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2-20 怪獣大決戦の翌日。めっちゃ怒ってた

 コンビニってあんまり流行らなそう場所でも、やっぱりあると利用する人間はいるわけで。

 あの時間、店内にいた人数は少なかったとはいえ、やっぱりいたわけで。

 ついでに言うと、姿を変える前の鳥羽の暴行やらなんやらはばっちり目撃されていたわけで。

 そして、あまつさえ表通りでないといっても少なからず人通りのある店の壁にあんな大穴をぶち開けてしまったわけで。

 いや、穴開けたのは俺ではないのだけど、その原因を作ったようなもので。


 なにが言いたいかと言えば、今、目の前で無言のすさまじい圧をかけてくる白布をかぶった顔がいるんだ。


 怪獣大決戦の翌日、朝もはやい時間に俺とそら、優姉、志穂さん、母親――それからツバメと呼ばれていた黒装束、それらが大学のある講義室に集合していた。

 昨夜、母親から事の顛末を伝えられた巫こと隠塚からのメッセージははやかった。

 知らぬ間にチャットグループに入れられていたと思ったら、

『明日八:○○に集合』

 短い文面とともに今いる講義室の番号が記されていた。その文面にも違和感を感じていたが、部屋に足を踏み入れた段階でもう違った。

 すでに見なれた白布をかぶって顔を隠す隠塚だが、その下は普通の制服姿だった。

 あの巫としての正装らしい格好は時間がなくてできなかったのか、わざわざ着てくる手間を省いたのか。けど、なんで頭にだけかぶってるんだ?

 俺達が来るとそこそこ広い部屋にある席の一つにすわり、俺達を待っていた。先に出ていた母親も離れた場所に腰をおろしている。今回のために部屋を借りていたらしい。

 そらと俺、この大学の学生だったらしい志穂さん、それから校門前で合流した優姉は、

「御待ちしておりました」

 俺達の気配に立ち上がり、一礼をして迎えた姿に気圧されたように足を止めてしまった。

 だって、めっちゃ威圧感放ってきてた。

 顔は見えないけど、めっちゃ怒っている事だけは確か。

 さすがの優姉もその時は顔を青くさせていたように思える。

 ちなみに志穂さんは今までの様子からの予想通り、朝まったく起きる気配がなかった。

 つれてって〜という半分寝た状態で一向に起きあがらない。仕方がないので着ていたパジャマの上からジャージを着せて俺がおぶってきた。さすがに下はそのままで、隠塚の圧を前にしても背中で寝こけている。

 そして、いつの間にかいた黒装束もふくめ話がはじまった。

 それぞれ隠塚を中心に席につく。

 が、俺と志穂さんは隠塚の近くを指定された。

 あいつは怒ったら怖いぞぉ。

 昨夜の母親の言葉を思い出してしまう。

 それからはじまった会合はまずは確認からだった。

 昨夜のコンビニでの一件。

 その場にいた俺とそら、志穂さんは相変わらず座ったまま寝ている状態なので二人で事の詳細を話す。

「自らを保ったまま穢れとなることは少ないものではありますが珍しくはありませぬ」

 話を聞き終え、隠塚の口にした答えは昨日、志穂さんから聞いた答えとは違いはっきりとしたものだった。

「『鬼』と呼ばれる我等がそうであります故」

 あっさりと俺の疑問に答えがでた。

「穢れは尋常のものでは触れることも叶いませぬ。故に穢れを纏い、我等は『鬼』の身となりて祓い清めるのです」

鬼脅(こいけがし)鎮鬼(しずめおに)は同じものだと?」

 優姉が確認するように問いかける。

「さようでございます。かの穢れも私共も生まれし元は同じ。しかし、けして同様のものではございませぬ」

 その問いを肯定し、しかし同時に隠塚は否定も口にした。

 俺とそら、優姉の視線が隠塚に集まっている。

「穢れに自らを委ねるか否か。それこそが穢れと鬼たる我等の在り方の違いでございます」

 自らを委ねるか否か。

 言われてもはっきりと実感するのは難しい。

 けど、なんとなくだが、そらを通じて視た鬼脅に飲み込まれていくような光景。優姉がなりかけていたあれがそうなのかもしれない。

 優姉も黙っていたが、わかっていたのかもしれない。

「幸運にも私共は『鬼』として自らを保つことが叶ってはおりますが――ゆめゆめ油断なさらぬよう。穢れは常に我等の身を喰らわんと内より狙っております故に」

 じゃあ、俺達もあんな怪物の姿になってもおかしくないのか。

 そう考えて、もし自分がそうなって皆を害する存在となったら――そう考えてぞっとした。

 そんな俺の隣にいたそらが手を握ってくる。

 その顔は隠塚のほうを見ていたが、ぎゅっと俺になにか伝えるように握る力は強かった。

 ……やっぱ助けられてばかりだな。

 怖じ気づきそうになった心を立ちあがらせる。

 そう、俺は一人じゃない。

 そらと二人で一つの『鬼』になる。

 なら、どちらかが危なくなったらもう片方が手をさしのべればいい。

 ちょうど昨日の俺達のように。

 そして、それは俺達だけでなく、優姉に対してだって同じだ。

 つまりは、やることは変わらない。

 俺達の表情になにか察したかはわからないが、隠塚はそれ以上なにか言うことはなかった。

「……しかし、その自らを保っていたという穢れ、姿を消したことは気がかりでございます」

 そして、話題はあの怪獣・鳥羽が姿を消してしまったことに変わる。

 結局、仕留めることも元に戻すこともできなかったわけだが、あの時は頭に血がのぼったり、急な展開に頭がついていけてなかったりで状況をいまいち把握できていない。

「たぶんほかに助けにきてた」

 机に突っ伏していた志穂さんが答えた。寝てるとばかり思ってたけど、ちゃんと聞いてたのか。

「助け……ということは件の奴のように自我を保った鬼脅の仲間がいるということか?」

「とおくにいるみたいだったから、はっきりはわからない。でもいた」

 優姉の問いかけにもはっきり答える志穂さん。

 けど、あの時の鳥羽は仲間がいるような感じには見えなかった。仮に仲間がいたというなら、もっと違う態度をとっていたはずだ。仮にあいつが俺の知る鳥羽だとしたらだが。

 ちなみにそのあたりのことも念のため伝えてはある。俺の夢のことだと放置して大事になったら目も当てられないしな。

「……そちらに関してはお答えできることはありません。貴方様の夢と昨夜の穢れと如何なる関わりがあるか、それを知る術はございませぬ」

 予想通りの答えではあった。

 そんな簡単にわかるのだったら、多分俺もこんなに悩んでたりしてないだろうしな。

「しかし、心に留めておく必要はございましょう。皆様も同様に頂きたく」

 そして、無視できないとも感じたのか隠塚は皆にそう告げる。

「そして、諏訪様」

 そこで俺を向いた白布の下から先程のすさまじい威圧感が発せられた。

 冷や汗が出る。身体は緊張でガチガチだ。

「昨夜の貴方様の行い、軽率なものとお考えにはなられなかったのでございますか?」

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