領主に会いたい
「詰んだな……」
「うん……」
街でそれとなく領主の評判を聞いてみたのだが……立派な領主だった。
勿論、住民にしてみれば税金を巻き上げる立場だからそれなりに思うところはある。だが、贅沢をするわけでもなく、街のために色々と手を尽くしていて好評価だ。
確かにそう言われてみると、街並みも綺麗だし、あまりゴミも落ちていない。今までに立ち寄ってきた街は多かれ少なかれ、変な臭いが漂っていたりしたのだが、そう言うことも無い。そして本来冒険者ギルドには権力者が関わらないのだが、積極的に出資――と言う名の周辺の村の困りごと解決依頼――をしていて、冒険者たちの評判も良く、周辺の魔物も少ない。
「ここまで良い領主だと、付け入る隙が無いな」
「ユージ、どうするの?」
「うーん……」
この街もそうだが、基本的にどの街もそれなりによく治められていると思う。他の街の話もチラホラ聞いていたが、私腹を肥やす悪徳領主ってのはいないらしく、どの街も、地理的条件による多少の差はあるが税も重くなく、治安も程々に良く、住民も皆明るく暮らしている。
そして、領主の館にある美術品というのも、領主が買い漁ったのではなく、住民が手作りしたモノを税金の一部として収めたモノらしいから、贅沢三昧ではない。
「こうなったら」
「ん?」
「エルフの秘伝作戦だ」
「えー……」
「何だよ」
「うー……それ、また私が苦労するんじゃないの?」
「それは否定しない」
「じゃ、ヤダ」
「まあ、そう言わずに」
ごく僅かな可能性に賭けた作戦をリディに伝える。これにうまく乗ってくれるかどうか微妙だが……
「そもそもエルフってほとんど人間の街にいないよな?」
「そうね」
「つまり、今ここにいるリディって、かなり貴重なんだよ」
「貴重?」
「そう」
「んー?」
そりゃ、エルフ本人にしてみれば、エルフなんて珍しくもなんともないだろうけどな。
「そもそも世間一般でのエルフの認識って何だ?」
「ユージはいつも笑うけど、様々な知識を持ち、魔法にも武力にも長け、長い寿命を持つ種族、でしょう?」
「そう、その通り」
実際、街で話を聞いているときも、相手はリディのことをそんな風に見ている節はあった。実際の中身は残念極まりないエルフだが、見た目ではわからないからな。
「そんなエルフが領主の館を表敬訪問すると言ったら、断ると思うか?」
「あー、うん。断られないかも」
「だろ?」
「でも、それでうまく中に入っても、何を話せば良いのよ。渡せるような物も持ってないし、教えられる事なんてたかが知れてるわよ?」
「そうだな。だが」
「だが?」
「こう言う言葉がある。俺の常識はお前の非常識」
「何それ」
「リディが普通のことだと思っていることも、人間の領主にとっては思いも寄らぬ事ってのはたくさんあるハズなんだ」
「そう言われても……すぐに思いつかないわよ。それに思いついたとしても、確認させてくれって言われたらどうするの?」
「どうって?」
「現物見せないと説得力が無いこととかだったら、どうにも出来ないじゃない。さすがに何でもかんでも持ち歩いてるわけじゃないのよ?」
「うーん……」
どうしたものか。何でも良いから理由をつけて領主に話を聞ければ良いのだが。
ま、考えてみれば日本だって、「市長に話を聞く」なんて気軽に出来たわけじゃないから、この状況も当たり前なんだけどな。
「んー、困ったな」
「どうするのよ?」
「こういうときは」
「ときは?」
「冒険者ギルド、行ってみようぜ」
「え?」
「面倒くさそうな依頼とか出てるかも知れないだろ?」
「面倒くさそうって……」
「解決が難しいって事は、この街での困りごとだろ?」
「そう……なのかな」
「全部が全部そうとは言えないけどな。でも、困りごとを解決したエルフです!ってのは売り文句にならないか?」
「そう言う物なのかしら?」
「ま、行くだけ行ってみようぜ」
「うん」
「塩漬けになってるような依頼、無かったな」
「そうね……」
どうも、ここに集まっている冒険者たちは領主の人柄のせいか、優秀な人材が多いらしく、強い魔物の発生とかいった、厄介な依頼もスイスイこなしているらしい。
「んー、ちょっと変わった依頼とかそう言うのは無いか?」
「変わった依頼、ねぇ……」
リディが貼り出されている依頼を見ていると、ギルド職員が近づいてきた。
「あの、Cランク冒険者のリディさん、でいいですよね?」
「はい、何でしょうか」
「仕事、お探しでしょうか?」
「え、ええ……まあ……探していると言えば、探しています」
生活には困っていないけど、とリディは心の中で付け足しておく。
「ちょっとだけ、お時間いいですか?」
「ええ、別に構いませんけど」
「よかった。こちらへ」
ギルド職員に連れられて、別室へ。支部長にでも引き合わせるのかと思ったが、違った。単に他の冒険者に聞かせづらい話をするだけだろう。
「リディさんでないと出来そうにないというか、出来ない依頼があるのです」
「私限定?」
「その……大変申し上げづらいというか、お断りいただいてもいいのですが……」
「まあ、聞くだけ聞きます」
「実は、この街の領主である、ストファス伯爵が、一度会いたいと」
「私に合いたい?」
「その……聞くところによると、リディさんがこの街の治安とか気にされていたようなのですが……この街にお住まいになる予定なのでしょうか?」
「え?」
「その……エルフが人間の街でそういったことを確認するというのは珍しいことでして、少し噂になっているようなんです。それが領主の耳に入ったらしく、一度会ってみたいと」
「はあ……」
「ギルドとしてはそれぞれの冒険者の自主性を尊重していますので、強制することはありませんが、そういった話がある、と言うことはお伝えしなければなりませんので」
「わかりました。いいですよ」
「領主様の気まぐれですからお断りいただいても構わな……え?いいんですか?」
「ええ。別に構いませんよ」
街で聞いてる話からすると、いきなり取って食われるわけでも無いでしょうし、とリディは付け加えた。
「わ、わかりました。その旨、伝えておきます」
「はい……で、私はどうすれば?」
「そうですね。それほど待つことはないと思いますが、日時の返事があるはずですので、それを確認してからと言うことに」
「わかりました。えーと……それはそれで、どうすればいいのかな?」
「そうですね……今から返事を送って……明日の朝、受付に来てください」
「了解。話はそれだけ?」
「はい」
「じゃ、また明日、ね」
「はい、お願いします」
用が済んだのでギルドをあとにする。
「何か、うまくいっちゃったね」
「そうだな。色々聞いて回ってたのは無駄じゃ無かったな」
この街に限った話じゃ無いが、街でリディ以外のエルフを見かけないから、あちこちフラフラしながら街のことを聞いて回るエルフというのは目立つ。
そうすれば、こうなることも有るだろうと思っていたが、思ったよりも反応が早かった。
領主が街の様子をいつも気にかけていると言うことなのだろうが、ちょっとした変化が悪い兆候になることもあると心配しているのか、疑心暗鬼に駆られて常に見張っているのか、どっちだろうな。まあいいか。とりあえず領主と会えそうだ。
だが、問題は……いきなりヘンテコな絵を見せてもらって、どういう経緯で絵を入手したのか、とか聞くのは怪しいって事だろうな。
うまくごまかすとしても、一方的にこちらが情報をくれ、というのは何かとマズい。こちらから出せる情報か何か用意しておかないと。
「って、言われても何も無いわよ……」
「エルフの秘伝とか」
「うう……それはもういいじゃ無い」
「そうだけどさ。何かこう、教えても問題ないこととか無いのか?」
「教えても問題ない事ねえ……たくさんあるけど、エルフにしか意味の無いことが多いわよ?」
「例えば?」
「エルフの名前の付け方とか、成長に合わせて行う儀礼とか。エルフだけ知ってればいいことで、人間が知っても意味ないでしょ?」
確かにな。
でも、何か用意しないとな……何がいいだろうか。




