3-1 わたしに最近おきたこと
十月十三日。
今日は朝から雲ひとつない青空でした。
お店の名前とおなじ、きれいな青色がひろがっていたのです。
おじさんもちょっと鼻歌まじりにコーヒーをいれていて、ご機嫌みたいでした。
おねえちゃんもきっと気持ちのよい晴れ模様におなじはずなのです。
十月十五日。
今日もおにいさん達が来てくれました!
それにはじめて見るお顔の人達もいっしょだったのです。おねえさんとおなじ顔のおねえさんにもびっくりしましたが、ちっちゃなおねえさんが私よりもずっと年上なおねえさんということに驚天動地だったのです。
……世界はひろいのです。
おねえちゃん……おねえちゃんはすごくわかりやすいおねえちゃんだったのですね。
それからちょっとイヤなお客さんもいましたが、ぜんぜん気にしていないのです。
けど、ちょっとさわいじゃったことをおじさんに怒られてしまいました。
……まだまだオトナな働くおねえさんには遠いのです。
おねえちゃんにも聞いてもらって、とこはちゃんと反省できる喫茶店員なのです!
十月十七日。
……おじさんが電話で話しているのを聞いてしまったのです。
おねーちゃんの病院のお金が大変みたいです。
おじさんはそんなこと全然気にしてる様子もなくて、わたしやおねえちゃんのことを良くしてくれています。
そんなおじさんに、すこしでも力になれるようにがんばっているのですが、わたしにできることは少なくて……。
おねえちゃん、どうしたら良いのです?
ちゃんとお話……したいのです。
十月十八日。
……隠しておいたアルバイト雑誌がおじさんに見つかってしまったのです。
お店のお手伝いだけじゃおねえちゃんの病院のお金はたりなくて、だから他にできることはないかなってコンビニにあった無料冊子を持って帰ってきたのですが……うっかりです。
お店のレジの下においたままにしていました。
おじさんはもっと友達と遊んだりしていいと言ってくれたのです。
でも、わたしやおねえちゃんの為にがんばってくれているおじさんにわたしも少しでも力になりたいです!
そう言ったら、おじさんはなにも言わずにぎゅっとしてくれたのです。
なんだか、わたしもガマンできなくて少し泣いてしまいました。
けど大丈夫。おじさんがいれてくれたホットミルクを飲んで、今日はぐっすり眠れそうなのです。
けど、おねえちゃん、本当はすぐにでも声がききたいのです。
十月十九日。
おねえちゃんの病院から電話があったのです。
おねえちゃんが危険な状態だって。
すぐに来てほしいって。
おじさんはすぐにお店を閉めてくれて、わたしと病院に来たのです。
……怖かった。
おねえちゃんが、本当に、い くな て 。
でも、大丈夫だったのです。
大変そうだったのもしばらくしたら終わって、おねえちゃんは大丈夫って病院の先生が言ってくれました。
おじさんも良かったってずっとくりかえし言ってて、わたしもほっと一安心なのです。
今日はこのままおねえちゃんと一緒にねることにします。
おねえちゃん、はやく起きてほしいのです。おじさんと三人でコーヒーを飲みたいのです。
十月二十日。
おねえちゃんが帰ってきた。
病院でねてるはずの、だけど、あの顔はおねえちゃんで、わたしを
「ぉこちゃ」
わたしを呼ぶ声に顔をあげると、そこにはうれしそうに笑っている顔。
会いたかった顔。会えないとどこかで思ってしまっていた顔。
「どうしたのですか? おねえちゃん」
病院でずっと目を覚まさず、まだそのベッドにいるはずのわたしのおねえちゃん――七生奈々子がおじさんとわたしの元に帰ってきたのは、冬がはじまるにはまだ早い――けど確実に寒さがわたし達をつつみはじめていた中間の季節のことだった。




