無駄話はお望みでは無いでしょうし、早速目的地へ……」

メグミは二人を上品な仕草で馬車に案内する。


ガタゴトと揺れる馬車の中、しかしそれに対策されたバネ等の緩衝材で居心地は悪くない。

中々の高級馬車であろう。

だがメグミの顔色が少し優れない。

「馬車酔いですか……こちらは少し休んでも……」

「いえ、お気遣いなく……目的地に着くまでの間、今回の目的と動き方を確認させて頂きます。」

馬車の中でメグミは地図を広げる。

「…………と……その前にお聞き致します……、今回の件はお二人はどれ程把握されていますか?」

ジェラルドが答える。

「ここから南に餌の豊かなワイバーンの群生地、そこに巣食うワイバーン達がソルトマウント周辺になぜか大挙している、そして街の公務官はそれの対応に追われているが、そもそもワイバーンと直接戦える様な魔法使いが足りない、しかし市民の混乱、不満は増すばかり、問題を早急に沈静化したい、可能であればさっさと解決まで持っていきたい……その原因である突然現れたドラゴン(精霊憑きのワイバーン)速やかに討伐したい、この認識で宜しいか」

メグミの顔が一瞬曇る。

「そんな内情まで説明した者が居るのですか……」

ジェラルドはあわてて否定する。

「いや……状況を見てそんなところかな……と」

「やはりゴーデム様の紹介は正しかったようですね……流石の洞察力です……そのとおりです」

ネモはジェラルドに念話魔法を使い語り掛ける。

(あのスキンヘッド、意外と信用あるんだね)

(地頭の良さと実力、それに信用がねえと流石にあんな勝手は出来ねえよ……)

(地頭……スキンヘッドだけに?)

(わざわざ念話魔法で馬鹿を言うな)

メグミは続ける。

「おっしゃる通り、そのドラゴンが発生したワイバーンの群生地、カグツチ湖周辺を調査しドラゴンを捜索、そしてドラゴンと接敵した際の我々の護衛、いや護衛と言うよりは有事の際に共闘して頂く、それが貴方達の御仕事で御座います、恐らく大変な危険が伴うでしょうが……改めて……お願い頂けますか?」

ネモとジェラルドは答える。

「もちろんです」

メグミは上品に頭を下げる。

「……頼りにしております」



「どんよりとしたテンションの下がる曇り空! 遠くに飛び交うワイバーン! うーん……きもちいいねぇっ……!」

馬車から降りて伸びをするネモ。

「言葉の前後が繋がってないぞ」

「何も無い馬車の中よりワイバーンの飛ぶ空のが僕は好きだね」

じっとしているのが苦手な彼にはさぞかし苦痛だったのだろう。

「……お前らしいわ」

呑気な二人にメグミが少し釘を刺す。

「ジェラルド様、ネモ様、ここからは先はいつ何時ワイバーンに襲われるか分かりません、お気をつけを……」

「承知した」

「はいっ」


湖を回りながら山道を歩む五人、ワイバーンに目をつけられぬよう静かに歩みゆく。

「アアギャーッ!」

そこに目を付け割入るように超小型のライトワイバーンが風を切り裂きながら飛来、狙いをメグミに見定め、飛び掛かる。

しかし。

「……っ! ハァッ!」

メグミはワイバーンの喉を引っ掴み柔道技の様に地面に叩き落とす。

「オゲェッ!」

気絶し嘔吐するワイバーン。

「ヒュウッ!! お見事!」

「素晴らしい」

ネモは大はしゃぎ、ジェラルドは感心する。

そんな二人をみて少し微笑むメグミ、そしてそのまま自身の掌を眺める。

その掌は微かに震えていた。



調査の第一夜、今日はキャンプの準備を整え、本格的な調査は明日からだ。

五人は夕食と就寝の準備に入る。

メグミの仕留めたワイバーンの炭火焼きが今夜のメインディッシュ。

肉にはジェラルドが取ってきた香草を彩り、キツめに塩を振って弱火でじっくり焼く。

滲み出る塩と脂が香草の薫りを抽出し肉全体を覆っていく。

香しい薫りが場を包み込む。

多くが赤ワインと共に頂く為に唾を飲み込んで焼き上がりを待つ最中。

……メグミはそのパチパチと肉汁滴る小型ワイバーンの肉をいの一番に炭火から取り去り、雑に頬張る、そしてそれを無理矢理呑み込むために赤ワインを一気に飲み込み、そして口を拭いながら四人に言う。

「すみません、明日の為に私はもう寝ます、ラム、アガベ、寝る前に夜警の魔法を掛けておいて……お二人は明日に支障がない程度でお楽みください、私の事は、お気になさらず……」

そう言うとメグミは結界の中のテントに入り込み寝てしまった。

その様子を見てネモは小声で従者の二人に問いかける。

「ラムさん、アガベさん、もしかしてメグミさん……体調悪くしてません? 馬車でも顔色悪かったし、それにさっきから手が震えてるんですよね」

「隠してはいるが、バレバレだな」

ラムとアガベがこれまた小声で答える。

「いや、……申し訳ございませんお気を使わせて……すこし、メグミ様も気を張っておりまして」とアガベ。

「普段は結構、人と呑んだり食べたりも好きな方なんですけど……今回は少し」とラム。

「普段、気を張ってる……やはりメグミさんは今回の件では本調子ではないと言うか何か……少し怖がっている様な……」

「小型とはいえワイバーン背負投げするような人なのに何を怖がってんだか……というより今回の件に関しては僕達いらないんじゃないかってくらい強いよね、あの人」

ラムもアガベも項垂れながら無言となる。

二人とも手をギュッと握りしめている。

暫しの沈黙、そしてラムは静かに、メグミに聞こえないように二人に近寄り口を開く。

「実は……」

彼女から語られたその話は、どうしょうもなく腹立たしく、苛立たしい話であった。

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