2-30 ひさしぶりのお店。かわいい店員さんをそえて
ゆうに誘われて、わたし達はとこのいる喫茶店にやって来ていた。
お店の名前は『cielo blu』。『しぇいろぶる』って読むらしい。フランス語らしいけど、青空って意味なんだって。
今は時間もあって空は青じゃなくて夕暮れの紅って感じだけど、それが照らされる店内をやさしい雰囲気を作りだしている。お昼に来た時とはまた違った感じ。
実は何回かこのお店には来ていたりする。なっちゃんとも来たし、おきやゆきとも足を運んだ。お小づかいもいっぱいあるわけではないから、毎日来るっていうわけにもいかないけど、コーヒーや紅茶だけならわたしみたいな金欠高校生にもやさしい値段。
かわいい店員さんもいて、最近のお気にいりだったりする。教えてくれたゆうに感謝だ。
今日は放課後の特訓終わりにゆうがみんなを誘ってくれて、そのまま六人で来ている。
わたし、ゆう、おき、優奈、志穂さん、ツバメさんは残念ながら来てはくれなかったけど代わりに遅くなるって連絡したらやって来たなっちゃんがいる。
ツバメさんとはもっと語りあってみたかったけど、いまだに顔を隠して自分の正体を知られたくないみたいだし、仕方ないと思う。
「また来てくれてうれしいのです」
入り口を開くと、とこの花がひらいたようなが笑顔がお出むかえしてくれる。
すごくなごむ。その笑顔を見るためだけでも来てよかったと思える。
なんていうか小動物みたいっていうか、とことこテーブルまで案内してくれる後ろ姿はこれまたかわいい。それに年下の中学生ってこともあって、妹みたいに思えてしまう。
あ〜、わたしも妹がいてくれたらな〜!
きっとそれはそれは甘やかしてしまうと思う。
わたしにはお兄ちゃんしかいないから、世の妹弟がいるみなさんがうらやましいと今は思う。
「……妹もいい」
はじめてとこと会った志穂さんがぽそっとつぶやいていた。わたしと同じでそのかわいさに気づいてしまったみたい。
今日は人数がおおいこともあって、ゆうとなっちゃんはカウンターにすわって、残りのわたし達がテーブルに行くことになった。
なにを頼もうか迷ったけど、せっかくなのでドリンクとデザートのセットに決める。コーヒーのことはあんまりよくわからないけど、このお店のデザートといっしょに飲むコーヒーはニガいのが苦手なわたしでも飲めてしまうからすごい。
今日はわたし達以外にもスーツ姿の人だったり、近所のおじいさんおばあさんみたいな姿がいるのが見える。
みんなこのゆったりした空間でくつろいでいる感じだ。
「おまたせしたのです」
そうしているとわたし達の注文をとこが運んできてくれた。
ちっちゃくてかわいいとこだけど、テキパキとお店の中を動きまわる姿は長年働いてきた貫禄みたいなのも感じる。
「ここはおじさんのお店で前からお手伝いをしているのです」
前にとこから聞いたけど、まだアルバイトなんてしたことがないわたしとは違って、とこはえらいなぁって思う。もちろん、わたしだってお母さんやなっちゃんといっしょに家事を手伝ったりしてるし、なにもしてないなんて思わないけど。
コーヒーとデザートの良い匂いが鼻をくすぐる。今日はシフォンケーキで、あますぎないやわらかな感触がたまらない一品。それでいて今日のコーヒーはちょっと甘みがあって、シフォンケーキとちょうどいいバランスになっている。
「……おいしい」
志穂さんとおきも口にしたケーキのおいしさにおどろいているみたいだった。
「でしょでしょ。わたしもはじめて来た時、びっくりしたんだ〜」
はじめて来た時のわたしとおなじおきの様子になんだかうれしくなる。
いろいろあったけど、おきがちゃんと話してくれたり顔を見せてくれるようになって、良かったと思う。
二週間前のあの時はもう一瞬目の前がまっ暗になりかけたけど、それはわたしのかん違いだったみたいで。
つっ走って早とちりして失敗――なんて前と同じだ。そうならないようにって思ってたけど――ゆうがいっしょにいてくれて本当によかったと思う。
「……しかし、あらためて見ても本当にうりふたつだな」
するとならんですわるわたしとおきを見ながら、優奈がしみじみって感じでつぶやいた。
「お前達、本当に遠縁でも関わりはないのか?」
前になにもないって言ったはずだけど、優奈はそれでも気になるって感じだった。
それはまぁ、ここまでそっくりだとわたしだってそう思っちゃうけど。
「ないよ〜、前にも言ったじゃん」
「しかしなぁ――そうだ、隠塚には分家がけっこうな数あるらしいじゃないか。実はそらはそこの家柄だとかはどうだ?」
「えぇ? わたしはわかんないなぁ……、ていうかそうなの?」
「たしかに隠塚には血筋をわけた分家があるけれど、今は関わりもまったくないから私にもなんとも言えないわ」
「そうなのか? 前に目にした郷土資料にはけっこうな数が記載されていたように思えたが、そのいずれも?」
「ええ。もう十年も前から本家と分家筋との関わりは断たれているみたいだから」
「そんな全てと関わりがなくなるなんてこと……考えにくいがな」
「当時はわたしもまだほんの子供だったし、今も兄がすべてを取り仕切っているから私がわかる事なんてほんの少しでしかないから」
……むずかしい話をしている。とりあえず、おきは親戚の人とはもうまったく会ったりしてないことだけはわかった。
むぅ、と優奈はむずかしい顔で眉を寄せている。
「そういえばおきの家族って――」
「兄だけよ。父と母は亡くなったわ」
ふと気になって口にして、返ってきた答えに後悔する。
「気にしないで。もうずっと昔の――子供の時ことだから」
おきはそう言ったけれど、どこかさびしそうな表情だと感じずにはいられなかった。
……家族がいなくなるってさびしいんだ。わたしも――お母さんがいなくなってまだぜんぜん時間はたっていない。
泣きそうになってしまって、がんばってこらえた。
こんなところで泣いたりするわけにもいかないし、お母さんだってわたしが泣いてばっかりじゃ安心できないはずだから。
「私も不躾なことを口にしてしまった。申し訳ない、隠塚」
「皇さんも気にしないで。……たしかに父と母はいないけれど、兄がいるし姉みたいな人がずっとそばにいてくれたから」
それって、あの琴音って人のことかな?
「わたし?」
わたしの考えとはちがって、志穂さんがちょっとサイズのあわない椅子によりかかりながらなんでか自慢気な顔をしていた。
「違います」
おきは即答だ。
「おきと志穂さんって昔から知り合いなの?」
「……そうね、つきあいは長いわね」
「たよれるおねーさんなんだ」
「……あなたのしでかした後始末をほとんどやらされていたと記憶しているのだけど」
目を閉じながら口にするおきはなんとなく迫力が増した気がする。
「そうだっけ?」
志穂さんは気にする様子もなく、ケーキを口に運んでいる。
……なんか、ゆうと悠子さんみたいかもしれない。
ひきつった笑顔が浮かんでしまう。優奈もおなじみたいだった。
ふとカウンターの方を見ると、ゆうとなっちゃんがなにやら話している。
あんまりしゃべらないタイプだから心配だったりしたけど、なんだかんだ問題ないみたい。
学校でもたまに頼られたりしているみたいだし、妹としてはちょっと鼻がたかい。
たまにわたしを通じてなっちゃんと仲良くなろうみたいな子がいて、こまっちゃうこともある。なっちゃん、顔は良いし、それも人気の証なんだろうけど。
たいがいそういった子はなっちゃんのちょっとクセのある接し方にとまどって、遠まきになっちゃうことが多い。それは妹としてはかなしい。
けどゆうは、なに考えてるのかわからん、とか言いながら嫌ったりしてる感じはしない。それは妹としてはうれしい。
やっぱりお兄ちゃんと相棒が仲がわるいのはイヤだしね。
「失礼」
そんなことを考えていると、突然、わたし達のいるテーブルに男の人がやって来て声をかけてきた。




