襲撃
昼頃に一度家まで戻る。
特にすることもないので、昼寝でもするかと、リディの部屋へ行き、カゴの中へ。うとうととしていたら物音と話し声が聞こえ、しばらくするとリディが部屋にやって来た。何だろうかと思っていたら、着替え始めた。やや残念な感じではあるが一応エルフの美少女の生着替え……何故かカゴの上に毛布が掛かっていて見えないんですけど?
「どっか行くのか?」
「ん、ちょっとね」
「ちょっと?」
「キール……村の子がね、森で変な物を見つけたって言うから確認に行ってくる」
「変な物?」
「うん。見たことないものだって。ほんとはもっと年上の……大人のエルフが見に行くべきなんだけど、今誰もいないから私が」
「今この村でお前が一番年上で、一番離れちゃいけない人物なんじゃ無いか?」
「そうだけど……でも、何かあってからじゃ遅いし」
「それもそうか」
「と言うわけで、留守番お願い」
「どういうわけだかわからないが……」
「一時間くらいで戻れるはずだから。ね?」
「まあいいけど……」
「うん、よろしく!」
「待て!」
慌てて出て行こうとするのを留めた。
「何よ?」
「カゴの上の毛布、取ってくれ。これじゃ外の様子がわからないし、出られない」
「ゴメン」
俺では玄関のドアを開けられないので、外に出してもらう。高さ約三十メートルの位置だが、見張りだけなら問題ないだろう。
「じゃ、行ってくるね!」
俺を玄関先におくと、そのまま飛び降りていった。この高さからためらうこと無く飛び降りるとはね。
リディを見送った後はのんびりと日向ぼっこになってしまった。この高さからは俺一人じゃ降りられないし、下からは俺の姿が見えないから子供たちも登ってこないし。
目を閉じた状態で照準を使用してみる。目を閉じているから何も見えないはずなのに、三百六十度全方位が見えるという不思議な感覚。だが、今後のことを考えるとこの感覚になれておく必要がある。意識を向けるだけでそちらの方角が見える。死角のないハリネズミだな。
「なんだあれー?」
不意に子供たちの声が聞こえた。ん?何だ?空に?え?
ほぼ真上に何かの影が見える。何だろうかとみている間にもどんどん影が大きくなってくる?
「なんだろー?」
「ねー」
「俺知ってる-」
「何ー?」
「あれ、ロック鳥って言うんだぜ」
へえ、アレがロック鳥……って、ええええ!!
確かによく見ると鳥の形をしている。翼をやや折りたたみ、村に向けて急降下している!
「チッ、やっぱりタイミングが悪い!」
慌ててて、玄関先の板の縁まで駆け寄り下を覗くと、子供たちが見上げてキャーキャー言っている。危機感のない奴らめ。
「おい!全員家の中に入れ!食われちまうぞ!」
「あ、ユージだ-」
「ユージー」
「はーい、ユージだよーって、そうじゃねえ!速く逃げろ!」
クソッ、もう今から逃げても間に合いそうにない!肝心なときにリディがいないとは!
戦うしかない。
「火属性セット……この距離なら……飛針全弾発射!」
ドドドッと針を撃ち出す……全部ハズレ?え?
しまった。急降下してきているから、発射したときの照準ではロック鳥に当たらないんだ!
クソッ……リロードが遅い……まだか……まだか……!
目と鼻の先と錯覚するくらいに近づいた瞬間、リロードを終えた針を一斉に撃ち出す。
何発か当たり。
しかも翼を貫通した物まである。
「安心の攻撃力だな」
でも、全弾一斉発射はよく考えてからにしよう、うん。
「グァァァァァ!」
姿勢を変えてホバリングしながら、自分を攻撃してきた何かを探すロック鳥。
「俺はここだぜ!」
目の前に間抜け面を晒しているロック鳥へ針を撃ち込んで……と思ったら、ロック鳥が急上昇し、すぐに反転。俺めがけて突進してきた。慌てて反撃するが、回転しながら突っ込んで来るから、針が尽く弾かれる。反則過ぎだよ。
クソッどうする?
「キールが言ってた場所はこの辺かな?」
森の中を軽やかに走るリディ。
「んーと……あ、アレのことかな?」
普段の森では見かけない物を発見。すぐに近づくが、
「え……これって?」
マズい。これがあるのはマズい。
いや、コレ自体は別に放っておいても問題ない。森の生態系の中で勝手に分解され、土に還るから。
コレがあることがマズいのだ。
「急いで戻らないと」
風の魔法で身を包み、駆け出す。自分に出せる最高速で戻らなければ村が危ない。
あれは……ロック鳥のフン。この距離にあると言うことは村を見つけていてもおかしくない!
バチン!と音を立ててクチバシが閉じられる。そのひと咬みで、リディの家に取り付けられていた足場の板が数枚砕け散る。
俺はと言うと、食われるのはさすがにゴメンなので、一か八かで空中に飛び出していた。この高さから落ちたら普通に死にそうだが、食われて死ぬよりマシかなと考えて。
「グァァァァァ!」
ロック鳥がすぐにこちらに向きを変え、距離を詰めてくる。デカいクチバシだな。子供のエルフくらいなら一飲み出来そうだ。コレでまだ若鳥だとしたら、成鳥はどんなサイズだ?
とりあえず数発針を撃つが、さすがに空中をくるくる回転しながらだと狙いが全く定まらず、あらぬ方向へ撃ってしまう。自動追尾を取っておけば良かったと後悔するが今は仕方ない。
大きく開いたクチバシが迫ってくる。さすがに空中では逃げられない。
ここまでか……なんて諦めてたまるか。足掻いて足掻いて、生にしがみついてやる。
まさに俺の全身がクチバシの中に入り、閉じられようとした瞬間、五発同時発射。コレで何発かは喉に行く……といいな。
「ギャアァァァァ」
「うひゃああああ」
激痛でロック鳥が首を振り上げ、くちばしにほぼ挟まれていた俺はその勢いで空高く舞い上がる。これはヤバい。このままじゃセスファに叩き付けられちまう。思わず体を丸める。もうコレ、この体に染みついた防衛本能だ。
ガンッという衝撃……だけ。
「えーと……刺さったな」
俺の針は堅そうな木にそのまま突き刺さり、抜けなくなった。はい、身動き取れなくなりました。
しかも、微妙な位置が刺さっていて、体を開くことが出来ないから状況がわからん……って、照準使えばいいのか。
「グァァァァァ!」
って、こっちに来てる!
バツン!と言う音と共にロック鳥の口の中へ。
ああ……食われた……
「みんな!大丈夫?!」
村に飛び込んだリディが見たのは村の中で暴れ回るように飛ぶロック鳥。家や畑にも少し被害が出ているが、そんなことよりも子供たち!
「リディー帰ってきたー」
「ロック鳥ー」
小さな小屋から子供たちが顔を覗かせるので飛びつく。
「コレで全員?」
「そだよー」
一、二、三……よし、全員無事だ。
「でもねー、ユージが-」
「食べられた?」
「え?」
慌てて見上げる。エルフの視力はすぐにセスファに針が突き刺さって身動き出来ないユージを見つけた。そして、そのユージに向かい口を開くロック鳥。
今から矢を撃っても間に合わないし、この距離ではロック鳥の羽で防がれてまともに刺さらない。
自身の未熟さを悔いながら、家までの階段を駆け上がる。ロック鳥に破壊されて途中までしかないが、一番高い位置はここしかない。少しでも近づいて、撃ち殺してやる!




