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復讐の輪廻  作者: 大五郎
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第五章 魔王討伐

クライマックスです。戦争です。逃げる魔族は悪い魔族で逃げない魔族は訓練された悪い魔族です。(意味なし)

設定でごちゃごちゃしていますが設定部分は読み飛ばしても問題ありません。

魔将との戦いから一週間、グレン達遊撃隊のメンバーは領主館の地下牢に押し込められていた。

ハンターを含む街の人間を総動員して大量の魔獣や魔族の亡骸から各種素材や魔石を回収し焼却処分を行い併せて死亡したハンター達の埋葬も行っている内に一種間が過ぎていた。

大方の処理が終わり領主から殊勲者を集めて祝賀の夜会を行うので領主館に来るようにとの通達を受けたグレン達遊撃隊のメンバーは館に入った途端、領主に率いられた騎士達に逃亡罪という名目でいきなり拘束され地下牢に放り込まれた。

首には魔封環という貴族の犯罪者の魔法を封じる魔道具を嵌められ両手には手錠を掛けられていた。

「いったい、なんなんだよ、これは」

訳が分からないという顔でメンバーの一人が喚いた。

「魔将奇襲のため後方迂回したことを逃亡と称しているのだろう。ゼイラム辺境伯が魔将討伐の手柄を独り占めにするため、又報奨金をケチって暴走したというところか」

グレンが静かに答えた。

この千年で魔人が討たれた例はあっても魔将が討たれたことはなく魔将討伐の手柄を独り占めできれば周辺諸国にまで鳴り響く大きな名声が得られ王国からも恩賞として領地の加増やより高位の叙爵が期待できる。

又強制依頼の報奨金は領主持ちであり騎士達の報奨については城壁前で騎士達が倒した魔獣や魔人の眷属達の素材や魔石の売却益を充てればいいが一般のハンター達が倒した魔獣の素材や魔石は元々ハンター達の取り分なので報奨金は領主の持ち出しとなりこれを踏み倒すと八百人ぐらいの生き残ったハンター達が暴動を起こしかねないのでこれについては領主も素直に支払うしかない。

しかしほとんど生き残りが出ないと判断して莫大な報奨を約束したのにほぼ全員生き残ってしまったグレン達遊撃隊についてはその口を塞いでしまえば辺境伯家が傾くほどの報奨金を支払わないで済み価値の高い魔人や魔将の高品質な魔石も領主の総取りとなって先の一般のハンター達への報奨金の持ち出しを差し引いても莫大な利益が出る。

グレンはその場の全員に聞かせるように滔々と説明した。

「バカな、あの場にはこの街のハンター全員と騎士団がいて全て目撃していたはずだ。それにギルドだって黙ってはいないだろう。そんな話しが通るはずがない」

「貴族崩れが多く魔力量が大きいとはいってもハンターの実際の身分が平民である以上、貴族が平民に対して白を黒と言っても通るのが世の常だから今回も通ると思っているのだろう。浅慮なことだ」

「おい、グレン、えらく訳知り顔だがまさかこうなることが分かっていたんじゃないだろうな」

「予想はしていた」

「だったらなんで事前に逃げるように言ってくれなかったんだ」

「こうならない限り事前にいくら俺が道理を説いて忠告しても理解してくれなかっただろう。無駄なことはしない主義だ」

「俺達はこれからどうなる」

「明日には処刑されるだろう。ゼイラム辺境伯としては一刻も早く俺達の口を塞ぎたいはずだからな」

「おい、グレン、なんでさっき抵抗しなかったんだよ。お前なら騎士達なんて素手でも瞬殺だったろう」

「後のことを考えて穏便にここを出たかったのでね」

「ここを出る?なんか手があるのか」

「ここに糸ノコがある」

領主館に入る時に祝賀会の安全のためと武装解除されられたが、その時籠手のギミックの中からこっそり抜き取っておいた糸ノコを見せた。

本来は端を籠手に固定したままで敵の首に巻きつけて切断したり足元に罠として仕掛けて敵の足を切り飛ばしたりする凶悪な使い方を想定していたのだが今回は割と平和的に使うことにする。

「これをこう・・・」

糸ノコを魔封環と首の間に入れ多少首に傷をつけながらも魔封環に切れ込みを入れていく。

ある程度切れ込みができたら魔封環を力一杯引っ張って膂力だけで引き千切った。

後は身体強化魔法を使って手錠も飴のように引き千切り牢の鉄格子も人が出られる幅まで広げた。

「こんなところだ」

全員がグレンの脱走準備の手早さにあっけに取られていた。

「でお前達はどうする?ここを出て一ケ月も隠れていれば王都から調査が入って俺の口を塞ぎ損ねたゼイラム辺境伯は失脚するはずだ」

もっとも脱走を拒否し騒ぐようならこの場で全員の口を塞ぐだけとグレンは心の中で考えていた。

ここまでの話しはほぼグレンの推測である。

冷静になって考えれば脱走して捕まれば極刑になることとグレンの推測を天秤に掛ければ脱走を拒否する者が出ることも想定していた。

「なんでそんなことが分かるんだよ」

グレンはこれまでにギルドに金を払って調べてもらった王都の情勢とそこから推測される予想を述べた。

ここ一年でグレンがギルドに収めたかなりの数の高品質の魔石が王都に流れそれにより王国軍の上級騎士の一部に装備強化が始まっており、今回の防衛戦で得られた大量の魔石が最終的には王都に流れ軍備増強の流れを加速させ周辺諸国への侵攻か更なる高品質の魔石を求めて魔族領への侵攻が行われると予想される。

そうなれば魔将を単独で撃破できるグレンの武力の価値は計りしれず、己の利益のために国益を損ねたゼイラム辺境伯はグレンを処刑して口を塞いで表向き功績を独り占めしたとしても一旦魔将討伐の功で恩賞が与えられるだろうが実際には国益を損ねているため最終的に処分され、グレンの口を塞ぎ損ねた場合はグレンを王国軍に取り込むためにゼイラム辺境伯の方がさっさと切り捨てられると予想される。

となれば王都から調査が入って調査官なり王国軍の騎士団からグレンに出頭要請が出るまで潜伏していればいいだけだ。

「そうなればゼイラム辺境伯の犯罪行為に対する証人として利用価値があるお前達の身の安全は保障されるしギルドが責任を持ってゼイラム辺境伯失脚後の没収される資産からお前達への報奨金も支払ってくれるだろう」

「報奨金が手に入るというならグレンと一緒にここから脱走して潜伏するのが一番よさそうだ」

命の危険だけでも動きそうだったが更に報奨金が手に入りそうだと分かると皆脱走に乗る気になった。

グレンは全員の魔封環と手錠をあっさり引き千切り連れ立って夜の闇に消えていった。



一ケ月後グレンの予想通り王都から来た騎士団により魔将戦の調査が始まりゼイラム辺境伯は捕縛されグレン達への出頭要請が辺境全域に通達された。

一旦アノー城塞都市から遠方に逃走したと見せかけて追手をやり過ごし都市周辺に潜伏していたグレン達は大人しく主を失った領主館に滞在している王都騎士団の元に出頭した。

王都の上級騎士らしい横柄な態度の男達に案内されかなり高位の貴族らしい大きな魔力を放つ若い男の元へ通される。

「我はガネーシャ王国第2王子クラフトだ。お前が勇者グレンか」

相手は身分を名乗りグレンに問い掛けてきた。

「勇者?いえ私は一介のハンターに過ぎません」

「フム、まあよい。ところでゼイラム辺境伯の件、災難であったな。我が調査しなければ一生犯罪者として追われ続けるかいずれ捕まって極刑に処されていただろう」

「感謝致します」

王子の恩着せがましい物言いにグレンは謝意を述べる。

王子のような高貴の身分の者が一介の平民であるハンターのために動いたのだ。

感謝感激するのが当然であろうと考えているのが分かる。

他のハンター達は実際感謝感激しているようだがグレンとしては言葉だけで自分らの利益のために動いている王子らに本当に感謝する謂れなど全くない。

「さてグレン、魔将を討ったお前の功績を称え報奨金とは別に我配下として召しかかえてやろう。王族に匹敵するその魔力、街の噂通りどこかの国の権力争いに敗れた王族の末裔か王族の庶子に違いあるまいが今は名誉騎士号を与える。更なる功績を上げれば正式な叙爵もあろう」

「了解致しました」

一介のハンターに対しては十分な厚遇といえたし他のハンター達も羨望を込めてグレンを見ていた。

グレンにとっては予想通り王国軍に取り込むための話しに過ぎなかったが。

想定と少し違っていたのは第2王子自身の陣営に直接取り込もうとしているところだ。

ギルドから取り寄せた王都の情報の中には第2王子が王太子を引き摺り下ろそうと暗躍しているとの情報もあった。

その駒としての活用も考えているのだろう。

「ウム、ならば以後、我と王国軍に忠誠を誓い尽力せよ」

会談はこれで終わりのようである。

グレン達は案内してきた騎士達にうながされて部屋を出ていった。

「しかしあのような素性の定かでない者を本当に取り込むのでございましょうか?」

グレン達が退出後側近の一人が王子に話し掛けた。

「フム、今は女遊びに現を抜かす愚鈍で無能な第一王子を蹴落とすために一つでも多く手駒が欲しいところだ。嘗て誰もなしえなかった魔将討伐を果たしたあの者の武威はいろいろ役に立つ。更にあの者が近々行われる遠征で武勲を立てていけば召し抱えた我の名声にもなる。第一王子を廃した後、邪魔になれば我の他に後ろ盾のないあのような者などいかようにも始末できる。武威においては勝るものはないだろうが毒や美妃に寝首を掻かせるなど手段は幾らでもあるからな」

「そこまでお考えならこれ以上申し上げることは御座いません」

クラフト王子は頭を垂れる側近を見ながら王城で家臣一同にかしずかれる自分の姿を想像して燦然たる未来に胸を躍らせていた。



それから一ケ月ぐらいの間にガネーシャ王国内では辺境領を侵した魔族に対する報復論が活発に議論され始めた。

神聖なるガネーシャ王国の国土を侵した下賤な魔族は許しがたい、悪逆非道な魔族を討つべしという論調である。

実際には王都に流れ込んだ大量の高品質な魔石に目が眩み魔将を単騎で討ち取った勇者グレンの存在もあって嘗て何度も失敗した魔族領遠征により更に大量の高品質の魔石を手にいれたいがための欲望によるものであった。

やがて王命により魔族討伐が下されその司令官として第二王子クラフトが任命された。

遠征軍は魔人や眷属の高品質な魔石によって魔法装備を強化した上級騎士五百と今までは魔法剣以外の装備は高価なため持つことができなかった下級騎士やそれに付き従う従士にも先の魔獣群との戦いで得られた魔獣の魔石と足りない分は王国中から掻き集めた魔石を核とした鎧が王国より下賜され総勢五万の精強な軍勢が組織された。

「・・・然るに悪逆非道なる魔族に正義の鉄槌を下すべく今我らはここに集った。諸君らの奮起に期待する」

歴戦の諸将を後ろに従えたクラフト王子による騎士達への出陣式の演説が終わった。

歴戦の諸将の中に不釣合いに若い白銀の鎧を身に纏ったグレンの姿があった。

その魔力のオーラは王族であるクラフト王子に勝るとも劣らないものであり居並ぶ騎士達や従士達に勇者グレンの存在を印象付けていった。

ちなみにグレンの魔法剣と鎧等の特殊装備はゼイラム前辺境伯処刑後に第二王子の命令で返却されていた。

近衛兵の号令一下、騎士達は軍馬に騎乗し整然と隊列を成して魔の森に向け侵攻を開始した。

魔族討伐戦の始まりであった。



王国軍が魔の森の深域に入り二ケ月が過ぎだ。

深域は徒歩でも一日で抜けられる中域までと違って奥深くまで広がっていた。

これまでのところ魔獣の襲撃はあったが魔人の姿は見えなかった。

日が傾き本日の夜営をするため行軍を止め周囲の樹木を従士達が切り倒し広場を確保して準備を始める。

グレンはクラフト王子の幕舎に呼ばれ居並ぶ諸将の末席を与えられ斥候の報告に耳を傾けていた。

斥候の偵察結果によると魔の森の深域から魔族領に至るまでの間に強力な魔獣を居れども魔人や眷属の姿はなく魔族領には入らなかったもののそちら側に大軍が伏せている様子はなかったとのことであった。

「フム、どう思う?」

クラフト王子は諸将を見渡して問うた。

魔族を後一歩のところまで追いつめたとされる真偽定かではない太古の英雄譚を除いて正規な歴史書によるとこれまでの討伐軍は例外なく魔の森の深域を抜けた直後魔族領に布陣していた二万程度の魔族軍によって正面から撃破されていた。

討伐軍の総数が二十万を越える時でも数にまかせて眷属や魔人を突破した後厖大な魔力を誇る数人の魔将達によって悉く殲滅されてきたのであった。

しかしその不敗の魔族軍の姿が魔族領に見えないのである。

クラフト王子を含む諸将が当惑しても当然であった。

誰も意見がないため王子はグレンに目を向けた。

「・・・おそらく魔族領の奥深くに誘い込んで補給線を断ちこちらを疲弊させた後包囲殲滅を仕掛けてくるつもりなのでしょう」

「ばかな!有史以来魔族側の迎撃方法に変更はなかったのだぞ」

諸将の一人が激昂したように叫ぶ。

周囲の他の諸将も同調したようにグレンを睨みつけた。

状況はどうあれクラフト王子が新参者のグレンを重用する姿勢を見せたことがおもしろくないのだ。

「しかし現実に敵はいません。今回は魔将が討たれた直後であるし魔族側も用心して戦略を変えてきたと思われます」

言外に魔将を討伐したグレン故であることを示唆された諸将は苦虫を噛み潰したような顔をした。

魔力が高いとはいえ身元不確かな若僧の実力を認めるにはこれまで戦功を積み重ねてきた諸将にとって難しいことであった。

「まあよい。してその予想に対して対応策はあるのか」

「・・・輜重隊を上級騎士で護衛させ魔族側の後方攪乱に備えさせます。後は行軍速度が遅くなりますが魔族領侵攻途上でできる限り中継補給基地を作り本隊と補給線の距離を短くすることでしょうか」

クラフト王子の問いに諸将の一人が献策した。

「よかろう。他の諸将も異論はないな。では後方に伝令を送り状況を伝えて補給基地設営のための資材と十分な補給物資を送るよう伝えよ」

実際には異論のありそうな諸将を抑えクラフト王子が決を下す。

それ以上の策を思いつかない諸将は頭を垂れ了解の態度を示した。



討伐軍は魔の森の深域を抜け魔族領に何の抵抗もなく侵攻を果たした。

魔の森の深域を抜けると木々は疎らになりやがて広大な荒野に出た。

敵影はない。

ここで壊滅するのが定めであったかのようなこれまでの歴史を塗り替える偉業を達成した瞬間であった。

諸将や騎士達の顔には歴史的快挙に立ち会った喜びに溢れていた。


それから二ケ月、魔人や眷属だけによる斥候部隊との散発的な戦闘があったものの武装強化された斥候部隊の騎士達はこれをよく凌ぎ有望な進路情報をもたらしてくれたお蔭で本隊は魔族領内を順調に進んでいた。

しかしやがてどうしても避けられない難所に差し掛かった。

高い山々が左右に伸び一ヶ所のみ高台の谷間を縫うように馬車が一台やっと通れるぐらいの細い道が向う側に通じていた。

左右の高い山々も地平の彼方まで伸びとても迂回していくこともできなかった。

そして斥候の話しでは左右の高台に其々魔族の軍が陣地を構築しているとのことであった。

内訳は片側の高台ごとに眷属一万、魔人五十、魔将が一体とのことだった。

もし高台を放置して谷間の道を進めば高台から投石や魔法攻撃を一方的に受け多大の損害を出すことが確実で先に高台を攻略しようとしても下から攻め登る不利は覆しようがなくこれも多大な損害が出る上にグレンは一人であるため同時攻略ができず片側の攻略に手間取っている内に反対側の魔族軍が高台から下りてきて後方を突かれることにもなりかねない。

第二王子の幕舎で諸将と長時間の協議の末作戦を決定した。

本隊から一万の軍勢を分け片側の高台に侵攻、グレンがその前に山を回り込んで待機しておき一万の王国軍が接敵すると同時に後背をつき一気に魔将を討ち取る。

その時点で反対側の魔族軍が高台を下り始めたら高台の麓で待機している本隊が足止めする。

その間にグレンが魔将を討って中央突破し高台を駆け下りて本隊と合流し魔将を失い統率が乱れ分断された魔族軍を王国軍一万が足止めする。

本隊正面の魔族軍をグレンが正面から中央突破し分断しながら後方魔将に辿り着き魔将を討った後本隊と挟撃しこれを殲滅し然る後足止めしていた王国軍一万に本隊とグレンが合流して残りの魔族軍を正面から殲滅する。

もし反対側の高台の魔族軍が下りてこなければそのまま片側の魔族軍をグレンが一万の王国軍と挟撃して殲滅し本隊と合流、反対側の高台に全軍で攻め上りグレンが正面から中央突破し分断しながら後方魔将に辿り着き魔将を倒した後は五万の軍勢と挟撃して残りの魔族軍を殲滅する。

実にグレンに頼りきった作戦であった。

「フム、他に策がなければこれで決定する」

クラフト王子が諸将を見渡すが異論は出ず実行に移されることになった。


グレンは険しい山を踏破し魔族軍の後背をつける位置に来ていた。

回り込む時間は余裕を取ってあり王国軍の接敵までまだ時間があったのでじっくりと魔族軍の様子を伺っていた。

魔族軍は食事の真っ最中であった。

眷属が魔獣を捌いて喰うのは問題がなかったが魔人が眷属を捌いて喰い魔将は魔人を捌いて喰っていた。

その様子は普通の人族なら嫌悪を覚えるものであったが同じことをしているグレンにとってはたいしたことではなかった。

グレンと同じように喰った魔族の魔力分上乗せされているようだが上位個体は下位個体しか喰わないため魔力の増加量はわずかであった。

同格のものを喰わない理由が嗜好的なものか倫理的なものか宗教的なものかは分からなかったが。

それとほぼ天敵のいない魔族が繁殖を重ね個体数が増大して千年以上の間人族領域まで広がらなかった理由を推論することができた。

魔族軍の構成からみて下位個体の方が上位個体より繁殖力が高く上位の魔族が下位の魔族を喰うため結果として間引きとなって個体数が増加しなかったのだ。

通常の魔将、魔人、眷属と同格間では魔力にあまり差がなく今喰われている個体の魔力が同格の魔族の平均的な魔力を上回った個体であるところみると年を経て魔力が増した個体を優先的に喰うことによって同格間での魔力の平坦化も行われていると考えられる。

しかしこの仕組みの最上層に位置する魔王の寿命は分からないしどのくらい前から魔将を喰らい続けているか分からないがその魔力が厖大なものになっていることが予想される。

それに世代交代の度に前魔王を喰ったりファンタジー世界の魔王のように不老であったりすると千年以上その魔力を貯め込んでいることになる。

魔族討伐戦の最終段階で魔王と対峙する予定のグレンとしては力押しでは魔王討伐がより困難、というよりほぼ不可能になったと判断せざるおえない推論であった。

やがて王国軍一万が魔族軍一万と接敵した。

集団で一ヶ所に集中された攻撃魔法が相手の魔法障壁を撃ち破り互いの前衛を削り取っていくが魔族軍は坂上に簡易な石垣を組んで損害を減らしており、一方王国軍側は後衛により集団展開された魔法障壁と前衛の持つ眷属の魔石で魔法防御が数倍に強化された魔法盾と魔獣の魔石を使った通常の魔法鎧-それでも個人による魔法障壁に較べれば格段に防御力が高い-で損害を減らしていた。

今までは損耗の激しい前衛を任される(押し付けられる)下級騎士には使い回しの利く魔獣の魔石を使った通常の魔法盾はともかく魔法防御のない鎧を使っていたため集団戦でも近接での個々の戦闘でも損害が大きかったが全体の装備強化により坂上から攻撃魔法を撃ち下ろされる不利な状況でもかなりの損害軽減に成功していた。

互いの損耗率が拮抗しある種の膠着状態が生まれその時を待っていたグレンは魔族軍後方から駆け出し一直線に魔将に向かっていく。

遮る眷属や魔人を一刀の元に斬り捨てて魔将に向かって突き進む。

後一歩のところに迫ったところでその魔将が空に舞い上がった。

背中に羽が生えておりそこから魔法発動時の魔力光が溢れ出て羽ばたきもせず滞空している。

魔法を使って滞空しているのだ。

一旦足を止めて空飛ぶ魔将を見上げていると魔人の一人の魔力が爆発的に膨れ上がり魔将クラスになった。

どうやら魔力を魔人並に落として潜んでいたらしい。

そして隣の高台にいた魔将の魔力も二人になり一人が同じく羽を待った魔将に抱えられてこちら側の高台に移動して抱えていた魔族を降下させた。

これで4対1である。

「ハハハッ、我々魔将を甘く見たな、人間。同じような手に二度も引っ掛かるとでも思ったのか」

最初に飛び上った魔族が嘲るように笑って言った。

地上の二体の魔将が魔法剣を引き抜き挟み撃ちにしてくる。

グレンはそれを双剣で捌く。

激しい剣劇が繰り返されグレンは防御一辺倒になっていた。

城塞都市を襲った魔将の心臓を喰い更に魔力量が増大したグレンなら1対1という条件であれば魔将を圧倒する力があったが二体が連係してくる状態では捌くのが精一杯であった。

更に上空の魔将が炎の槍を交互に撃ち下ろしてくる。

グレンは連射されるように降ってくる攻撃魔法をぎりぎり躱すがそれが大きな隙となり地上の二体の魔将が繰り出した突きを捌ききれず鎧に剣先が届く。

辛うじて鎧の防御魔法を発動させ魔将の剣を鎧の表層で留めるが動きが完全に止まったグレンに二本の炎の槍が同時に頭部を狙って撃ち下ろされた。

グレンは頭だけ躱し頭があった位置に水弾を生み出す。

二本の炎の槍が水弾に刺さった瞬間激しい水蒸気爆発が起き近接していた地上の二体の魔将が左右に弾き飛ばされた。

グレンは鎧の二つの魔石に魔力を注ぎ込み防御力を最大限に引き上げ超近距離の爆発を凌いだ後ブーツの仕掛けを最大出力で起動した。

足裏から爆発的な魔力光が発生し白い爆煙でグレンの姿を見失っていた滞空している魔将の一体に迫った。

まさかグレンが飛んでくるとは思っていなかった魔将は完全に虚を突かれ真正面から振り下ろされた魔法剣を避けきれず真っ二つにされた。

「甘かったのはどっちかな」

グレンは滞空したままその魔将の左半身を剣を持ったまま抱きかかえるように捕まえ反対側の剣を仕舞って心臓を素手で抉り出し喰らいついた。

「き、貴様何者だ!我々魔族は魔獣と同じく人族にとっては毒となるはず。それを喰って万が一生き延びたとしても人族の形質を保てないはず、貴様まさか・・・」

地上の魔族が喚いた。

グレンはそれを無視してもう一体の羽を持った魔将に向かった。

その魔将はグレンを振り切るように旋回するがグレンはあっさりと追いつき背後を取った。

「ウオッ、俺より早いだと!」

次の瞬間、その魔将も真っ二つになり心臓を喰われる。

既に一方的な殺戮であった。

グレンは地上に降り立ち瞬時に片方の魔将に駆け寄り肉薄した。

魔将も辛うじて魔法剣を構えるがグレンは右手の剣だけで魔将の剣ごと両断し背後に迫っていたもう一体の魔将の剣を横飛びに躱しバックステップするように魔将の横に回り左手の剣を振るって横薙ぎにして仕留めた。

グレンは素早く二体の魔将の胸を切り開き心臓を喰い周辺の魔人や眷属の掃討に入る。

グレンに反感を抱いていた王国軍一万の指揮を任されていた将軍はグレンが四体の魔将に囲まれた時点で作戦失敗と判断し見捨てて撤退を始めていたが急遽反転し挟撃に入った。

魔将を全て倒され動揺し後方からグレンの攻撃魔法の連射に晒された魔族軍は正面の一万の王国軍に挟まれ殲滅されていった。

反対側の高台の魔族達も駆け下りてきたが麓で王国軍本隊と激突し武装強化した騎士となにより数の差でこちらも徐々に数を減らしていきグレン達が高台の魔族を殲滅し終わって合流した後はあっさりと壊滅した。

ここに魔族領最大の難所の攻略は王国軍の大勝利に終わった。



高台の谷間の道を抜け更に二ケ月が経った。

補給基地を設置しながらの行軍のため侵攻速度は上がらなかったが難所の攻防戦の後は数百程度の眷属の散発的な抵抗戦しかなく順調に歩を進めていた。

難所の攻防戦で大量の高品質の魔石と魔将の最高品質の魔石を4個も手に入れ取り敢えずの戦略目的を果たした王国軍にグレンは撤退を提案してみたが更に多くの魔石を欲するクラフト王子と諸将は頷かず侵攻は続くこととなった。

やがて荒野を抜け広大な分地に辿り着いた

分地の周辺には木々が生い茂り水量豊かな川が流れ込み奥底には街がありその中心には厖大な魔力のオーラを放つ城があった。

魔力のオーラの大きさから魔王の住まう城であると推測された。

街の前には約二万の魔族が展開し魔将も四人程度いるようであった。

前回の戦いで同程度の戦力を壊滅させたことに自信を持ったクラフト王子と諸将は罠の可能性を指摘して制止するグレンの言葉も聞かず正面から王国軍を魔族軍に向かわせた。

厖大な魔力を持つ魔王については魔族軍を壊滅させた後グレンと王国軍の総力をもって当たれば倒せると単純に考えているのだろう。

魔王が千年以上魔将を喰って魔力を増大させていると考えているグレンとしてはこれでもまだ魔王が魔力を抑えていると見ていたし魔族軍が一方的に不利になる前に魔王が出てくるはずだから王国軍の総力を集中させる状況になるなどあり得ないと判断していた。

もっとも魔族軍側が難所の攻防戦で敗れた同等の戦力でしかも開けた場所で向かい討つのなら罠以外のなにものでもないのだが。

クラフト王子と諸将は欲望に目を曇らせ魔族が魔石にしか見えなくなっていたのだ。

両軍は正面から激突し数に勝る王国軍が優勢に戦いを進め徐々に魔族軍をすり減らしていった。

グレンを除く王国軍の誰もが勝利を確信した。

しかしそれは儚く消え去ることとなる。

後方の盆地上より約二十万の魔族軍が突如姿を現し王国軍の後背を突くべく動き出したのだ。

魔将の魔力のオーラも百人近くあり王国軍は一気に浮足立った。

「クラフト王子!王国軍側面より近衛百名を連れてお逃げください。残りの王国軍は反転し後方魔族軍を引きつけつつ中央突破し撤退を、私は正面の魔族軍を突破し魔王城に突入してなんとしてでも魔王の首を取ります。そうすれば魔族軍全体に動揺が走り本隊の突破の可能性も上がります」

「ウ、ウム、分かった。諸将よ、其方らは各配下の部隊をまとめ後方魔族軍を中央突破し後方補給基地まで撤退しろ。私も近衛軍を率い後方魔族軍の側面に陽動を掛けながら撤退する」

クラフト王子が体裁だけは整え諸将に命令を下す。

実際には陽動するつもりもなく一目散に逃げるのだろう。

諸将の方も一緒に逃げたそうな顔をしていたが彼らも逃げると王国軍は総崩れとなり一方的に追い立てられ結局全員助からないのも分かっていたので後方の敵の中央突破した方がまだ助かる可能性が高くなるためクラフト王子の指示に従った。

グレンは正面の魔族軍に突入した。

グレンの放つ攻撃魔法が正面の魔族軍を圧倒していく。

それに合わせて王国軍は反転し後方魔族軍二十万を中央突破するために移動を開始した。

近衛百名を引きつれたクラフト王子も王国軍側面から離脱を開始する。

王国軍が後方魔族軍と激突し王子らも十分離れた頃合いでグレンは魔法攻撃を止めこれまで隠してきた本当の魔力量のオーラを解放した。

その途端正面の魔族軍の動きも止まった。

「贄だ。魔王様の贄だ」

正面の魔族軍の間に騒めきが広がりやがて左右に分かれて魔王城に続く道が開けた。

グレンの計算通りであった。

魔王は魔力の大きくなった魔将を喰うという推論を元に魔族を喰い続けた今の自分がその条件に適合しているのではないかと予想して確認してみたのであった。

間違っていたら突破するだけだったが。

ちなみに王子らが離脱するまで待ったのはグレンの魔力解放を見てこちらの指示通り動かず死んでもらっては今後に差し障りがあるからであった。

グレンは魔族の間を抜け街の中央通りから真っ直ぐ魔王城に入る。

魔王城の内部は左右の回廊に別れていたが正面の魔王の放つ魔力のオーラの方向に扉がありそれを次々と開いていくと玉座の間のような場所に出た。

窓もなく明かりもない薄暗い部屋の中、豪華な玉座には厖大な魔力を放つ黒髪黒目の人間にしか見えない端正な顔立ちをした美丈夫が座っていた。

服装は緩やかな布の黒衣を纏い腰に剣もなく武具の類も一切身につけていないようだ。

「お前が魔王か」

グレンが問い掛けた。

「いかにも、何の御用かな、招かざる客人よ」

意外に柔和な声が返ってきた。

「いくつか聞きたいことと欲しいものがある」

「ここで時間を掛けてもいいのかな。今も外では王国軍が必至に私の配下の者と戦っているというのに」

「王国軍など俺にとっては全て捨石だ。クラフト王子も次の段階で必要だから生き延びられる手は打ったが死ねば死んだで他の手段を考えるまで」

「薄情なことだな。それで何が聞きたい」

「魔族の成り立ち、人族の貴族と魔族の関係、何故勢力圏を広げず同族喰いをしているのかだ」

「その質問自体が答えを示しているようではあるが、よろしい、話してやろう」

魔王は語り始めた。


千数百年の昔一人の人族の子供が辺境の魔の森に近い村に生まれた。

その頃の人族は現在の人族の領域内に村々が点在しているだけで国といった形のものはなく今の平民並みの魔力しか持っていなかった。

しかしその子供はそれすら持っておらず魔力がまったくない状態であった。

そんな状態でもその頃の人族は魔力の大きさによる差別もほとんどなく子供は成人まで普通に育てられた。

青年になりある時、魔の森近くで薬草を採取していると不運にも魔獣に遭遇してしまった。

青年はやむなく魔の森に逃げ込み魔獣から逃れることには成功するが迷ってしまった。

魔の森を彷徨う内に魔獣同士の争いで共倒れになった魔獣の死体を見つけ空腹に耐えきれずその頃でも人族にとって毒であると知られていた魔獣の肉を喰ってしまった。

その後三日三晩苦しむもその間運良く魔獣に発見されることもなく四日目の朝には回復しており魔力を手に入れたことも分かった。

魔の森から脱出するまで魔獣の肉を喰い続けた男は順調に魔力を伸ばし今の王族を越える魔力を得ていた。

男は村に帰りその厖大な魔力で村の発展に寄与し村長の一人娘と結婚して村長となった。

しかし数十年も経つ内に男の異常が露呈し始めた。

男には劣るが厖大な魔力を受け継いだ子供達が成人し妻が年老いて死に子供達が孫を成しても男は成人の頃の姿のままだったのだ。

不老に対する嫉妬や気味の悪さで村人の目が年々厳しくなっていき男はやがて魔の森に去っていった。

それから数百年経ち魔獣を喰らい続けた男の魔力は更に増大し続け魔の森の魔獣が束になって掛かってきても纏めて瞬殺できるようになった頃一人の異形の娘が男の前に現れた。

娘は男と同じ魔力なしとして生まれたがこの頃には男の子孫がその強大な魔力を持って村々の統合を始めており魔力の小さい者や無い者の差別や排斥が始まっており娘も排斥され魔の森に死を覚悟して入ったが男と同じように運良く魔獣の肉を手に入れて喰い生き伸びて魔力を得るも身体の一部に喰った魔獣の形質が現れ異形と化していた。

幸いその娘は他の魔獣の肉を喰っても最初に喰った魔獣以外の形質は出ず―でなければ魔獣の肉しか手に入らないこの森ではやがて人の形を失っていき僅かに人の形質を残したキメラなような魔獣と化していただろう―男は娘を受け入れやがてその形質と男には劣るが強い魔力を持った子供達が生まれた。

娘は数十年で人族と同じように年老いて死んでいったが子供達は成人まで成長した後は男と同じく老いることがなかった。

子達は兄弟同士で交わりを繰り返し子達と同じ形質と魔力を持った者達が増えていった。

皮肉なことに世代を経るごとに形態も魔力も変わらなかったが魔獣から受け継いだ闘争本能が強くなって気性が荒くなり魔の森の中でも強力な個体である肉食性の魔獣を殺し尽くすほどの勢いで狩っていった。

そのため肉食性の魔獣の餌になっていた弱く多産な雑食性の魔獣が捕食するものがいなくなり大量発生して魔の森の草木を根や種子に至るまで喰い尽くし食べるものがなくなると同族喰いに走り最後には餓死していった。

それにより魔の森の深域は生態系を大きく破壊され人族側に近い現在の領域まで縮小し以後こちら側には千年たっても回復しない荒野が広がることになった。

男は自分達の生命線である魔の森の生態系を守るためやむなく子達の間引きを行うことにして同時に子達に必要以上の魔獣の殺傷を禁じた。

子達の中には逆らう者もいたため既に魔獣では魔力の増強も頭打ちになっていた男は強い魔力を持った子達を優先的に殺して泣きながら喰い魔力を増強して圧倒的な魔力で子達を従えていった。

定期的に間引きを繰り返しながら数百年経ったある日あの娘と同じように異形化した娘が魔の森で必要最小限の狩りをしていた子達の前に現れた。

人族では男の強力な魔力を持つ子孫達が幾つかの国を作って他国を統合しようと相争い魔力の弱い者は平民として搾取され偶に生まれる魔力なしの子供は魔力至上主義国家の最底辺としていわれない差別と排斥を受けているとのことだった。

その娘も前の娘と同様に排斥され魔の森に死を覚悟して入り同様に運良く魔獣の肉を手に入れて喰い生き伸びたとのことだ。

実際には魔の森で魔獣の餌となり又子達の暴走時期には他の魔獣と一緒に殺戮されて男の元に辿り着けなかった者も数多くいたのだろう。

それでも数十年に一人ぐらいの割合で異形化した男達が魔の森深くに住む男の元に辿り着いていたが全て寿命で死んでいった。

女に至っては体力的な問題か最初の娘以外は辿りついた者がおらずその娘が久方ぶりの女であった。

魔獣の性質が強く出て愛情とかが希薄になっていた子達は面白半分にその娘と交わり子供を儲けた。

男にとって孫となる者達は魔獣の形質がより強く現れたが男の子達より魔力は劣っていた。

この孫達も兄弟同士で交わりを繰り返し同じ形質と魔力を持った孫達が増えていった。

孫達も世代を経るごとに魔獣の闘争本能が子達よりより強くなって気性が荒くなっていった。

又、魔獣の闘争本能が強くなったためか性欲の抑制が効きにくくなり結果繁殖力が高くなって子達より個体数の増加率も高くなっていた。

前回と同じ事が起こることを危惧した男は子達に孫達を喰って間引きすることを命じ同時に子達には魔獣狩り自体を禁じ孫達には必要以上の魔獣の殺傷を禁じた。

その際に孫達の命は子達が喰うことによって合わさり共に生き子達の命は男に喰われることによって合わさり大きな不滅の命となると教えた。

子や孫達は魔獣の魔力の強い個体が弱い個体を喰うという性質を受け継いでいたためか下位の個体を喰うことをすんなりと受け入れていった。

それから数百年が経ち孫達がまた異形と化した娘を見つけて交わり同じことを繰り返したので男はこれ以上魔獣の形質や性質が強く出て魔獣そのものと化すことを恐れ以後全ての子、孫、曾孫達に異形化した人族との交わりを禁じ見つけた異形の娘達には手出しせず男の元に連れてくるように命じた。

男はその娘達と時に子供を生すこともあったがそれは子達をより多く喰うことに繋がるため徐々に自重していった。

暫く平穏が続きある日突然人族の軍が魔の森に攻め入ってきて魔獣も男の曾孫達も関係なく狩り始めた。

男はその軍が遠い昔に生した男と人族の普通の娘との子孫であることに気づいた。

男の直系の者達が近親婚を繰り返して強い魔力を保って王族となり普通の人族と交わり血が少し薄まり魔力が弱くなった者達が貴族となって軍を編成し魔石を求めて魔の森に攻め込んできたのだ。

貴族と男の曾孫達の魔力はほぼ同等であったが人族間での戦争を繰り返し集団戦に長けた人族の軍の連係や数の暴力の前に孫達ですら押し潰されていった。

男の子達には流石に束になっても敵わなかったが連係や纏りを欠いた動きでは大勢に影響を与えることができず孫や曾孫達が次々に討ち取られていった。

男は人族の軍を真似て男の魔獣混ざりの子孫達で軍を編成し人族の軍が男達のことを魔族と呼んでいたので男は自らを魔王、子達を魔将、孫達を魔人、曾孫達を眷属と名付け魔族を一族の正式呼称として人族の軍と戦った。

初戦で打撃を受け集団戦の戦い方も試行錯誤で学んでいった魔族は苦しい戦いを強いられたがやがて人の形質を多く受け継いでいる魔将達が人族の戦術や戦略、魔人や眷属の指揮の仕方に習熟していき最終的には人族の軍を壊滅させることに成功した。

以後は魔の森に魔獣狩りと斥候と闘争本能を満足させるために魔人や眷属達の少数部隊を送り出し人族の血が色濃い魔将達はこの地に街と魔王城を築き上げ住まい前回の敗北が薄れる度に侵攻してくる人族の軍を殲滅しながら今に至っているとのことだった。


「私と同じく魔獣を喰っても人族の形質のみを保ち魔力を得て私の元に辿り着いた者は永い魔族の歴史の中でお主が初めてだ」

「気付いていたのか」

「当然であろう。難所の攻防戦では魔将の周囲にいた魔人達に生き残りがいなかったためおそらくお主が倒した魔将達を喰った情報は届かなかったが魔将を越えるその強大な魔力は人族が持ち得るものではない。もっともお主ほど魔族を喰った者は私を除いておるまいが。望むなら同朋として向かい入れてもいい」

「そしてやがてお前に喰われろと言うのか」

「お主が私を喰っても構わないのだぞ。この私を倒せるものならな」

魔王は玉座からゆっくりと立ち上がって問うた。

「最後に聞こう。お主の欲しいものとはなんだ?」

「それは・・・、お前の魔力だ!」

グレンは走り出し双剣を一つに合わせると最大限の魔力を流し魔王に斬りつけた。

魔王はその場から動きもせず構えも取らずそれを受けた。

カンっと金属を打ち合わされるような音がしてグレンの剣が弾かれた。

魔王は微動すらしていない。

魔王の身体に沿って薄く張られた魔法障壁がグレンの最大出力の魔法剣の一撃を軽く弾いたのだ。

“ファイヤーランス”

グレンは一旦扉の前まで下がって距離を取りつつ最大魔力を込めた炎の槍を連射していく。

白い閃光を放つ先端は超高密度の魔力が込められ少々各上の相手の魔法障壁でも打ち破ることが可能であった。

しかしそれも魔王の魔法障壁の前には次々と霧散していった。

「攻撃魔法の連射など初めてみるが魔族の魔人でも使える技が少々魔力を上げ連射ができたとしても魔王である私に通じる訳もあるまい」

魔力量が違い過ぎるのだ。

千年以上に渡って溜めこまれた魔力は伊達ではなかった。

今の魔王の魔力量なら数万の軍勢だろうと一瞬の内に殲滅させることができるだろう。

グレンは連射を止め平然とその場に立つ魔王を睨みつけた。

「魔力に差があり過ぎるな。千年の倦怠を晴らすには全然足りない。そうだ、この場を動かないで手も出さないでおいてやるから全力でありったけの攻撃を仕掛けてこい。全ての手段を尽くして諦めるまで待ってやろう。ついでに私の本当の魔力量も見せておこうか」

魔王のただでさえ厖大な魔力が爆発的に更に膨れ上がった。

「・・・」

グレンは驚きの表情も見せず無言のまま魔王から少し離した位置に囲むように普通の炎弾をばら撒いていった。

魔王の周囲が炎に包まれ家具や調度に燃え移るが石壁の魔王城にも魔法障壁が輻射熱すら遮断しているのか魔王にも影響は見られない。

グレンは火勢が弱まる度に炎弾を追加していく。

「どういうつもりだ?こんな魔力の無駄遣いになんの意味がある?」

魔王はグレンの行動に意味をみいだせず問い掛けた。

「・・・先ほどのお前の話しを聞いて一つの仮説を思いついた」

あからさまに問い掛けを逸らした。

「ほう?言ってみろ」

圧倒的力量差で魔法攻撃が全く通用しないことが分かっている魔王は余興ついでに敢えて乗ってくる。

グレンは炎弾をばら撒き続けながら話し始めた。


太古おそらくは魔の森から離れた場所に初めて小さな集落ができた頃原初の人族は全く魔力を持たなかったと思われる。

魔の森に近ければその集落は魔獣に滅ぼされていただろう。

その中の男か女かは分からない一人が偶々集落近くに迷い込んで野垂死ぬかなにかした魔獣の肉を喰った。

その人族は魔王やグレンのように人族の形質のみを保ち現在の平民より高い魔力を得た。

魔王やグレンやその人族は偶々なんらかの人族の形質を保つ因子を持っていたか異形化する因子が欠落しておりそれが魔獣の肉を摂取することによって不老化する原因とも考えられる。

でなければ魔獣の肉を喰ったその人族は異形化した時点で人族の集落を追い出されるか殺されるかしていただろう。

そのままその人族は他の人族と交わりその子孫の血が集落全体に広まり現在の平民並みの魔力となった。

その人族と番いになった人族は魔獣の肉を摂取しても人族の形質を保てる因子が欠落していたか異形化する因子を持っていて魔力と一緒にその子孫に伝えられていった。

現在の人族に魔獣の肉が毒となるのはその因子の所為かその因子が最初に摂取した魔獣の魔力に対してある種のアナフィラキシーショックを起こし死に至るのかもしれない。

ほとんどの魔力なしの人族が異形化するのも最初に喰った魔獣の形質しか出ないのもその因子の所為かもしれない。

魔王と同じ体質を持ったその不老の人族も同じように人族の集落から去らねばならず以後魔王と違い歴史に姿を見せていないことから事故で死んだか寂しさに耐えきれず自ら命を絶ったのだろう。

そして集落は人口増加で分裂して広がっていきその一つが魔王の生まれた集落となった。


「魔力を全く持たない原初の人族の集団か。そんなことがあり得るのか?」

魔王は少し興味を待ったように尋ねた。

「少なくとも俺は魔力を全く持たない人間しかいない世界を知っている。ひょっとしたらその世界がその太古の小さな集落を残して滅びこの世界になったのかもしれない。俺の前世の記憶もなんらかの遺伝子によるシンクロニティ的な種族的記憶から来たものなのかもしれないし・・・」

「アナフィラキシーショックとか魔力を全く持たない人間しかいない世界とかシンクロニティとかよく分からない知識は前世の記憶とやらから引き出したものか?」

「信じなくてもいいさ。狂人の見たただの夢かもしれないしな」

「なんにしてもこの千数百年聞いたこともない話しだ。与太話にしても興味深い。お主が居れば私の倦怠も随分和らごう。今からでも遅くはない鉾を収めぬか?」

「断る。俺にはやらねばならぬことがある」

「なら時間稼ぎは付き合うのはここまででいいか?少々煙たくなってきた」

グレンは炎弾を撃ち続けているが何故か火勢は弱まってきており代わりに室内に煙が立ち込めてきていた。

「煙で燻すだけの嫌がらせならこれ以上手がないと判断し今度はこちらから・・・グッ」

突如魔王が呻き膝をついた。

その身体にはなんの外傷もなかった。

「・・・どうやら身体機能は人間と変わらないようだな」

「ゴフッ、ゴフッ、なんだと」

魔王は咳き込みながら問い返す。

「一酸化炭素中毒って知っているか?」

「ゴフッ、イッサンカタンソ中毒だと?毒の類か?いつの間に・・・」

「結局のところ炎弾も空気中の酸素を消費して燃えている。密閉された室内で酸素が不足した状態で更に高熱によって家具などが燃え続けていれば不完全燃焼で一酸化炭素が多く発生する。酸欠ぐらいは警戒していたかもしれないが俺が立つ外に通じる扉が全て開いていたので大丈夫だと思っていたのだろう?それにそこまで煙に巻かれても少々煙いですんでいたところをみると厖大な魔力によって強靭化した肺は少ない酸素でも多少の煙でも大丈夫なんだろう?扉の前で極薄い魔法障壁を前方に張って室内の空気を遮断していた俺はともかく閉じられた室内にいた貴様にとっては無色で無味無臭の一酸化炭素は致命的だったようだ。俺が微弱な魔力で魔法障壁を張っていたのに気付かなかっただろうが大きな魔力に頼り過ぎるのも考えものだ。あまりにも微弱な魔力は感じないか見過ごしてしまうようになる」

「クッ、この炎が原因か!」

魔王は周囲の石壁やグレンごと炎を吹き飛ばそうとしたが既に集中力を欠き強風で炎を吹き飛ばすに留まった。

強大な魔力を持っていても集中力を欠けばまともに魔法を具象化できるはずもない。

グレンは魔王の強風を鎧の魔法防御で防ぎ全力の身体強化を掛けて一気に近づき一本にしたままにしていた大剣に全力の魔力を注ぎ込み胸に突き立てた。

「ガフッ!!」

魔王は血反吐を吐いた。

魔法防御が弱まった魔王の身体をそれでもかなりの抵抗を残しながら大剣が貫き通していた。

魔王はよろよろと後退り仰向けに倒れた。

「フハハッ、千数百年の旅路の果てがここか。まあよい、お前の勝ちだ。私を喰らって魔力を奪うがよい」

グレンは黙って魔王を見下ろした。

「しかし一つ頼みがある。私の子ら魔族の行く末だ。私の魔力を得れば子らは私の命がお前と合わさって一体となったと考えお前を新たな魔王として認め従うだろう。お前になんの目的があるのかしらないが力や手段は多ければ多いほどいいだろう。魔獣に近しく一方的に喰らい続けたとはいえ千数百年見守ってきた子供達だ。どうか頼まれてやってはくれまいか・・・」

「・・・分かった」

「フフッ、お前も案外お人好しだ。ああ、これで永き責務から解放される・・・」

魔王は事切れた。

グレンは魔王の亡骸をただ見つめていた。



それから二ケ月クラフト王子は十名の近衛兵を連れ魔の森の深域まで逃げ延びていた。

途中中継補給基地に辿り着くも全て壊滅状態であった。

やむなく弱った軍馬を潰して飢餓を凌ぎ徒歩になった近衛兵達も見捨ててここまで辿り着いたのであった。

既に騎乗していた軍馬まで食べ尽くし徒歩で魔の森を進んでいた。

この二ケ月魔族の追撃を恐れ最速で駆け抜けてきたためか魔族の襲撃も受けず魔の森の深域に辿り着けたがそれもここまでであった。

「クラフト王子、お逃げください!」

軍馬も全て食い潰し鎧を脱ぎ捨てても最後まで持っていた剣を振るいながら近衛の一人が叫ぶ。

この人数と剣しか持たない状態では魔獣が闊歩する魔の森は最後の難所であったが最悪なことにここにきて魔人十体と百体を越える眷属の襲撃を受けたのである。

最後に残った近衛兵も一人また一人と討たれながらも残りの兵が魔族を足止めしている間にクラフト王子は一人逃れていた。

恐怖に追われ一人魔の森を走るクラフト王子の疲れ切った頭の中には責任逃れの問いが渦巻いていた。

目もあてられない敗北を喫し率いた王国軍も失い得られた魔石すら全て失った。

頼みの綱としたグレンも帰ってこなかった。

これでは王都に辿りついても敗軍の将として断罪されるだけである。

魔族討伐の功により第一王子を王太子の座から引き摺り下ろし取って代わろうとしていたのに逆の結果になってしまった。

何が悪かったのだ、誰が悪かったのだ。

責任逃避している以上答えの出ない問いだけが頭の中でぐるぐる回転していた。

ガサッ、と前方から草叢を押しのける音が聞こえ長い犬歯を持つ虎型の魔獣が現れた。

長期の敗走の果てに魔の森を走り続け疲労困憊のクラフト王子は手を震わせながら剣を構えた。

魔獣が跳躍してクラフト王子に躍りかかってくる。

クラフト王子は魔法剣を辛うじて叩きつけるように振るうがあっさり長い犬歯に弾かれ手から失われた。

クラフト王子は炎弾の攻撃魔法を放つが魔獣は素早い動きでこれを躱した。

そして魔獣は全ての攻撃手段を失ったクラフト王子に再び躍りかかった。

再度の攻撃魔法を撃つための集中する時間も取れずクラフト王子は恐怖に目を瞑った。

「ギャフッ!」

しかし予想していた魔獣の一撃は来ず逆に魔獣の悲鳴と地に落ちる音が続いた。

目を開けるとほとんど無傷の白銀の鎧を纏った一人の男の姿と地には胴体を真っ二つにされた魔獣の姿があった。

「グレン!生きていたのか!」

驚きにクラフト王子は大声を張り上げた。

「はい、クラフト王子。魔王も倒し魔石も全て回収してまいりました。王国軍も諸将は皆討死になさいましたが生き残り五千の兵が後方からこちらを追いかけております。私は一刻も早く王子と合流するため先行してきました。先程全滅した護衛の近衛兵達を見つけそれを目印にやっと追いつきました」

「な、なんだと!それは真か!」

クラフト王子には自らを守って全滅した近衛兵達の話しは耳に入らず失意のどん底にあった心に光明が差し込んできた。

王国軍の損害は大きく責任の追及は免れぬが魔王討伐の功績を喧伝し王に魔石を全て献上すれば数年の蟄居ぐらいで巻き返しを図れる。

クラフト王子は気を取り直しグレンに促されるままに歩き始めた。

ちなみに魔将が使っている魔法剣と魔法鎧は過去の人族の遠征で鹵獲されたもので魔法剣については相手を斬ったり叩きつけたりするため損耗が激しく魔法鎧については元々人族の軍の中でも数が少ないため魔将のみ配備されています。

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