1 対策をしておくことも必要だからね
「――お姉ちゃん、ここはどうするの?」
「ん? 見せて……あぁ、ここはこうして……」
「なるほど……ありがとう!」
優太が元気にお礼を言ってきた。
自分達の家の居間。ちゃぶ台の周りに座りながら、優太がいそいそと手を動かす。
優太が今触ってるのはプリペイド式のスマホだ。
少し前、大善寺さんの付き添いでマジックショーに出るために訪れた温泉街で、僕達は統制局の人に狙われた。
子供の見た目をしたロボットに迷子のフリをさせて、僕達に接触。まんまと引っかかった僕達は迷子と思ったそのロボットを連れて、その子のお家――実際には統制局の人のアジトだったのだけど――まで連れていくことになった。
その過程で色々あって、優太と離れたタイミングがあったんだけど、優太がスマホを持ってなかったので、お互いに連絡が取り合うことができなかったんだ。
その反省のため、今回優太もスマホを持つことにしたという訳だ。
買った型式は、優太の希望もあって僕が持ってるのと同じやつだ。
今は初期設定を頑張っている。
「……これでいけたっぽい」
「お、じゃあちょっと試してみようか」
初期設定が終わったみたいなので、幾つかアプリをインストールしてみた。
無料でメッセージや通話ができるアプリで僕とチャットや通話を試す。
「おぉ、凄い……っ!」
優太が感動してる。
うん、初めてスマホを持つ時って、その凄さに驚くよね。
「そのアプリを使ってたら通話もチャットも無料だけど、通信料自体は使うから気をつけてね」
「うん、分かった!」
注意事項を伝えながら、他のインストールしたアプリも確認していく。
そのうちの一つに、優太の目が止まった。
「これって――」
「位置共有アプリだよ」
優太が見つけたのは、登録しておくことでお互いの位置が分かるようになるアプリだった。
家族とかが子供の居場所を特定したりするのに使うやつだ。
例え連絡を取りあえる状況になくても、これなら居場所が分かる。これで前回みたいなことには、もうならないはずだ。
プライバシーの問題については、優太と僕の関係でそこまで気にすることではないからね。
「てことは、お姉ちゃんの位置が分かるの!」
内容を説明すると、優太がキラキラした目で叫んだ。
何かめちゃくちゃ喜んでるね。
おかしいな。前回の事件を通して、優太も成長したはずだったよね?
何か、やたらと僕の位置を見てるけど……いや、僕目の前にいるよ?
◇
『へぇ、うさぎさんもスマホ手に入れたんだ』
「そうだよ」
スピーカーから流れる電子音に、優太が答える。
今、僕らは廃病院の地下施設に来ている。
優太が話しかけてるのは机上に置かれたマイクだ。
その先に置かれた筐体には、とある記憶素子が取り付けられている。
彼女の名前はさきちゃん――先の事件で、迷子を装って僕達を騙して統制局のアジトまで連れてった人型ロボット、その人格部分だ。
さきちゃんは元々、統制局の人間――浦辺さんの指示に従ってたけど、優太が訴えかけたことで自分の意思を持って僕達との戦いを拒むようになった。
戦いを止めることはできそうだったけど、浦辺さんの攻撃から優太を庇って被弾したことで、最終的にさきちゃんは壊れてしまった。
でも、その記憶素子をヴィクターさんが抜き取ってくれて、こうして会話ができるようにしてくれたんだ。
優太はさきちゃんとの交流を通じて、間違いなく成長した。
だから、今もさきちゃんと会話できるようにしてくれたヴィクターさんには感謝だよ。
『それで葉月お姉ちゃんがどこに居るかわかるの?』
「そうなんだ」
優太が位置共有アプリについて説明してるみたいだ。
うん、それは喜んで説明する必要は無いんじゃないかな?
『へぇ……うさぎさん、ストーカーみたいだね』
「……え?」
さきちゃん、歯に衣着せぬ発言をするね。
優太が固まっちゃったよ。
優太がゆっくりこっちへと顔を向ける。
表情は動かないけど、なんとなく泣きそうな雰囲気をしてる。
その様子が少し面白かったけど、優太が可哀想なので僕はフォローに動いた。
「僕達は家族だからね。お互いに居なくなったら心配だから、位置が分かるようにしたんだよ。それに前、僕達が二手に別れた時も、お互いがどこに居るか分からなくて大変だったからね」
「そ、そうだよ! 別にストーカーなんかじゃないから!」
優太も凄い勢いで首を縦に振っている。
まぁ、その様子はさきちゃんからは見えないんだけどね。
『ふーん、そうなんだ』
さきちゃんは一応、納得してくれたみたいだ。
優太もほっとした様子だね。
『……でもそれなら、さきのことは安心だね。さきの位置はここから変わらないから』
続けてさきちゃんから紡がれた言葉に、ちょっと複雑な気持ちになった。
元はロボットで身体を持っていたけど、壊されてしまったことで、さきちゃんは今狭い筐体に押し込まれてしまっている。
僕らと話せるようになったってだけでも喜ばしいことなんだけど……。
やっぱり身体が無いってのは可哀想だなって思う。
一応、ヴィクターさんは応急処置だって言ってくれてて、さきちゃんの新しい身体を準備してくれようとはしてるみたいだ。
でも、人型のロボットを持ち出すなんて、なかなか難しいんじゃないかと思う。
無理をして目をつけられて、ヴィクターさんの立場が組織内で悪くなってしまったら僕らも困る。
何せヴィクターさんは組織の様子をリークしてくれる重要な情報源だから。
無理はしないで欲しい。けど、できるならさきちゃんの身体は準備して欲しい。
我儘なもんだね。
「……お姉ちゃん」
優太が声をかけてきた。
たぶん、僕と同じ気持ちなんだろうね。
困った問いかけではあるけど、優太がそういう気持ちになってくれてるのは嬉しい。
間違いなく、優太の世界が拡がってる証拠だから。
……とはいえ、ヴィクターさんに無理は言えない。
僕は優太に向かって頷いた。
「ヴィクターさんに聞いてはみるけど、期待はしちゃ駄目だよ。あの人も忙しいし、人型のロボットなんて持ち出すのは難しいだろうし」
「……うん」
言い聞かせるように言うと、優太も理解してくれたのか頷いた。
良い子なのは間違いないね。
『さき、身体をもらえるなら人型じゃなくてもいいよ』
そこへ、さきちゃんが声をあげる。
「……動物とかでも良いってこと?」
『うん』
本当に?
人型じゃないと、人前に出たときに言葉を話せないし、やれることも減るし、不便だと思うんだけど……。
そんな簡単に言っちゃって良いのかな?
「……ちなみに何が良いの?」
『うさぎさん!』
間髪入れずにさきちゃんが答える。
優太、好かれてるね
優太は少し照れてるようだった。
まぁ優太と一緒にいれば、認識阻害の魔法で誤魔化すことはできるし、本人がそれで良いなら良いのかな?
『――えぇなぁ、うちにも身体ちょうだいよ』
まぁヴィクターさんに聞いてみる時に、一応伝えとこうかな。
『新入りにだけ優遇してズルいで』
『大先輩もお身体欲しいの?』
途中で混じってきた声にさきちゃんが言葉を返した。
あぁ、反応しちゃったかぁ。
『せやな。ナイスバディな身体が欲しいわ』
「却下。さっき人型ロボットは難しいって言ったでしょ」
仕方ないので僕も言葉を返す。
今話しかけてきたのは、この施設のナビゲーションAIだ。
会話すると面倒なので基本無視するんだけど、さきちゃんは……まぁ同じ施設で過ごしてるし、仕方ないか。
AIは未だにぶつくさ文句言ってるけど、無視した。
ていうか君、自認は女なんだね。
初めて知る事実に……まぁ、興味も無いので正直どうでもよかった。




