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2-34 冬にはまだはやい夜に、また会えた

 まだ十月。冬にはまだ早いが、やはりこれだけ夜も深くなっていると寒さも際だってくる。

 あまり多くもない電灯が道を照らしているが、それもなんだか頼りなげだ。

 そんな深夜も深夜の時間に、俺は一人でぶらぶらと明かりもほとんどない道を歩いていた。といっても自宅のマンションからはすぐ近く。

 なんとなく目が覚めて、なにか飲もうと思ったら冷蔵庫になにもなかったわけで。知らぬ間にティーパックとかも切らしていたみたいで仕方なく、近場の自販機を目指しているというところだ。

 周りには当然だが人の姿はない。俺の足音だけが静かな夜道に響いている。

 こんな時間に外を出歩くなんて久しぶりだな。

 前はほずみにつき合って出歩いたりしたこともあったっけ。……夢の中だけどな。

 すでに慣れた心の中での自分へのツッコミにもう感じることはあまりない。あまりというのは、まぁ多少は思うところもあるというわけで。

 なにせ目が覚めてまだ一月もたっていない。

 そんなすぐにいろいろと整理できるほど、俺はまだまだ大人というわけでもない。

 それは例えば鳥羽のこと。

 あの時以来、姿を見ることはないが今どこでなにをしているのか。

 あいつは明らかに俺を以前から知っている素振りだった。

 なによりあいつの――ほずみの名前を知って、俺の彼女だったことを知っていた。

 ならあれは俺が知る、夢の中での『鳥羽慎二』なのか? あの時、あいつは自分のことを父親が知らないみたいなことを言っていた。

 それはつまり――あいつも俺と同じように眠っていたのか。それとも鬼脅となって皆の記憶から消えてしまったのか。

 俺にはわからない。知る術もない。

 気にはなるが、考えても仕方がないので気にしないことにしている。

 またもし鳥羽の奴が現れた時に聞き出せばいい。今度はちゃんと冷静にだ。

 ガシャンと音を立てる缶コーヒーを取り出し口から手に取る。コーヒーならやっぱりあの店だけど、たまの缶コーヒーも悪くない。

 一口すすり、ほぉっと息を出す。

 さすがに白くなるには夜の空気はまだ冷えきってはいなかった。

「……なんだありゃ?」

 ふと道の向こうに人影が見えた。

 ふらふらと歩く姿が暗がりにぼんやりと目にはいる。なんか……変な感じだ。

 遠目で、しかもほぼ明かりがないこともあり、はっきりとは捉えられない。

 捉えられないが――。

「なんか……服着てなくないか?」

 まさかな。いや、もしかして深夜徘徊する変態か?

 ……帰るか。

 仮に襲われたとして今の俺は普通の人間にどうにかされるとは思わない。

 が、好き好んで襲われる趣味もないので、早々に退散しようとその場を離れる。

 すると遠くにあった気配がこちらを見たような気がした。

 寒気がした。

 遠目で顔もわからない距離、しかも暗くてはっきりと見えるはずがない。

 だというのに、そいつがはっきりと俺を見ていると。

 まるで獲物を見つけたように歯をむき出しにしたと感じたのは何故だったのか。



「こんな時間になにをしている?」



 いきなりの背後からの声。

 そして、背中になにかを突きつけられるような感触。

 その瞬間、俺を襲っていた寒気は跡形もなく消え、遠目にいた姿もどこかにいなくなっていた。

 それよりも――。

「こんな深夜に一人でなにをしていたんだぁ? こら、答えなさい」

 その声は男にしては高く、だからといってかん高いわけでもなく、その中間の中性的な印象を与える。

 そして、そこに込められたものはけして悪いものではなく――そう、俺をからかって楽しんでいる明るいものだ。

 そんなはずない。

「答えられないのか〜? なら見すごせないな〜」

 その声を俺は知っている。

 けど、ありえない。

 その声の主がここにいて――いや、いたとしても今みたいに話しかけてくるはずがない。

 ゆっくりと振り返る。

 その時間が、嫌というほどに長く感じられた。

 潤したばかりのはずの喉が渇くのがわかる。

「あやしいな〜? なにしてたのかなぁ?」

 肩口までのウルフカット、俺を見る瞳はつり目がちで、それが与える印象と同じく勝ち気で負けず嫌いなことを俺はよく知っている。

 その顔は悪戯げに俺を見あげている。上背があるが、のぞき込むように俺を見てくる癖は変わらない。

「ほ、ず――」

 その名前を呼ぼうとして遮られた。

 言葉を発しようとした口をその唇でふさがれて、最後までその名前を言うことはできなかった。

 はっきりとした暖かさ。

 唇と、シャツをつかむ手から広がる体温はたしかに現実のものだと俺に教えてくれた。

「――ひさしぶりだね」

 離した唇を名残惜しげに指でなぞりながら、その瞳はどこかとろけているようにも見えた。

「ゆーくん」

 そして、この現実にはいるはずのない俺の彼女――香坂(こうさか)ほずみはどこかあやしげに、けれど心からの喜びの笑顔を浮かべていた。

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<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゆうくんとしては、感動の再会というよりビックリ!ですよね(*'ω'*)ほずみちゃんとの出会い、そしてほずみちゃんが何やら色々と知ってそうな雰囲気があって、すごく聞きたいこと&確認したいこと…
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