手がかりの絵
「んー、どこかで見たような気がするなぁ……」
紙を見ながら露天商の男が首を捻る。
「えっと……どこで見たかとか……」
「うーん、どこだっけなぁ……うーん」
もう一押し必要な感じだな。
「絵を描く?」
「うん」
「絵、ねぇ……」
街について宿の部屋に入るなり、リディが「絵を描こう」と言い出した。俺が腐り神の中で受けたイメージを紙に描いて、それを見たことがある奴がいないか聞いて回ろうというわけだ。
「リディにしては考えたな」
「えへへ……」
「明日は雪が降るかもな」
「どういう意味よ?!」
リディが言うにはエルフは絵画や音楽の才能も優れている者が多く、リディの場合は絵が結構うまいらしい。
「と言うことで、紙もペンも用意したし、やるだけやってみましょ」
「まあ、いいか」
問題はどうやって伝えるか……念話で映像が送れたりしないのかな……やってみるか。
「こんな……感じ!」
「うわっとぉっ!何これ、スゴい!」
伝わったらしい……が、
「アレ?消えちゃった」
「ふう……映像も送れるとは、念話ってスゴいな……でもすっごく疲れる」
「あ、やっぱり疲れるんだ」
「おう」
だが、一瞬の映像イメージだけで充分らしく、リディがスラスラとペンを走らせる。
「おお」
「ふふーん、なかなかのモンでしょう?」
絵の具の類いは高いし、勿体ないので線画だけが、陰影をうまく表現しているから、これならうまく伝わる……わけないよな。だって、日本の風景だもん。こっちの世界では絶対に見ないだろう建物、服装に、車にバイクに自転車といった乗り物。どう考えても見つかると思えないが、一応、な。
「リディ」
「何?」
「何でも良いから店のものを買え」
「何でよ?」
「何も買わない奴にただで情報をやる奴なんて、早々いないだろ」
「ああ、うん、それもそうか」
リディがキョロキョロと並べられた品に目を走らせる。
「ん?」
「何だ?」
「これ……これ買います」
「おお、そうかい」
リディが木の実の入った袋を一つ指さして購入。
「やっぱり。これヘジの実だ」
「さすがエルフだね、よく知ってるじゃないか」
「まあね」
「そうそう思い出した。この絵、確か隣街の領主の館に飾られていたのにそっくりなんだ」
「領主の館に?」
「そうさ。ま、俺は領主様に招かれるほどの商人じゃないが、三ヶ月ほど前、街で祭りがあってな。その時に領主様の館に飾られている美術品が一部、公開されたんだ」
「へえ」
「その時に見た絵にそっくりなんだよ」
「そう。ありがとう」
「いやいや、こちらこそ」
リディがやや小走りに宿に向かって進む。
「手がかり、あったね」
「ああ」
意外だったな。多分、俺と同じように地球から転生してきた奴がいて、何となく絵を描いたのが領主の目に留まったとかそう言うことなんだろうか?
さて、そうなってくると、
「次の目的地も決まったわね!」
「そうだな」
どうやって領主の館にある絵を確認するのかとか、誰が描いたかを確認しなきゃならないとかあるけど、一歩前進だ。
隣の町までは結構距離があるので、昼過ぎの今から出発するのはやめて街をブラつく。
「そう言えば」
「ん?」
「ヘジの実なんて売ってたんだな」
「そうね。意外だったわ」
確かエルフたちの話だと、森のかなり深い方にしか生えてないんじゃなかったっけ?
「人間の街からだと採りに行くのも大変よね」
「わざわざ採りに行くほどの物なのか?」
「んー、そうね……だいたいの草食動物はヘジの実を食べられるらしいし、栄養も多いから病気やケガで弱っている家畜に与えるとか、そう言う使い方はするみたいね」
「それなりに需要はあるんだ」
「でも、私たちエルフは家畜なんて飼わないのよ」
「そうだっけ?村に鶏がいたような気がしたけど」
「自然に棲み着くのよ。卵とか美味しいからありがたいのよね」
「へえ……じゃ、エルフにとってヘジの木って?」
「んー、動物がたくさん暮らす、豊かな森かどうかを判断する基準かなぁ」
割とどうでも言い情報だったな。
適当に店を見て回り、空を飛びながらでも食える干した木の実に、結構使って減ってしまっている矢の補充なんかをした。
「本当は矢も自分で作った方が良いんだけどね」
「時間が無いから仕方ない、と」
「まあ、地竜みたいなのを相手にするんじゃなければこの程度の矢でも十分だし」
それ、店で一番高い奴だったよな。店主が聞いたら泣くぞ。
翌朝、朝食もそこそこに済ませると、冒険者ギルドへ出向いて、荷物運びみたいな簡単な仕事がないか確認。何しろ馬より早く移動できるし、ある程度の重さまでなら運ぶのも支障は無い。少しでも稼げるときに稼いでおくのは基本だ。
「それでは、お願いしますね」
「はい」
一応、国境を越えているので、これまでのリディの数々の偉業(?)は、まだこちらに伝わっておらず、街を出るときに引き留められることもなく、街を出るとすぐに空へ。
「馬で行くと十日の距離か」
「結構遠いから、速度上げるわよ」
「おう」
この季節だと向かい風になることも多いということで、俺はまた袋の中。
絵のことを考える。
俺がリディに描かせた絵は、日本の、そこそこ都会……県庁所在地ほどじゃないけど人口の多い市の駅周辺の様子だ。駅前にデパートがあり、バスターミナルがあって、通勤通学の一が行き交う、日本ではさほど珍しくもない風景だが、それとそっくりな絵か。
かなりの確率で日本人、そうでなくてもそこそこ先進国の人間だろう。
でも、何のためにそんな絵を描いた?他の転生者とかそう言うのを探すため?それとも貴族に面白半分に話したら絵を描く羽目になったとか?
そして最も重要なのは、そいつが何者かだ。
普通にこちらで赤ん坊として生まれ、前世の記憶とかそう言う系統なのか、それとも神様みたいな存在に「はい、こっちで暮らして下さい。チート能力とかサービスするんで」とか言われてこっちに来たとか?
俺の現状との関連も気になるな。俺自身、神様っぽいのには会ってない。あ、もしかして実は会ってたんだけど「ここでのことは記憶に残らない、自由に過ごすがいい」とか言われていたとか?
ああ、なんかあり得そうな気がしてきたぞ。
なんかポイントみたいのを提示されて、「このポイントの中で好きなように能力を割り振って」とか言われるんだ。で、ポイントが少ない分は「種族を変更するとポイントがもらえるぞ」みたい感じで。ああ、クソ。やっちまった系なのか、もしかして。
色々考えたが結論は出なかった。当たり前だけどな。
日が落ちる直前にようやく目的の街に到着。門が閉まる直前に慌てて駆け込んで冒険者ギルドへ。荷物運びの手続きを済ませると、領主の館の場所を確認する。
さすがに夜遅くに押しかける非常識はせず、とりあえず宿を取るが……
「どうやって領主の館に入るんだ?」
「え?」
「えってお前……」
「だって、そういうの考えるのって、ユージの役割じゃない」
「あのな……」
「まさか、強引に忍び込む?出来ないことはないけど、さすがにちょっと……」
「待て待て、早まるな」
「じゃ、どうするの?」
「とりあえず明日からしばらく情報収集だ」
「情報収集?」
「ここの領主がどんな奴か確認しよう」
「確認してどうするの?」
「悪事の限りを尽くす領主ならそれなりの対応があるし、立派な領主ならそれはそれで。そこまで極端じゃなくても何が好きで何が嫌いとか調べようぜ」
「う……わかった」
口ごもる理由はわかるよ。人間相手の対人スキル、低いからな。でも、頑張ってくれ。
「色々情報収集頑張ったら……フニフニしてやるから」
「頑張る!」
何だこの単細胞。




