怪鳥
族長は朝まで帰ってこないだろうと言うことで、簡単に食事を済ませて寝ることにした。
ユージはヘジの実、リディはパンに野菜の炒め物という簡単な物だが。
「だから俺にナイフを向けるな」
「気のせいよ?」
「そう言いながらフォークを刺そうとするな」
「やだなあ、そんなことしないわよ」
油断ならんな。
「ちょっと心配だわ」
ベッドに潜り込んだリディがぽつりと呟く。
「何が?」
もう眠いんだが、と思いながら適当に答えると、モゾモゾとこちらを向き、話し始める。
「そろそろね、ロック鳥の時期なんだよ」
「ロック鳥?」
「知らないかな?大きな鳥なんだけど」
「んー、知らん」
ファンタジー系のRPGに出てきたような気もするが、あまり覚えてないな。
「ちょっと東に行った山にロック鳥が棲んでるところがあるんだけど、そろそろロック鳥の雛鳥が巣立ちなのよ」
「へえ」
「で、この村って、上からは普通に見えるから」
「ふむふむ」
「毎年その巣立ちしたばかりの若鳥に襲われるんだ」
「おいいいいい!!!!」
ちょっと待てよ、それどういうことだよ。
「まあ、いつも追い払ってるし、程々に痛めつければ、ここには来なくなるんだけど」
「何だ、良かった。何が心配なんだ?」
「父さんたち、多分森へもう一度出掛けると思う」
「アレを調べに?」
「うん」
「でも、見たままを伝えたし、多分、その……なんだっけ」
「腐り神」
「そう、それ。その腐り神で決まりじゃ無いのか?」
「そうだけど」
「ならいいだろ?」
「それがいつ頃ここに来るのか、今どのくらいの大きさなのか、確認しに行くと思う」
「ああ」
「私は残ると思うんだけど。私じゃロック鳥は追い払えないの」
「他には?」
「……多分、残る中で一番戦えるの、私だと思う」
「さてと、今からでも遅くないから巣に戻るわ」
「待ちなさい」
「はい」
どこから出したよその包丁。って言うか、包丁を持ってベッドに入るなよ。
「ここまで来たら乗りかかった舟よ。ユージもそこそこ強いんでしょう?協力しなさい」
「出来ればその舟、降りたいんですけど」
「残念ね、もう出港して世間の荒波にもまれてるわ」
「そんなあ」
そんな舟イヤだ。きっと船名は泥舟か、氷山で沈んだあの豪華客船のどちらかだ。
「大丈夫よ。私だけだと、ちょっと厳しいってだけだから。ユージが手伝ってくれれば」
「そうなのか」
「お願い。ね?」
「はあ……仕方ないか」
お願い、と手を合わせてちょっと小首を傾げるあたり、あざとい。だが、可愛いから許してしまう。
とりあえず、大人しくここにいるからと伝えると、安心したのかすうすうと寝息を立て始めた。こうして大人しく寝ている姿は紛れもなく美少女なんだ。
「ぐあぁぁぁ……むにゅ……ギシギシ……がっ」
イビキ、歯ぎしり、寝間着をまくって腹をボリボリ掻くの三セットさえ無ければ文句なしの美少女なんだ。
ロック鳥か。少しだけ思い出した。確か発祥はインドだっけ?足の爪で象を掴んで飛べる程の巨大な鳥だったかな。
リディ……俺がいたら勝てるってホントに思ってるのか?巣立ったばかりの若鳥なら、多分それほど強くないという見方もあるかも知れないけど。
「ま、なるようになるさ」
気楽に考えることにした。
あくまでもそろそろ巣立ちと言うだけで、明日明後日に巣立ち&襲撃イベントじゃないだろうし。
翌朝、まだ日も昇らない時間に物音がして目が覚めた。リディは……ベッドの上で大の字……だったらまだ可愛い方か。真横になってて頭と足がベッドからはみ出している。
「ふが……ふみゅ……」
物音はこいつでは無いな。カゴから出て家具の段差を伝いながら床へ降り、ドアへ。
ドアの下は俺が通れるくらいの大きな隙間があるのでくぐり抜けるとセイルが背負い袋(?)に何かを詰め込んだところだった。
「族長?」
「ん?ああ、ユージか」
「出掛けるのか?」
「森の様子を見ることになってな。何、すぐそこの森だ。日が暮れるまでには戻ってこれる」
「そうか」
「おっと、そう言えば」
「ん?」
「朝メシの用意が無かったな。ちょうどいいから姿焼きにして、歩きながら」
「おいいい!」
「可愛いエルフジョークじゃねえか」
「どこが可愛いんだよ?!」
冗談に聞こえないから怖いんだよ。
「あ、そう言えば」
「何だ?」
「リディから聞いたんだけど、ロック鳥の巣立ちが近いって」
「ああ、そうだな。この前の雨から……五日か?そろそろだな」
「大丈夫なのか?この村に残る戦力、リディだけって言ってたぞ」
「んー。多分大丈夫だ」
「アイツ、一人じゃ無理って言ってたぞ」
「お前がいるじゃ無いか」
「俺?」
「礼はする。だからリディの力になってくれ」
俺、戦力としてカウントできるほど強いのか?親子揃って俺を買い被りすぎじゃ無いか?
「はあ……わかった。出来るだけのことはする」
「頼むぞ」
「あまり期待しないでくれ」
「はっはっは。では行ってくる」
「気をつけてな」
「おう」
そう言って玄関を出て行ったが……リディを起こすか。色々話をしたい。
「うぉぉぁぁ……」
リディの部屋に行こうとしたら、外からおっさんの悲鳴が聞こえる。まさかと思うが、踏み外して落下したんじゃないよな?
「んあ……何の音?」
ガチャリとドアを開けてリディが出てきた。
髪はボサボサのままは仕方ないとしても、ケツをボリボリ掻きながら出てくるなと言いたい。
「今、族長が出掛けていったとこ」
「ふーん……また、落ちたのかな」
「また?」
「よく落ちるんだよね」
「って、大丈夫なのか?」
「あのくらいじゃどうって事無いわよ。ふあ……そっか、森に行ったんだ」
「ああ……ロック鳥の件はリディに任せるってさ」
「ふーん……ま、いいか。朝ご飯にしましょ」
「お、おう」
「こっち来て」
「ん?何だ?」
ヒョイッと抱き上げられ、鉄板の上に。
「って、姿焼き作る気満々だな!」
「バレたか」
「お前いい加減に」
「んもぉ、可愛いエルフジョークよ、エルフジョーク」
エルフジョークの定義が知りたい。
朝食を終え、窓から外を眺める。下の方ではリディが村の連中と何やらワイワイやっている。見た感じ子供ばっかり。村に残っている中で一番年上なのがリディなのか?最初に村に来たときに見かけた大阪オバチャン風エルフも森へ調査に行っているのだろうか?
ボーッと眺めていたらリディの姿が消え、すぐに窓の前に現れた。
「ユージ」
「ん?何だ?」
「子供たちに紹介して上げる」
「え?いいよ別に」
「そう言わないで。ほら、ロック鳥が来たとき、ユージがいきなり戦い始めたら皆びっくりしちゃうだろうし」
「んー、そうか……」
「ね?」
「わかった」
リディに抱えられて下に。
「ほら、これがさっき話してたユージよ」
「よ、よろしくな」
十歳にもならないエルフの子供たちのキラキラとした視線。汚れのない、純粋で真っ直ぐな目。ちょっと癒やされる。うんうん、子供は純真でいいな。
「ねーねー、リディ」
「ん?なーに?」
一人の男の子が近づいてくる。
「ユージってさあ」
「ん?」
「フライにするの?姿焼き?それとも煮込み?」
「ちょっと待てコラ!お前らいい加減にしろ!」
「わーい、ユージが怒った-」
「怒ったー」
キャイキャイと騒ぎながら駆け回る子供たち。
「まあまあユージ」
「ん?何だよ?」
「エルフジョークよ」
「どこがエルフジョークだ!」
何でもエルフジョークで済ますな、という突っ込み歓迎。




