第36話 あるべき場所に
金属に意思が宿り、それが主と言い放った。
つまり、この世界には誰かが住んでいたということになる。金属を加工するだけの技術を持つだけの人物がだ。
「つまり、かつては誰かが住んでいて、この世界を作り上げたってことなのか?」
「どうなのでしょうかね。見つかった金属片の状態からすると、僕たち程とはいきませんが、加工技術はそれなりに持っていたようです」
「でも、魔素というよく分からないものがあるわ。その主って、私たちと同じようにどこからかここに迷い込んだってことなのかしらね」
「分かりません。ですが、ノワールたちと金属片を探し出していけば、いずれはたどり着けるかもしれませんね」
最大の謎が生まれたことで、アーツたちは黙り込んでしまう。
「そういえば、あの地面にあった金属はどうなのかしら」
「ああ、ノワールが最初に金属片を見つけた場所にあったあれか?」
ブランの言葉に、アーツが反応する。
「僕に夢を見せてくれた金属の落ちていた場所にあったものですか。非常に興味がありますね」
ニックは眼鏡を触りながら目を光らせている。
「せっかくです。僕の能力を成長させるためにも外に出なければなりませんから、そこに連れて行ってもらえますかね」
ニックが強くアーツたちに迫るが、肝心のアーツたちが及び腰だ。
それというのも、火を噴く恐竜たちが大量に集まっていたからだ。
今もいるとは限らないが、最後に見た時に大量に群れていたので、行くのは危険としか言いようがないのである。
「さすがにあそこは諦めてくれ。恐竜が一体くらいならなんとかなるだろうか、最後に見た時は十体以上いたんだ。俺たちじゃいくら命があっても足りないぜ」
「ああ、俺の怪力でもあいつらを止められるとは限らねえ」
「ふむ……。となると、対抗できるだけの装備が必要ということですね」
アーツとレンクスの話から、ニックはそのように考えた。
「分かりました。僕がせっかく金属を加工する能力を身に付けたのですから、何か作れないかやってみましょう」
「そうか。それは助かる……が」
「だなぁ……」
ニックはやる気十分ではあるが、現状ニックが作ったのは盾が一個だけだ。
数十メートルはあるという恐竜と、その口から吐き出される強力な炎には、とても太刀打ちできそうにないのである。
ノワールたち虫たちの能力もまだまだ未知数だ。現状では、一体か二体くらいしか同時に相手にできないだろう。
「ふむ……。元の場所に帰りたいけれど、状況も情報も絶望的ですか。まったく、どうしたものでしょうかね」
「だけど、このまま手をこまねいているわけにもいかないわ。すでにひと月以上が経過しているのよ? 絶対パパやママたちは心配しているわ」
「そうだな。捜索隊も出ているだろうし、ずっとここにいるわけにもいかない。食料も航宙船の中に蓄えられていた分は尽きそうだし、現地調達も現在は厳しいからな」
完全に行き詰ってしまっている。
このままでは、全員がいずれは餓死の危険性がある。
もはや四の五の言っていられる場合ではなかった。
「よし、イチかバチか、例の金属のところまで行ってみるか」
「そうね。このまま手をこまねいていても仕方ないわ」
どのみち死が待ち受けているのなら、前に進む決断を下す。
決行は翌日。
ひとまず、集まった金属を適当な装備品に変えて、遠出のための準備を済ませたのだった。
翌朝となり、朝食を終えたアーツたちは、いよいよ五人揃って航宙船から出て行く。
ブランは空を飛べるオランジュにつかまり、アーツとレンクスはヴェール、クロノとニックがノワールに乗って出発する。
ちなみに、これまで集めた金属片も一応全部持ってきている。何かに使えるかもということからだった。
この世界に来てから初めて、五人が揃って航宙船を留守にした。いよいよ旅立ちという感じである。
「おーい、ブラン。何か見えるか?」
「今のところは大丈夫よ」
空飛ぶオランジュから偵察を行うブランだが、特に異常は見つかっていない。
周りが木々に囲まれていようとも、それより高く飛んで周辺が見回せるというのは実に心強いものだ。
「そろそろ目的地に着くわよ。恐竜は見当たらないわ」
「そっか、それはよかった」
ブランから報告が入る。
どうやら、先日取り囲んでいた恐竜たちは一体もいなくなっていたようだ。
おそらく、穴を掘って脱出した上に、一体が返り討ちにあったので去っていったのだろう。アーツたちはそう考えた。
「例の金属はどこですか?」
現場に到着したニックが早速場所を聞いてくる。
「ちょっと待て、確かこの辺だ」
アーツがきょろきょろと見回しているが、まったくもって見つからない。
「おっかしいなぁ……。ここら辺のはずなんだが」
「ノワール、教えてあげて」
『御意』
ブランに言われて、ノワールがゆっくりと歩いていく。
しばらく歩いていったかと思うと、ぴたりととある地点で歩みを止めていた。
「そこですね。分かりました」
すぐさまニックが走っていく。
ノワールが立っているその場所には、確かにこの場所には似つかわしくない、金属の板のようなものが見えている。
その時だった。ニックの懐が突然光り出す。
「これは、先日ノワールが見つけてきた金属ですね」
光っている金属は、ノワールが見つけて拾ってきた金属である。
『やっと、戻ることができる』
ニックの耳に、そんな声が聞こえた気がした。
「まさか、この金属は!」
ニックは金属を持って、その場にしゃがみ込む。
一体何を始めるつもりなのだろうか。




