第2話 険悪な再編成
艦隊合同軍事演習。一年に一度、部隊の補充、部隊の再編成と共に、国連軍直属太平洋多国籍統合戦闘空母艦隊群内で情報を共有と有事の際の連携を密にするために、各空母のトップが直接顔を合わし会議を国連海軍司令部がある、ハワイで行う。そのついでに艦隊の練度向上の為、軍事演習を行うのだ。
しかしこの男、アルベル・バーンにとって今回の軍事演習は縁の無いものとなった。編成のシステム上、艦隊がハワイに着き次第部隊を離脱。演習終了後、部隊着任となる。つまり、ハワイにいる間は無所属となり演習には参加できないのだ。
「季節に関わらずハワイは本当に暑い。世界中の気候が劇的に変化しているなか、何故ここは変わらないのだ…」
ハワイの高い気温と湿度がアルベルの金色の髪の毛先をクルンとさせ、額からは汗がダラリと顔を伝い、落ちていく。
アラスカ州の北極圏の手前の町の出身である彼には、ハワイの暑さには相当堪えるようだ。そもそもカナダ北極圏の住人とアラスカ北極圏の住人との混血である彼は元々暑さに弱い。そこも堪えいてる原因なのだ。
「降りるのは軍港端なのだから軍港中央部にでも、司令部施設を建てれば良いのに、何故反対側の端に作ったのだ…。しかも何故歩かねばならないんだ…」
国連海軍司令部はハワイ、パールハーバー内のアメリカ海軍敷地の端に置かれている。船が着く場所とは離れているうえに軍敷地内の為タクシーも無く、アルベルは歩いて司令部に向かうことを強いられていた。汗を流しながら歩いていくと、隣のヒッカム空軍基地やホノルル国際空港から飛び立つ航空機が飛び立つ姿が見える。
新しい機体はあの基地にあるのだろうか、と飛んでゆくE-2Dを見て心の中でつぶやいた。
海軍司令部といえど敷地の関係上、施設そのものはたいして大きいものではなかった。30分も案内図を見れば大体覚えてしまう程度のものだ。あらかじめ指定された部屋も難なく見つかる程だった。
指定された部屋に入ると、小さな会議室に溢れんばかりの人がいた。だいたい100人程だろうか。椅子が足りないのか立っている人もいる。アルベルは一歩部屋に足を踏み入れた瞬間、違和感を感じる。100程いるにも関わらず、会話がないのだ。一言も。場の空気も重い。いや、重いというよりも殺気に満たされているという方が適切だろう。よく見れば集まっている人間の統一性がない。人種も、地域も、飛行服の国旗も顔も全て。
まさか…、とアルベルの頭には嫌な予測が浮かぶ。
「諸君、よく集まってくれた。すまないが椅子が足りない。あまり長くミーティングをするつもりはないから、そのまま立っていてくれ」
上官らしき人物が入ってきて、パソコンをつなぎ始める。部屋が暗くなりプロジェクターで壁に画面が映し出される。全員が上官らしき人物に敬礼をする。
「まずはお集まりの諸君、集まった事に感謝する。私はラステル海軍少将だ。まぁこの説明だけだから覚える必要もないし、敬礼も要らない。」
全員が敬礼の手を下ろす。
「では、ミーティングを始める。諸君らの任務は各国の先行量産機や試験機のデータを実戦、実地で収集することである。本来ならば''各国の’’空母に1小隊、試験隊を所属させるべきであるが、知っての通り、どこの空母もそんなものを入れる余裕はない。その為、各国が協議の結果、国連所属の空母艦隊を一個増やしその一個艦隊を試験検証部隊に充てる、というものだ。国連空母艦隊群に所属する7か国全てが自国の採用航空機選定や試験機を持ち込むことになっている」
やはり…とアルベルは頭を抱えた。いくら世界がメチャクチャで各国が国連という協力関係にあっても、政治レベルでなく民族レベルで仲の悪い所があるのだ。ギスギスとしたこの空間の殺気はそのせいだった。
アメリカ、ロシア、日本、中国、韓国、オーストラリア、タイ王国の七ヵ国。
何故今回に限ってカナダではなくタイ王国を入れたのか…とアルベルはやはり頭を抱えた。通常7ヵ国はタイ王国ではなくカナダなのだ。タイは空母を一隻しか持っておらず、南シナ海にしか勢力を伸ばせない為いつもはカナダが7ヵ国に入っている。
カナダ軍が居てくれればまだ和やかだっただろうに、と自分の異動命令を恨んだ。
「貴君らも知って通り、軍事における各国の技術開発合戦は熾烈を極めている。理由は、…まあ知っての通りだが若い者も多いので、この編成がいかに重要か、今一度振り返る」
プロジェクターに次々と画像や動画が流れる。このミーティングで各隊員が編成の重要性を、過去を振り返ると共に認識していくこととなる。
すいません、今回ちょっと長めです。
次話で世界観とか色々書きます。長くなったり、難しくなるかもしれません。




