2-28 あいかわらず素直じゃない
自分でももっと言い方があったと思う。
後ろからは彼に問いかけているあの子の戸惑った声が聞こえてくる。
「……のぞき見は感心しないわ」
「ばれてた」
声をかけると潔く先程までの私達を空から見ていた姿が降りてくる。
そのリング状の鋼鉄の羽根を引き連れた姿は相変わらず目立つ。
だというのにその姿を誰も気にもとめないのは、彼女が尋常の存在ではないことを何よりも示している。
「あいかわらず素直じゃない」
「私にはああとしか言えないもの」
そらに伝えた言葉。自分でもそれがとてつもなく遠回しな言い方だと自覚している。
「きーはもっとあまえていい」
それは……できない。
「……あの子達に力を借りる。けど、それは近くにいるのがあの子達を守るのにも一番良いから。だから頼りきるわけにはいかない」
そらに伝えた言葉に嘘はない。私も奪う必要がない命を奪ったりはしたくない。
今のところ、穢れに飲まれた人間を戻すにはあの二人が必要。そして、あの子達は私がなにを言おうとも助けようとするし、私に負担をかけまいとするだろう。
なら、私はあの子達にふりかかる悪意から守る盾になろう。それが私にはできない――する資格のないことを為そうとする二人にできること。
「そらがね、私を友達って言ってくれたわ」
自分でも思わず、そんなことを口にしていた。
「そっか」
「うれしかったわ、本当よ」
「うん」
「けど――」
けれど――。
その後の言葉を続けることはできなかった。
続ける資格はないとすぐに気づいたから。
「きー」
呼ばれて振り返ると、まるで子供を迎えるみたいに腕を広げる小さな姿があった。
「ん」
彼女は優しい。こんな私でもずっとそばで、力をかしつづけてくれる。
だから、それ以上に甘えるわけにはいかない。
そんな私を察してか、彼女は腕をおろす。
「夢は見るの?」
自分でも唐突と思える質問を口にする。
「ん。ずっとある」
「変わりはない?」
「ちょっとずつおおきくなってる。たぶん、もうちょっとでこっちにくる。けど、もうさきにきてるのもいる」
「……わかったわ。ありがとう。あの子のこと、また見てあげてもらえる?」
私の願いに了承するように、ん、といういつもの返事が聞こえた。
私は隠塚の巫。それは今までもこれからも変わらない。
けれど、今はそれだけでなく。
あの子と彼をこの命に変えても害為すものから守り通す。
もし他の命と天秤にかけなければならなくなった時、私はどちらを選ぶのか。
自分でもわからなかった。




