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みらいに

 疑問は色々とあるが、立ち話もなんだからと部屋のソファーへと移動し、アイコンタクトで意思を汲んでくれたアイザックが俺の隣に座り、ジジイとオリヴィアさんが対面に座った。


「話って?」

「色々です」


 そう言ってオリヴィアさんは笑みを浮かべた。


「わざわざ俺の部屋で待って居なくても良かったんじゃないか?」


 俺の部屋におらずとも、事前に言ってくれれば話す場を設けることが出来た筈だ。


「事前に言えば、二人きりでお話をしたいと言っても無理そうでしたから...」


 確かに二人だけで話をしたいと言われていても、俺は絶対に誰かを同席させていた筈だ。


「二人きりじゃ無くても、話は出来るだろ?」

「気になる方と二人きりで話をしたい。そう思うのはいけないことですか?」

「普通の男女なら問題はないけど、オリヴィアさんは皇女だ。軽々しく身内以外の男と二人だけというのは駄目だろ...」

「バレなければ大丈夫です。それに私には婚約者もいませんから特に問題はありません」

「余計不味いだろ...」

「女性から二人きりで会いたいと言われれば、男性は嬉しいものではないのですか?」


 彼女は俺の反応に不服だったのか、少し怒った風に言った。ただでさえ俺には色々あるのだ、これ以上増えるのは止めてもらいたい。

 余計なことは言うまいと俺が口を閉ざしていると彼女は「まさか」と重大な事実に気づいてしまったかのような反応を見せた。


「お世話をすると言った時の反応からするに、もしかしてアマノ様は女性がお好きではないのですか?」

「アイザック助けてくれ」

「そうやって私に頼るから言われるんだぞ」

「ぐっ...」


 俺が狼狽えているとオリヴィアさんは「どうなのですか」とテーブルに手を当て、前のめりになって詰め寄った。


「じい様、助けてください」


 オリヴィアさんの


「そうやって逃げて、しかもお祖父様のことをそんな風に親しげに言って...」


 まずったかもしれん。これは逃げずにちゃんと対応すべきだった。


「オリヴィア、落ち着くんじゃ」

「お祖父様、少し黙っていて貰えますか?」

「はい...」


 ジジイを黙らせた顔は見えなかったが、声音からしてかなり怖い顔をしていたのが分かった。

 そもそも初めて会った俺に対して彼女の行動はいくら精霊の加護の影響が多少はあるとはいえ、おかしくはないだろうか。


「どうなのですか?」


 そんなことを考えているとまた問い詰められた。今回は逃げの言葉など許さず、下手なことを言えば確実に殺されると直感が告げていた。


「女性が好きです、はい」


 思わず敬語になりながら正直に答えた。すると彼女は満足そうに笑みを浮かべた。


「どんな女性が好きですか?」


 訊かれて困る問いだ。男同士ならば女性の部位などを答えればいいが、女性に対してそれはいただけない。

 ここは無難に言った方が良いだろう。


「髪の綺麗な人ですね」

「私の髪はどうですか?」


 彼女が白金色の髪を見せてきた。艶があり、枝毛など一切無い手入れの良くされた髪だ。そして下品にならない程度に髪から香りが漂ってくる。なんの香りかは分からないが、とても落ち着く香りだ。


「綺麗だよ」


 彼女の髪に触れたいという衝動に駆られながら、俺は言った。


「...そうですか」


 彼女はそう言って髪に触れながら笑った。しかし俺には、どこか泣きそうになるのを誤魔化すように笑っている気がした。俺の言ったことが気持ち悪かったのかもしれない。


『ふふふ、どうですか?この間、あの花の香りが好きだって言っていたので髪につけてみたんです』

「っ!」


 突如、顔は見えないがその場でくるりと回る女性の姿とオリヴィアさんに似た女性の声が頭に浮かんだ。

 こんな光景は一度も経験したことや見た記憶がない。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。ところで、オリヴィアさんはお付きの人とかは連れて来なかったのか?」

「連れて来ていますよ?そこに居ます」


 彼女は部屋の入口の方へと顔を向けた。俺も見れば、そこには一人の長い黒髪をみつ編みにして体の前に垂らした獣人の女性がいた。


「気づかなかった...」

「彼女は存在感が薄いですからね」


 アイザックとジジイを見れば、特に驚いた様子は無かった。どうやら気づいていなかったのは俺だけらしい。


「彼女はリア。縁あって私の傍に居てくれているんです」

「リアです。よろしくお願いします」

「...よろしくお願いします」


 いつの間にかテーブル近くに来ていたリアさんに内心驚きながら、俺は挨拶を交わした。


「そろそろ私は戻ります。皆様、突然すみませんでした」

「驚きはしたけど、気にしなくいいよ」

「ありがとうございます。それではこれで失礼致します」






 オリヴィアさんとリアさんが去っていくのを見届けた後、部屋には3人の男しか居なくなった。


「えらく気に入られたな、ユウジ」

「そうだなあ」

「あの娘が小僧にとは、わしも驚いたものじゃ」

「そういえばじい様。本当に皇族が直々に面倒を見るほど、俺は重要なんですか?」


 俺は部屋に置かれているワイングラスを棚から取り出しながら、ワインの栓を抜いて匂いを嗅いでいたジジイに問うた。


「演習場ではあの娘が怖くてああ言ったが、普通は世話などせん。せいぜい状況によって相手を籠絡させるために皇族や王族が出張ることくらいじゃ」

「彼女の暴走か...」

「まあ小僧次第じゃが、ひ孫が見れそうでわしは嬉しいがのう」

「良かったな、ユウジ。許可が出たぞ」


 ジジイからワインを受け取ったアイザックがそれぞれのグラスに注ぎながら言った。


「アイザック、お前面白がってるだろ?」

「当たり前だろう?」


 笑いながらイケメン王子が言ってきた。奴に対し悪態をつこうと思ったが、ジジイの邪魔が入った。


「ファシュトリアの未来に!」


 グラスを掲げ、ジジイが乾杯の音頭を取ろうとしたのだ。


「気が早すぎるだろじい様!」

「なんじゃ小僧、わしの孫を妻にするのが嫌なのか?」

「そうだぞユウジ。美しく気品に溢れた女性じゃないか、何が不満なんだ」

「全くその通りだ。アマノユウジ、何が不満なんだ?」

「私も不思議だ。悩むことなく飛び込めばいいだろうに」

「...お二人共いつの間に?」


 いつの間にか手に空のワイングラスを持ちながらジジイの横に座る国王と、テーブル横に椅子を置いて座る同じく空のワイングラスを持った国王の弟の姿があった。


「わしが呼んでおいたんじゃ」

「いつ入って来たか分からなかったんですけど?」


 俺の疑問に答える人物はそこにおらず、後から来た二人の王族はジジイに挨拶をし、元々いた王族は増えたグラスにワインを注いでいた。


「そんなことよりアマノユウジ。男を見せろ、どーんと飛び込まねえか」


 息子にワインを注いで貰いながら、国王は言った。


「簡単に決めちゃ駄目でしょ...」

「そうは言うが、君は内心では喜んでいるだろう?」

「そりゃ嬉しいですけど、今日会ったばっかじゃないですか。普通おかしいでしょう?」

「サティナの嬢ちゃんとラティナのことがあるだろ、今更何を言ってやがる」

「ぐっ...」

「なんじゃ、あの令嬢以外にもいるのか小僧。やるのう」

「んんっ、そろそろ乾杯しません?」


 都合が悪くなってきた為、話を逸らすことにした。


「仕方ないのう。では、小僧の未来に!」

「「「未来に!」」」

「...みらいに」


 乾杯の音頭が気になるが、考えないことにする。

 グラスに口を付け、ワインを口に含む。程よい渋味が口に広がり、鼻には濃縮した香りが抜けていく。


「美味しいですね」

「そうじゃろう?」


 ワインの話に持ち込めば、俺の話をしなくなるだろう。そんな企みを考えていたがグラノフ殿下が口を開いた。


「美味いな、流石ファシュトリア産だ。ところで」


 グラノフ殿下が俺に視線を向けてきた。


「君のことだが...早いうちに婚約者なり、親しい女性がいた方が良いだろう」


 直ぐにでも話を逸らす為にワインの話をしなくてはと俺は口を開こうとしたが、間に合わなかった。


「確かにのう。変な女に捕まって厄介なことになるよりかは全然良い」

「え?」


 相槌を打ちながらジジイはグラスの残りのワインを煽った。


「更には身分が高い方が良いですな」


 ジジイの空いたグラスにワインを注ぎながら国王はジジイの話を補足した。


「うむ、やはりわしの孫は適任じゃな。理由は詳しく分からんが、あの娘ものり気じゃったしな」

「ご存知の通り、我が国の侯爵家令嬢なんて異世界人と結婚するとばかり言ってまして」

「そういえばそうじゃったのう。小僧、罪な男じゃな。よし、ならば対外的に二人と小僧は親密だと公表しておくか」

「一人の男を通じて、ファシュトリアとフリーシアが強固に繋がっているとアピールするわけですな」

「そういうことじゃ」


 国のトップと元トップの男達は笑いながら酒を酌み交わした。

 フリーシアとファシュトリアのみならず、この世界のでは国同士でとても仲が良いと聞いていたが、何故アピールする必要があるのか。そう疑問に思っていると、隣の王子が教えてくれた。


「ユウジ、魔物という人にとっての外敵がいるからこそ、私達の世界で身分の高い者は個人間の仲の良さや血の繋がりが大事なんだ。繋がりがあればスタンピードの際に救援が来るという安心を民達に与えることが出来るからな」

「なら、政略結婚なんかで繋がりを作ったりしないのか?」

「そういう時期もあったが、今では一切無いな」

「へえ」

「遺伝的な関係も勿論あるが、一般的に両親の仲の良さやどれだけ愛情を受けて育ったかによって子どもの強さに差が出ることがわかったんだ」

「政略結婚だと強い子を得られない可能性がある、か」

「ああ。身を守る為に強さが必要な世界だからこそだな」


 聞けば、この世界では女性の方が多く生まれる為に一夫多妻制がどの国でも身分関係なく認められている。しかし強い子どもの為に妻同士の仲の良さ等も考えなければならず、権力者で二人以上の妻を持つ者はあまり多くないらしい。

 また、仲の良さが重要なことから幼馴染同士での結婚が非常に多いらしい。小さい頃から欠点を知っているからこそ、夫婦生活が上手くいくらしい。


「オリヴィア皇女殿下とサティナ嬢は以前から親交があるからな。その二人が一人の男を通して家族という繋がりを得るわけだ。私も兄上達のように賛成だな」


 味方になってくれそうな王族はアイザックしかいなさそうだ。そのアイザックも味方かどうかかなり怪しいところだが。

 今は俺の前で色々と話してくれるが、知らぬ間に引くに引けないところまで勝手に話が進んでしまいそうで俺は怖くなった。

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