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4-2 蜜の惑星-3

 「――カギノさんは、2010年代の後半に流行した、『異星人テロ』の噂をご存じですか?」

 「『異星人テロ』?何ですか、それ?」

 「2010年代後半に流行した、『地球は異星人によるテロによって滅亡の危機に瀕している』という噂話です。実際に、その頃には、世界各地で様々な種類のテロが頻発し、まさに『世界の終わり』のような混乱があったと言われています」

 「そう、なんですか……?」


 過去にそんなことがあったのか?今が2038年だから……20年前くらいの話か。だけど、そんな大きな事件なら語り継がれていてもおかしくはないような気がするが。

 というか異星人って、どういうことだ?何かの比喩か?


 「全然知りませんでした……」

 「まぁ、無理もありません。この一連の騒ぎは半年程で収束した、と言われていますし。テロ、というもの自体は現在も世界のどこかでは時々起こっているものです。世界はいつでも、どこでも安全という訳ではない……しかし、その噂が流行した頃のテロの発生率は人類の歴史上で飛びぬけて高かったのです。それらのテロの規模は甚大なものでした。地球人にはおおよそ不可能な程に……そう、『地球外に強力なパワーを持った生命体がいて、その者達の仕業なのだ』と言われる程に」

 「それが……『異星人』?本当にいた、と?」


 そう言うと、ノハナ社長は肩をすくめながら、ふっ、と笑った。


 「いやいや……私は信じられませんよ。かつてこの地球に異星人がいて、テロ行為を行っていた、なんて……しかし、祖父にはそう言われましたよ。『彼らはキブカ星人と言われていた』なんて、本当に存在したかのように話されましたよ」

 「……本当に地球外にそんな生命体がいたとしたら……僕らも知っているはずだと思うんですけど……だって、大発見でしょう、そんなの。20年ぐらい経っていようが、語り継がれているのが普通だと思うんですけど?」

 「祖父が言うには、『彼ら』はその登場も消失もあまりに唐突で現実感が無いもので、地球人達には受け入れがたいもので、結局、地球人達は『彼ら』の存在を『無かったこと』にして、『彼ら』がいた、という事実から目を背け、受け入れることを拒絶することを選択した……だから、その存在を証明するような確たる証拠を一切残さなかった……らしいですよ。だから、そんな話が後世に伝わらなかった、という話だそうです」

 「うーん……信じられない……」

 「全く、その通りです。しかし、祖父の話はこれだけではありませんでした。その『キブカ星人』と戦うために、『力』を手に入れた、というのです。その『力』の名は、『蜜』」

 「『蜜』……?」

 「『思い通りにする』力だそうです。要は何でもありの超能力だそうです」

 「ええー……」

 

 何そのファンタジー。それこそゲームのような話である。超能力って……荒唐無稽に過ぎるだろうが。


 「その『蜜』を使って、祖父は一度は『キブカ星人』と戦おうとしたのですが、戦って死ぬ事に対する恐怖に囚われてしまい、それからずっと身を隠して戦いをやり過ごしていたのだそうです。……祖父はその事に対して罪悪感をずっと感じていて、どうにかしてその罪悪感から目を背けたいが為に、せめて架空の世界では『戦う』ことがしたいと感じるようになり……SSLの開発に着手した……そうです」


 そう言ってノハナ社長は、『ハニー・プラネット』の方に視線を向けた。つられて自分も『ハニー・プラネット』を見つめる。


 「で、この『ハニー・プラネット』は……その『思い通りにする』力、『蜜』を使って作り出したものだそうです。その他のゲームのデータについても同様だそうで。何でもありの『蜜』があったからこそ、祖父はこういう事に対する知識が一切無かったにも関わらず、SSLを開発することが出来たそうですよ」

 「・・・・・・・・・・・・えーと」


 全く意味が分からないんですが。


 「何かの比喩ですよね?」

 「……まぁ、私もそう思っているのですけど。確かに、『何でもあり』な力が無いと作り出せないような代物ではあるんですよね……他にも、今もカギノさんも持っているホログラム・フォンだってそうです。当時の技術では本来とても作れないものだったのですけど、それの一番最初の試作品は『蜜』の力で祖父によって作り出され、それをトレースする形で量産され、今に至るそうです」

 「ほ、ホロフォが……?ま、まぁ、確かに『2030年のテクノロジーの大革命』なんて言われて、確かに最初は非現実的な程だとかなんとか言われてましたけど……」

 「ホロフォも『ハニー・プラネット』もSSLの膨大なデータも、全て非現実的ですが、『蜜』とやらが本当にある、というのなら単純な話です。『思い通りにする』、何でもありな力があれば、そりゃ作れますよね、どんな非現実的なものでも」

 「んな無茶苦茶な……」

 「……そうですね。この話にはあまりにも信じられないことだらけです。私も、全てが全て本当の話だとは思っていません。最初に話した、『異星人テロ』も、祖父から聞いた後に調べてみると、その当時最先端の技術で作られた兵器で武装したテロ集団、ということになっていて、異星人、なんて表現はどこにも見つかりませんでした。その説明も、あまり信憑性のあるものではありませんけど……『キブカ星人』よりははるかにマシです」


 どこまでが本当で、どこからが嘘……というか比喩?なのか。ノハナ姉妹の祖父の話は、なんだか頭がこんがらがってくる内容だ。

 

 ――あるいは、全て本当?

 ……いやいや、んな馬鹿な。




 「――確かに、荒唐無稽極まっている話ですね……『蜜』だなんて……」

 「だから言ったでしょう?ただ……祖父が『戦いから身を隠してやり過ごしたことに罪悪感を感じて、それがSSLの開発につながった』というのは本当だと思います。勿論、その戦いの相手が『キブカ星人』だった、とは思いませんが」

 「え……?どうしてそれは信じるんですか?」

 「この『ハニー・プラネット』……もとい、SSLの存在が証拠です。こんなモノは、途轍もない執念が無ければとても作れるものではありません。祖父は、これらを作るのに、『命を削った』とまで言っていました。そんな強烈な思いが、SSL、および『ハニー・プラネット』を形作っているように思えるんです。祖父はきっと、本当に、どうしようもなく、この架空の世界で戦いたかったのでしょうね……」


 ノハナ社長が『ハニー・プラネット』に近づいていく。そして、それに手を触れる。


 「この『ハニー・プラネット』を見ていると、祖父の強い意志が感じられるんです……こんな……実現不可能なものを実現させてしまう程の強い思い……それを祖父は『蜜』を呼んだのではないでしょうか……」


 信じられないことだらけの、ワケの分からない話。

 しかし、『ハニー・プラネット』も、SSLも、それこそ超能力でも使ったのではないか、と考えさせられる程の非現実的なモノで……それを実現させるには、確かに超能力にも匹敵するような意志、思いが無いと不可能なのだろう。



 僕はただただ圧倒されるだけだった。ノハナ姉妹の祖父の成し遂げた事に――


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