3-20 わたし混乱。おねえちゃん泥だらけ
ど、どど、どうしたらいいのですか⁉
おにいさんに言われたとおり、あぶなくなさそうな場所まで来て、やっぱり気になってすこし離れた場所から様子を見ていたのですが――。
お、おにいさんがあやしい一団に連れていかれてしまったのです!
人がいきなり怪獣になったとか、おにいさんがアイスコーヒーの豆もびっくりな真っ黒の姿になったりとか、いろいろ驚天動地はありはしたのですが、ですがぁ。
回らない頭をなんとか落ちつかせましょう。
ゆっくり深呼吸して心を落ち着かせて――。
それからまたかげに隠れながら様子をうかがってみます。
謎の巨大怪獣さんとおにいさんとは別の真っ黒さん――この前、お店に来てくれたそらさんとうりふたつのおねえさんだったはずです――がにらみ合っています。
真っ黒さんはおにいさんと一緒にふきとばされたそらさんを受けとめて、しばらく地面を転がっていたのですが、今はそらさんを守るように抱きかかえているみたいです。
その腕の中で……そらさんはまったく動きません。
気絶してるのか、それとも――。
思わず両手を握りしめてしまいます。
怖いけど、なぜだかちゃんと見ていないといけない気がして目がはなせません。
すると真っ黒さんはそらさんを抱えたまま、どこかに走り去ってしまったのです。
途中、すごいジャンプをして建物の壁を蹴りながら行ってしまいましたが……一体なんなのでしょう?
なにと言えば大怪獣――は気づけば元の男の人の姿にもどっていました。
あれはヤンキーというやつですね、おじさんの昔の写真で見たのです。見た目のこわいその人はしばらくぼんやりしてたのですが、不意にこっちを見て――どこかに行ってしまいました。
……ビックリしたのです。心臓が飛びでるかと思いました。
それからしばらくすると、誰もいなかったはずの場所に何もなかったかのように、また歩く人やさっき乗り捨てた車をまた運転していく姿がもどってきたのです。
なにがなにやら……わたしの頭はすでにパンク寸前ですよ、もう!
それよりおにいさんなのです!
そらさんは真っ黒さんがいるから大丈夫だと思いますが、おにいさんがあんなひどいケガをして、しかもあやしい皆さんに車で誘拐されています!
一一〇番するべきですか? それとも自衛隊ですか?
「ぉこちゃ」
いきなりの後ろからの声に心臓がきゅうぅとなりました!
「お、おねえちゃん! いままでどこにいたのですか? さがしてたのです!」
ふりむいた先にいたのはおねえちゃん――七生奈々子の姿でした。
ってどうしてまたそんな汚れているのですか⁉
ちゃんと着せてあげたキレイな服がドロだらけなのです。
「おねぇちゃ、わるいぉばけ、やっつぇてたよ」
うまく話せない舌足らずな言葉で笑いながら、おねえちゃんはなぜか自慢げに言ってきます。いつも整えてあげているみじかい髪をゆらして、なんだか上機嫌です。
わるいおばけってなんなのです?
こっちはおばけどころか大怪獣なのですよ。
「それよりもおにいさんなのです! 通報するにしても、どこなのでしょう?」
あわあわするわたしの隣でおねえちゃんはなにやら臭いをかぐように鼻を鳴らしはじめます。
この前、突然帰ってきてからおねえちゃんはすごく鼻が良くなったみたいで、それでよく探しものをしたりしています。
まるで犬さんみたいに、すんすんと鼻を動かしています。
「ゆぅごく、のにぉい」
そう言っておねえちゃんはすたすたと歩きはじめます。
「おねえちゃん! どこ行くのです?」
「ゆぅごく、いる。ちのにぉい。けが、ぃてる」
けが? ゆぅごくってもしかしておにいさんのことです?
たしかおにいさんの名前……『ゆうご』っていったはずです。
「おねえちゃん、おにいさんのいる場所わかるのですか?」
「ぅん、ぃて」
そう言うとおねえちゃんはわたしの手をひっぱっていきます。
一一〇番は――まず場所がわかってからです。
おにいさん、どうか無事でいてほしいのです。




