第10話 奪われたリモコン Aパート
アバンタイトル
ナレーション「捕虜交換の提案への対応のため統合参謀本部に飛んだ父に代わって新人パイロットの研修を担当することになったノゾミ。そこに現れた美少女はヤマト皇国の第一皇女ホムラ姫だった。強引にパイロット研修に参加する姫。さらに偽名で皇太子タケル殿下も参加しているほか、個性の強い研修参加者の扱いに頭を痛めるノゾミ。おまけに演習場での慣らし訓練中に突然リヒトたちが奇襲してくる。訓練指導用に乗っていた鹵獲一眼巨兵で迎撃し、何とか撃退したノゾミだったが、訓練期間は短縮されることになる。何とか訓練を終えてホッとするノゾミのまえに、ヘルム私領軍に新規配属になったと言って殿下と姫様たちが現れるのだった」
オープニングテーマソング「戦え、ボクらのブレバティ」
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「あった」
と、伸ばした手が他の人の手と触れる。同じ本を取ろうとしてしまったようだ。迂闊っ! いくら休暇中とはいえ、戦士が他人の気配を気づけないってのは気を抜きすぎだ。特に僕は一応連邦のエースって立場なんだから、休みの時だって無様な姿を人に見せるわけにはいかない。たとえ変装しているとしても。もっとも、髪の色を変えてサングラスをかけただけなんだけどね。この前から続けられている殿下の変装を真似てみました。
そうそう、姫様も同じように偽名を使って変装することを始めようとしたんだけど、それはさすがに止めました。もうウチの職員は全員がホムラ姫を知っているんだから、突然その人が髪を染めたあげくに「タケシ・ヤマダの妹のホノカ・ヤマダ」とか名乗ったりしたら、逆に「タケシ・ヤマダ」の正体の方がバレちゃうでしょ。…既にバレバレとか言わないように。
で、髪の色は緑色にしてみました。エルフの血が混じってると緑髪になるんで、イモータルでも黒と並んで多い色だから違和感が無いからね。実は、最初は金髪にしてみたんだよ。ところが、サングラスかけて変装の具合を確かめてる所にリーベが来て、僕を見たとたん「リヒト兄様!?」とか叫んだんで、金髪はやめることにしたんだ。リヒトの顔を知ってる人なんかいないとは思うけど、もし万が一いたりしたら、リヒトが潜入して破壊工作か諜報活動でもしてるのかと疑われかねないからね。…素顔で潜入なんかするはずないから、緑髪でも疑われるんじゃないかとか言わないように!
「あら、ノゾミ君?」
そして、変装の甲斐も無くあっさりバレました…って、知り合いだよ。
「マーサさんじゃないですか。買い物ですか?」
戦艦オグナ主任オペレーターにしてヘルム私領軍指揮権第4位、ヤマト皇国正騎士マーサ・ストリーム。騎士としても彼女の方が先輩だが、指揮権としては僕の方が上になってしまった。私服だから、彼女も休暇中なのだろう。最近暑くなってきたからか、ノースリーブの白いワンピースにつばの広い白色の帽子というスタイルだ。清楚な感じで、よく似合っている。
しかし、この気配の消し方の上手さは何だろう? この人は戦闘訓練も受けているから、そのくらいはできても不思議はないが、僕の油断もあったにせよ、ちょっと上手すぎる。魔力なんか、魔力隠蔽を使ってないのに相当低レベルに押さえ込んでて、かえって気づきにくい。もしかして、本職は諜報関係だったりするんだろうか。敵とは思えないけど、味方の潜入諜報員である可能性は否定できない。何しろ「ストリーム一族」だし。休暇が重なった上に同じ本を探して巡り会うとは、偶然とも思えない。もしかして情報収集の一環として僕をマークしてたんだろうか? こんな本を読むタイプとは思えないし。
「ええ。ノゾミ君もこの本を?」
うう、肯定したくないけど、今更誤魔化すのも難しい。ヒカリが居る頃だったら、あいつに頼まれたとかダシに使って誤魔化すこともできたかもしれないけどね。ええい、男は度胸。気にせず堂々と言ってしまえ!
「前から探してたんですけど、なぜか置いてなくて」
せっかくの休日なのだから、好きな本でも探そうと書店めぐりをしていたのだ。他の本は見つかったのに、これだけは置いてなくて、何軒かハシゴして探して、ようやく見つけたのに、そこでマーサさんと被るとは…やっぱり、僕を探ってた可能性の方が高いか?
「意外な趣味ね?」
やっぱり言われるか。でも、それなら、こう言って探りを入れてみるか。
「それは、僕も思いましたよ?」
「あら? 似合わないかしら」
「あまり、ベタ甘の恋愛系少女小説を読むタイプには見えませんから」
そうなのだ、シリーズ物の恋愛小説、それも少女向けのヤツの最新刊だったのである。ヒカリがこういうのが好きで集めてたのを暇にあかして読み出したら、面白くてハマってしまったのだ。…まあ、前世から少女漫画とかも好きだったし、少女向けレーベルのラノベとかも読んでたんだけどね。
ちなみに、この世界印刷や製本なんて魔法があるせいで、出版業は盛んだ。もちろん、魔道具化した印刷機や製本機もあるが、個人レベルで結構本格的な本を作れてしまうので、同人活動も盛んだったりする。漫画はかなり昔からあるし、同人誌即売会だってあるのだ…絶対に昔の転生者が持ち込んだモンだろうな。
「あら、むしろ腐女子っぽく見えたりするのかしら?」
意外な切り返しが来たよ。実はこの世界、BLも存在するのだ。そんなモン持ち込むなよ、と思わなくもないが、そういうのを生きがいにしていた腐女子がこっちに転生してきたんなら、当然作るよなあ。でも、マーサさんが腐女子系とは思えない…というか、そんな言葉を知ってること自体が意外だ。
「いえ、まさか! むしろ、あまり恋愛には興味が無さそうなキャリア系だと思ってたんで」
「それはそれで残念ね。これでも年頃なのよ」
そう言いながらウインクするマーサさん。うおぉ、美人のイタズラっぽいウインクは破壊力でかいぞ! 以前に命令違反を叱られた時以上に赤面しちゃいそうだ。だが、せっかくだから、ここでマーサさんの事情を探ってみてもいいだろう。この流れなら口説いてみてもおかしくはないはずだ。
「それなら、これからお昼でも一緒にどうです? その本は譲りますから」
「あら、デートのお誘い? わたしは別にいいけど、後でクーさんやリンさんに怒られない?」
…気付いてるよね。まあ、普通の人なら気付くと思うけど。気付かないのはリアル鈍感系ヒロインくらいなものだろう。
「僕はフリーですよ。あいつらの気持ちには気付いてますけど、僕にとっては2人とも大事な『親友』ですから」
そう言うと、軽く眼を見張ってからイタズラっぽく笑うマーサさん。う、やっぱり魅力的だ。前世の記憶があるとは言っても、僕はまだ14歳。4歳年上のマーサさんは大人っぽい魅力があるのだ。前に父さんと話したように、前世の記憶はあっても人格はリセットされてるから、感性は少年なんだよ。それに、前世じゃ大人の女性どころか同級生とすら付き合えなかったんだから、女性に免疫つくような記憶も持ってないし。こと恋愛に関しては、前世の記憶が全然役に立たないんだ…ってか、幼少時に魔法の訓練するの以外に前世の記憶が役に立った覚えが無いぞ。ヲタク知識しか持ってないんだから当然かもしれないけど。あ、必殺技考えるのには少し役立ったか。
「なら、わたしにもチャンスがあるのかしら?」
「もちろん」
さて、これは社交辞令か、それとも少しは本音が混じっているのか? 前世なら100%社交辞令と判断するところだが、今の僕はそれなりに優良物件なのだ。あるいは味方の潜入諜報員としてのハニートラップかもしれないけど、僕の方には味方に隠すこともないし、握られて困るような弱みもない。ハチミツを味わえるなら、それで終わってもかまわないだろう…ちょっと残念だけど。
「あら嬉しい。それじゃあ行きましょうか。これ会計してくるわね。読み終わったら貸してあげるわ」
「それはありがたいですね。お願いします。あ、パスタは食べられます? おすすめの店があるんですけど」
本代を出そうかと思ったけど、この場合にそれをやると「先に読んで」と渡されそうなのでやめておこう。まずは昼食をおごる所から始めるかな。
「ええ、大好きよ」
「それじゃあ、会計の間に席を取っておきますね」
マーサさんがレジ~POSシステムこそ無いけど魔道具のキャッシュレジスターはあるのだ~に向かったので、書店を出た所で待ちながら遠話をかけて店に予約を入れる。さあ、休日デートの始まりだ。
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そのパスタ店は観光系の繁華街の外れにあった。イモータル市には主に3種類の繁華街がある。一つは鉱山労働者がたむろする酒場やムフフなお店、カジノと呼ぶには小規模な博打の店~パチンコもこの世界には存在する~などの多い猥雑な繁華街。もう一つは魔像研究所の職員が利用する書店と魔道具中心の繁華街で、さっき居た書店もここにある。最後が、イモータル山の観光と湯治に来る客のための温泉宿や瀟洒な飲食店、土産物店が多い観光系の繁華街だ。
テラス席のある観光客向けの小洒落たお店だが、あいにく遠話した時点で既に店内の席は満席だった。少し暑いが通りに面したテラス席に座る。テーブルには大きなパラソルがかかっているので日陰にはなっている。ここで軽く椅子を引いたりしてマーサさんをエスコートする。レディ・ファーストは貴族のマナーとして母さんに叩き込まれてるんで自然に出せる。前世のルックスだと同じことをしても痛いだけで無駄なあがきにしかならなかっただろうけど、今の僕なら気配りはポイントになるはず。いや、マーサさんも貴族だろうから、当然と思われるだけかな。
「ありがとう。あら、いい風ね」
そよ風が頬を撫でていって気持ちいい。よかった、あまり暑くなさそうだ。
「うん、気持ちいい風ですね。暑くなくてよかったですよ」
「観光街はあまり来ないんだけど、綺麗なお店ね。何かおすすめはある?」
「この店は父さんのなじみで、小さい頃からよく使っているんです。カルボナーラがおすすめですよ」
「へえ。なら、それにしましょう」
「僕は、トマトボンゴレにしようかな。あ、飲み物はどうします?」
「レモンティー…あら、ハーブティーがあるのね。カモミールもらおうかしら」
メニューを見ていたマーサさんがハーブティーがあるのに気付いた。コーヒーにしようかと思ってたけど、僕もハーブティーにしよう。
「じゃあ、僕はミントティーにするかな。注文お願いしまーす」
顔なじみのウェイターを呼んで注文する。なお、成年年齢に達していてもお酒は飲めない。飲酒の解禁は身体の成長への影響を考えて20歳になってからなのだ。ちなみに、前世の嗜好品は大抵の物が存在するのだが、煙草だけはない。というか、あるにはあるけど麻薬扱いなんだな。昔は一部の国では合法って前世の大麻みたいな扱いだったのが、ここ50年で完全に禁制麻薬になったんだ。
「私服のマーサさんって、何か新鮮だな。よくお似合いですよ。白の清潔感がイメージにぴったりだ」
「あら、お世辞でも嬉しいわね。ノゾ…ごめんなさい、あなたも涼しげな色合いが、よくお似合いよ」
一瞬僕の名前を呼びそうになったマーサさんが慌てて言い直す。一応変装しているのに配慮してくれたんだろうけど、マーサさんに「あなた」とか呼ばれると破壊力でかいぞ。ちなみに僕の服はライトブルーの上着に白いスラックス。スラックスは所々にブルーのアクセントが入っている。…赤を入れたら初号機と同じトリコロールとか言わないように。さて、少しずつ探りを入れてみるとするかな。
「マーサさんって、いつ騎士叙勲を受けたんですか?」
「ん? 3年前ね。成年の儀式と一緒のときよ」
「じゃあ、やっぱり貴族令嬢なんですね」
成年の儀式と一緒に騎士叙勲されるのは貴族の子弟が大半だ。騎士家の子弟や平民の場合は、よほどの実力者でない限りは20過ぎての騎士叙勲が普通なのだから。…そう考えると不思議なのはリュー君だ。確かに素質は高いけど「よほどの実力者」というほどじゃない。平民という事だが、何か裏があるのかもしれない。
マーサさんの実力を見たことはないが、3年前の武闘大会には出場していなかった。マーサさんの場合は当時15歳なので青年の部参加になる。青年の部で決勝トーナメントに残れば自動的に騎士叙勲の対象になるが、青年女子のトーナメントで見かけなかったのだから、隠れ実力者でもない限りは貴族子女なんだろうと推測したわけだ。
貴族年鑑あたりを調べれば分かるのかもしれないが、あいにくウチにあるのは7年前の版だ。当主と妻、それに成年に達している子弟は必ず掲載されるが、未成年の場合は「子供2」としか掲載されない。7年前の版だとウチの家族構成すら「子供2」と、その年生まれのツバサやツバメがカウントされていないのだ。あんまり貴族らしい社交をしない家だから、貴族年鑑なんてたまにしか買わなかったんだけど、僕も成年に達したことだし社交とか始めなくちゃいけないかな。
「ええ、そうだけど…司令から聞いてないのかしら?」
マーサさんは普段は父さんのことを「司令」と呼ぶ。オグナ乗艦中のみ「艦長」と呼んでいる。
「父さんは人のプライバシーに関する事は言わないですよ。聞いたとしても『興味があったら自分で聞いてみろ』って言うでしょうね。まず、自分から接触するのがスタートだ、ってね」
前にしたり顔で「レッスン1、まず相手を知ること」とか言って女の口説き方をレクチャーしてきたことがある。前世じゃ非モテ系ヲタだったくせに、転生したらモテモテとかテンプレにも程がある…と人のことを言えた立場じゃないな。そんな父さんも今じゃあ身なりに気を配らないようになってしまって素材を無駄にしてるんだけど、「俺は母さん一筋だから問題ない」と胸を張って言われたら実の子としては返す言葉もない。
「なるほどね。じゃあ教えてあげるけど、これでも一応女爵だったりするのよ」
「え!? っと失礼しました」
驚いて思わず声を上げてしまい、非礼を詫びる。女爵ってのは、女性向けの男爵号だ。前世だと男爵夫人とか女男爵という表現もあったが、この世界じゃ女爵と呼ばれている。男爵に対する女爵と古キングランド語~なんちゃって英語~で呼ばれることも多いが、標準語の読みは「じょしゃく」だ。爵位上は父さんと同格じゃないか。
そして、下級爵位である子爵と男爵(女爵)は、高位貴族の嫡子には自動的に下賜される。公爵や侯爵の嫡子なら子爵号が貰える(から子爵なのだ)し、伯爵家の嫡子は男爵(女爵)号が貰える(これも男子、女子だから)。もっとも、これはいずれ親の爵位を引き継ぐまでの暫定爵位なので、領地などは貰えない。領地がつく場合でも、親の領地の一部を借りることになる。また、第2子以降については公爵家なら男爵(女爵)が、侯爵家なら準男爵(準女爵)が貰えるが、これは一代限りの限定爵位になり、本人が何か叙爵に値する功績を上げない限りは、次の代では騎士階級になり、その次の代では平民になる。伯爵家以下の貴族の第2子以降は騎士には叙勲されるが、これも一代限りで、次の代には平民になる。
この事から考えると、マーサさんは最低でも伯爵家の嫡子か公爵家の第2子以降の子ということになる。この世界は文明が進んでいるし、魔法文明なので体力面より魔力面が優先されるから男女同権の考え方は前世より進んでいる部分もあるのだが、やはり貴族社会となると保守性が強いので、女性が嫡子というのは珍しい。だから、ほぼ公爵家の第2子以降で間違いないと思うのだが…
「驚かせちゃったかしら?」
「『ストリーム一族』なので高位貴族の可能性があるかも、と少しは考えていましたけど、まさか本家だったとは」
「我が家は親族が多いですからね」
マーサさんが言うように、ストリーム家には親族が多い。ヤマト皇国には俗に8大公爵家と呼ばれる名家があるが、その1家がストリーム公爵家である。残り7家が初代皇王タケル一世陛下の側室が産んだ子を祖とするのに対して、ストリーム家のみ建国の功臣の家系である。ただし、2代目の時にタケル一世陛下の正室腹の長女が降嫁しているので皇室の血も混じっている。その公爵家を本家として、侯爵1家、伯爵3家、子爵7家、男爵6家と、何と合計18家も世襲できる爵位を持った家があるのだ。「18ストリーム」などと俗称される、最大の名門一族なのである。これは、初代以降代々武門の家柄で、第2子以降の子供にも武才に恵まれた子が多く、戦功によって世襲爵位を得ることが多かったからである。ここ100年ほどは大きな戦争が無いのだが、文官としても有能な子弟も出ており、20年前にも外交官として十カ国連邦設立に貢献したという功績によって1家が世襲男爵号を叙爵されている。
これだけ分家が多いと、その子弟から騎士階級に下った者も多く、そこで爵位を得るほどではない程度の功績を残して世襲騎士家として家名を認められている家も多い。通常は騎士に叙勲されても一代限りなのだが、そこで功績を上げると世襲を認められ、家名を名乗れるようになる。領地はないし、貴族特権の少ないヤマト皇国では名誉称号でしかないが、それでも前世江戸時代の名字帯刀みたいなもので平民よりは格上になる。
「そうと知ってたら、もうちょっと高いお店にするんでしたね」
「服装規定があるでしょ。今はここでいいわよ」
公爵令嬢をお誘いするには少しカジュアルすぎる店だったかと思ったんだけど、服装からすると適当か…「今は」ね。もっとも、ここは観光地の歓楽街なんで服装規定がゆるい高級店もあるんだけどね。
「それにしても、公爵家のお姫様が、どうしてウチみたいな田舎貴族の私領軍に来たんですか?」
所領持ちの世襲貴族の子女なら、領地では「お姫様」である。ヒカリのように全然その呼び方が似合わないヤツでも、それは変わらない。ましてや筆頭公爵家と呼ばれるストリーム公爵のお姫様なら、深窓の令嬢をやっていてもおかしくないはずだ。
「功績を上げられると思ったから、と言ったら意外に思うかしら?」
「慧眼ですね、と言っておきましょう」
言われてみれば、もともとストリーム家の次男以降は功績を上げて世襲貴族になった人が多いのだから、次男以降は自力で世襲貴族を目指すという家風なのだろう。女子だと政略結婚を求められる場合もあるだろうが、ヤマト皇国は貴族の権力がそんなに強くないから、政略結婚の例はあまり多くない。貴族院での派閥強化だとか、有力な平民商人とのつながりを持つためにする例もあるけどね。
なお、貴族と平民の通婚については十カ国連邦内でも認める国と認めない国に別れており、ヤマト皇国はOKだ。認めていない国としてはエルフィー王国や神聖ドラガオン帝国、貴族寡頭制のコンメルシオ共和国などがある。逆にプランタン共和国や央華民主主義人民共和国にはそもそも貴族制度がない。内政問題なので各国の自主性に任されているが、十カ国連邦内の移民制限は原則として認められていないので、認められない国の人間でも認められている国に移れば結婚できるし、結婚後に元の国に戻っても離婚を強制されることはないという抜け道がある。このため、最近は貴族と平民の通婚は認めるようになる傾向があり、ドワーフィン王国とアリアンサ連合王国はここ10年の間に容認に転じている。
だから、マーサさんの言葉は本音ではあるだろう。しかし、それが全てだと思うほど僕も甘くはない。だから、あえて「言っておきましょう」などとつけたワケだが…
「あなたには隠せないようね。父の指示でもあるわ」
あれ、意外に素直に認めたな。まあバレバレではあるので、手札を開いておいて信頼を得る作戦なのかな。
「公爵閣下も父を高く買っておられるようですね」
「軍の最高責任者としては、AGや魔道戦艦という新兵器の専門家の動向は見逃せないのよ」
そう、マーサさんの父親…と今知ったばかりのセオドア・ストリーム公爵はヤマト皇国軍参謀総長にして、十カ国連邦軍の統合参謀本部長なのである。この戦争の戦略面での最高指導者だ。
「そこで、それらを内側から見られる位置に来た、と」
「身内側、になりたいと思っているんだけど、ね」
口の端に笑みを浮かべて答えるマーサさん。うわ、直球ど真ん中だな。ハニートラップどころか、それこそ政略結婚のお誘いだよ。潜入諜報員どころか堂々と情報収集と親善のために来た「外交官」だったわ…国内貴族の付き合いで「外交」って表現は変だけど、役割としては外交官だろう。
うーむ、確かにマーサさんは魅力的だけど、僕にも男としての意地がある。いや、前世みたいに完全非モテ系だったらそんな余裕ないだろうけど、ここは焦って食いつく所じゃない。
「父は信頼していると思いますよ。個人的に、というなら今度ウチに遊びに来てくださいよ。ツバサやツバメもヒカリがいなくなって寂しがっていますから、お姉さん的な人が来てくれたら喜ぶと思いますし、僕も嬉しいですから」
含みを持たせて、にこやかにお返事しましょう。まずは健全なおつきあいから始めないとね。
「あら、それじゃあぜひお邪魔させてもらおうかしら。何かお土産でも持って行かないといけないかしらね」
僕の意図を理解したマーサさんも笑顔で合わせてくる。
「あまりお気遣いなく。ツバサもツバメも騎士物語が好きですから、ストリーム家歴代の武勲話とかを聞いたら喜ぶと思いますよ」
「初代アルバート様の話でいいなら、山ほどあるわよ」
「それは僕も聞きたいですね」
タケル一世陛下の第一の臣、と歴史書には書いてあるが、実の所はキングランド王国の世襲騎士の次男坊同士で組んで冒険者をやっていた仲だったという。たぶん反則転生者だったであろうタケル一世陛下がとんとん拍子で出世してこの国を建てちゃったんで、大貴族になっちゃったんだろうなあ。公式の歴史書でも結構面白いエピソードが書かれているんだから、身内にしか伝わっていない話なんて相当愉快なネタがあるんじゃなかろうか。
「そうね、これはアルバート様がタケル一世陛下と初めて冒険に出た時の話と伝わっているんだけど…」
「お待たせいたしました。カルボナーラとトマトボンゴレでございます」
「あ、カルボナーラはそちらです。面白そうな話ですけど、パスタなんで伸びる前に食べてしまいましょう」
「そうね、どうせ時間はあるんですし」
マーサさんの話にも興味はあるのだが、ちょうど注文したパスタが出てきたので、先に食べることにした。
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「なかなか美味しかったわ。今度クラリッサたちを連れて来てもいいわね」
食べ終わったマーサさんが上品に口の端を拭きながら感想を述べる。クラリッサさんは、オグナの探査オペレーターだ。出身はピュアウォーター村で、僕も昔から知ってる近所のお姉さんなんだけど、艦橋乗組員同士で既に仲良くなったらしい。
「気に入っていただけて何よりですよ。今度はもっと違うお店も紹介しますね」
「ふふふ、それは楽しみね」
さりげなく次回のデートもお誘いしつつ、今日これからはどこへ行くか、食事しながら即席で立案したいくつかのデートプランのうち、一番マーサさんに合いそうな案を脳内でチョイスする。
「このあと、ご予定はありますか? 無いようなら…」
言いかけた時に、背後から近づく妙な気配と魔力に気付いて咄嗟に席を立って振り返る。さりげなく左腕は心臓と首筋をガードする位置に持ってきている。殺気、ではないのだが、妙な闘気を感じたのだ。用心に越したことはない。
「誰だっ!?」
「あのっ!!」
僕の誰何と同時に相手も声をかけてきた。僕と同じくらいの年齢の少女。身長はマーサさんと同じか、ちょっと高いくらいか。緑の髪をツインテールにしていて、白いノースリーブシャツに緑のネクタイ、緑のラインがアクセントに入った黒いミニスカートと黒のニーソックス。暑いからかアームカバーこそしていないが、誰がどう見ても…いや、この世界では一部の例外を除いて誰も知らないだろうが、それでも思わず聞いてしまった。
「ボーカロイドのコスプレ?」
そう、あの人気キャラのコスプレにしか見えない髪型と服装なのだ。ネギ持てネギ。
「な、何のことでしょうか? ノ、ゾミ、さん、ですよね? 自分、じゃなくて私はあなたの事がだ、だいす、き、な、ファ、ファン、ですよ」
百歩譲って、挙動不審なのはファンとして応援対象である当人の前に立っているからだとしてもいい。だが、それを割り引いても、なお大根すぎる棒読みはいかがなものか。
いや、それ以上の大問題がある。僕自身の変装も手抜きの極みではあるが、これは一般人の目をちょっとごまかせればそれでいいのだ。それこそマーサさんみたいな知り合いに会ったら一発でバレても問題は無い。また、一般人にバレたところで、ちょうど今みたいなシチュエーションでサインでもねだられる程度だろう…ベタ甘恋愛小説買ってるところはさすがに見られたくないけど。
しかし、しかしだ。敵地に「潜入工作」をする際に、しかも面識がある相手に接触するのに、髪型と服装しか変えてないってのは絶対に変装にならんぞ。それともアレか、君は髪型と服装変えただけで素面で戦っても正体がバレない美少女戦士とか、伝説の戦士ご一行様の仲間か何かなのか? なあ、フィーア・ガーランド少尉殿!?
アイキャッチ
「神鋼魔像、ブレバティ!」




