19話:麒麟児、麒麟と戦う
ガギインッ!
そんな音とともに、聖剣から火花が飛び散る。
……こいつ、角の部分めっちゃ硬いな。
「――シッ!」
今度は角を避けて、直接肉を狙ってみる。
『ブモオオオ!!』
しかし、そう簡単にやらせてくれるはずもなく、俺が狙った部位に雷を集中させることで、麒麟は攻撃を弾いた。
「ハッ! 俺が魔術師だって忘れてねえか? 『ポセイドン・ウェーブ』!!」
だが、俺はそれに合わせるように最高位の水魔術を使う。
街を何個も覆いつくす津波を小範囲に凝縮して放つこの魔術は、きちんと距離をとらなければ自分も巻き込まれてしまう危険性がある。
当然、剣の間合いにいる麒麟に撃ったので、俺も津波に呑み込まれるが……
「『チャージ』」
聖剣が淡く光ると、俺の周りの津波だけが消えた。
刀身が淡く青色に光る。
『ッ……! ブルルア!!』
「……野生の勘でこの剣の恐さを感じ取ったか……だが」
津波によって流され、ダメージを負った麒麟が突進してくる。
その顔には確かな焦り表れていた。
「俺自身も恐いぜ! 『ゼピュロス・アサルト』!!」
角に雷を貯めながら向かってくる麒麟に、これまた最高位の風魔術を使う。
トルネードが音速をはるかに超えて対象を攻撃する。
最強の金属であるオリハルコンを砕くこの竜巻は、麒麟の双角に当たってもなお吹き飛ばした。
本来は二個射出するのだが、一つは聖剣の鍔に吸い込まれていった。
刀身の輝きに白が追加される。
「――ハア、ハア……まだいける!!」
さすがに最高位魔術二連は体に来る。というか、魔力がごっそりと削られる。
だが、この聖剣の切り札には相応の魔力が必要だ。あと二つ……いける!!
『ブルルルオオオオオオオオオン!!!!』
そんな俺の奮起と同時に、麒麟は双角に雷を溜め始めた。
……なんて魔力だ。
俺は、今までの中で一番強い麒麟の攻撃に備えるべく、魔力を練る。
「『プロメテウス・バスター』!!」
手で作った輪っかから、噴火のような勢いで……だが、マグマよりも超高熱な炎を噴出する。
この最高位の火魔術は、範囲こそ狭いものの威力は随一だ。
俺の噴火と麒麟の雷が激突し、地面が抉れ、爆散する。
聖剣が『プロメテウス・バスター』の一部を吸い込む。赤いオーラが追加された。
あと一つ。
「『ガイア・ストライク』!!」
俺が最高位の土魔術を詠唱すると、地面が揺れ始めた。
地震は術者である俺を中心とした半径一〇メートルで地割れを引き起こす。
そして、麒麟の足が割れ目に落ちた瞬間、地面が閉じていった。
これこそが『ガイア・ストライク』の力。空を飛んでいない限り確実に範囲内の生物の足を潰す、切り札をきる寸前に使うにはうってつけのものだ。
『ブルルアァ……』
麒麟が悲痛な声を漏らす。
足が潰されたから当然だ。
だが、彼の魔物が纏う雰囲気が悲痛から憤怒に変わっていった。
『ルアアアアアアアアアアアアア!!!!』
麒麟の双角が、先程とは比較にならないレベルで蓄電していく。
「――問題はないぜ。もう貯まったからな」
聖剣が、地割れを起こした地面から魔力を吸い取る。
地面は元の姿に戻っていき……聖剣の刀身に黒いオーラが付与された。
これで揃った。
青・白・赤・黒……すなわち、俺が使える水・風・火・土の最高位魔術の魔力が刀身を輝かし、混ざり合う。
これこそが聖剣のもう一つのスキルを発動させる条件。
スキルとは、魔剣などの特別なアイテムが持つ特別な力のことだ。
聖剣のスキルは二つ。
一つ目は《克己》。自分の魔術から魔力を抽出し、聖剣に貯蓄する。
これは、二つ目のスキルを使うのに必要なものだ。
「シッ!!」
全速力で足を潰して動けない麒麟に近づく。
「ハアアアアッ!!」
『ブルアアアア!!』
そして、剣と角がぶつかった。
『ブモオオオオオオオオ!!!!』
「『災厄の剣!!!!』」
津波・竜巻・噴火・地震……すなわち四つの自然災害と超高電圧の雷が激突する。
独り善がりな雷に対して、こちらは四つの力だ。
結果は――火を見るよりも明らかだった。
「アアアアアア!!」
裂帛の気合とともに、災害と化した聖剣が雷を、角を、肉を、骨を、命を切り裂く。
完全に二つに切っても、少しだけその姿勢で前に進む。体の制御が効かないほど、全力で疾走したからだ。
「……ハアアー」
背後を振り返ることなく深呼吸をする。
「……さすがに疲れた」
その呟きは、背後から鳴り響いたドカアアアアアアアアアアアアン!! という音にかき消された。
聖剣に貯めていた魔力が一気に解放されたことで、大きなエネルギー同士がぶつかり合って爆発を起こしたのだ。
爆発によって煙が起こる。
やがて煙が晴れ……そこにはもう麒麟の姿はなかった。
こうして、勇者としての俺の初戦闘は勝利に終わった。
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