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死ねない少女は生き直したい~二百年生きた手品師、魔法少女に巻き込まれて平和を守る~  作者: 柚月由貴
二章

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10 もう一方の方針

 葉月達が今後の方針について話し合っていた日の昼間。

 組織の二人組は、葉月達と邂逅した工場の構内へと戻ってきていた。


 構内の様子をくまなく観察しているロングコートの男――ヴィクター博士。

 オクタが崩した鉄骨や、葉月が空中に浮いてた場所の真下を丹念に調べていく。

 その様子をスーツの男――迅が、乱雑に放置された鉄骨の一つに腰掛けながら見守っていた。

 そんな迅の隣には、狼型ロボットが大人しくお座りして待機している。


 葉月が落としていった布を確かめながら、何事かを考えるヴィクター。

 やがて、その場に布を戻すと迅の元へと歩いてきた。


「あの布、置いてっていいのかい?」

「あぁ、ただの布だった」

「へぇ。てことは、やっぱりあのガキも何かしらの特殊な力を持ってるのか」


 ヴィクターの言葉に、迅が納得したように頷いた。


「いや。足止めをしてきた子供については、力を持ってるかは不明だ」


 しかし返ってきた言葉は迅の考えを否定するものであった。

 どういうことかと視線で疑問を投げかける迅。

 ヴィクターは腕を掲げると、先ほど見つけたものを迅へと見せた。


「ワイヤーだ。それと、あの子供が空に浮いてた辺りに転がる鉄骨に、線状の傷がついてた」


 鉄骨の周囲にワイヤーを張り、それに乗って空中に浮かぶ。

 薄暗い夜間に見た自分達には、あの子供が浮遊してるように見える。


 そう告げるヴィクター。

 葉月が行った空中浮遊のタネを正しく看破していた。


「おいおい、それで空中に浮かんで見せたってのかよ」


 迅が目を丸くさせる。

 年端もいかないような子供が、そんな大掛かりなトリックを行ったことが信じられないといった表情である。


「じゃああれか? 俺の拘束を抜けたのもか?」

「それは僕にも分からん」


 顎に手を当て、考えながらヴィクターが言う。

 迅の拘束を抜けた時、葉月は布を手にしていた。しかし、その布に何か仕掛けがあるわけではない。


 ヴィクターとしても、迅が捕らえた相手を簡単に逃がすとは考えていなかった。そんな相棒の拘束を、トリックで簡単に抜けられるのかという疑問もある。

 空中浮遊についてはトリックだったわけだが、だから特殊な力を持っていないということにはならない。

 がしかし、空中浮遊が実際にトリックだったからこそ、拘束を抜けたのもトリックだったのではないかとも思える。


 結局、葉月が特殊な力を持っているか、いないのかについては現時点では判断できない。それがヴィクターの結論であった。

 そしてそれは、葉月達が見た目に反し、油断できない相手であるということを示していた。


「……迅。次に会うときは、あれを子供と思うな」

「そんなこと言われてもな……あれを殴るのは罪悪感が半端ないんだけど」

「お前が罪悪感だと? 寝言は寝てる時に言え」

「俺はあんたのような狂人(マッド)とは違うんだよ。あのガキは明らかに幼ねーし。流石に抵抗あるわ」

「迅……まさか、手心を加えるつもりか?」


 ヴィクターが睨み付けられ、迅が頭をがしがしと撫でる。


(わぁ)ってるよ。仕事はきっちりするさ」

「ならいい」


 ヴィクターの言葉に、迅は地面に向かってため息を吐いた。

 わずかの間の後、思い出したように顔を上げた。


「……そういや、足止めを行った子供『については』って言ってたな。他のやつは、やっぱり特殊な力なのか?」

「赤い服の奴は、間違いないな。それが異能によるものか、兵器によるものかは分からんが。……それに、あいつらの顔つきが変わったこと。兎のぬいぐるみが突然消えて、代わりに青年が現れたこと。それも何らかの力によるものだろう」

「顔つきが変わったことは分からねーけど……コスプレ少女については、あのAIの予測だと遺産とは関係なさそうなんだろう? てことは兵器なんじゃねーの?」


 迅の言葉に、ヴィクターが首を横に振る。


「《技研》で作られた兵器の中に、あんなものは存在しない」

「いや、何で当たり前のように全部の兵器を把握してんだよ。……てことは遺産てこと?」

「あるいは僕らとは違う組織が存在していて、そこが発明したかだな」


 顎に手を当てながら、ヴィクターが自身の考えを告げる。

 その内容に、迅が眉を顰めた。


「そんな組織、聞いたこともねーぞ。俺らが知らねー組織があるっつーのか?」

「さぁな、僕も聞いたことはない。あくまで可能性の一つだよ。……ただ、もしそんな組織が存在してるとしたら、そいつらは考えの甘い正義の味方だろうな」

「正義の味方?」


 薄く笑いながら、ヴィクターが続ける。


「青い服の女が話した台詞だよ。ロボットは危険なやつだから破壊したい、だったか」

「あー、そういや言ってたな」

「別の組織が存在したとして、そいつらはロボットに対抗するための兵器を作りながらも、ロボット自体は破壊しようとしている。ロボットに使われてる技術を確認しようともしない」


 つまりそれは、自分達とは別の組織の技術体系を研究し、自分達の兵器へと転用することを怠っていることになる。

 ヴィクターからすると、有り得ない考えであった。

 危険なロボットを破壊したいのに、そのロボットの技術は解析しない。相手のことを良く知ろうともせずに、己が持つ技術のみで活動する。高潔なようでいて、幼稚で稚拙なだけの思想のもとに運営される組織。そんなもの、正義の味方以外には有り得ない。


 ヴィクターの考えを聞いた迅は何事かを思案する。


「俺らの技術を解析する必要もない程、その組織の技術が優れてたりして」

「それならば、昨夜の時点であいつらは、僕らを圧倒してるはずだ」

「まあ、そりゃそうか」


 納得した迅が頷く。


「あいつらが何者なのかを判断するには情報が足りない。あいつらの力も含めて色々と知るためにも、あいつらを探さないといけない」

「まあ、そうなるよな」


 昨晩はロボットの捕物をしていたために魔法少女達の行動は目立っており、簡単に位置を特定することができた。

 が、自分たちの存在が知られ警戒されている今、再び葉月達を見つけ出すのは容易ではないはずである。

 まだ暫くは、この街に滞在することになるだろう。そう判断した迅は、立ち上がると軽く伸びをした。


「兎のぬいぐるみを捕らえるだけかと思ったが、コスプレ少女に、ちびっ子もか。全く、いつから俺らは小学校の先生になっちまったんだかなー」

「不満か?」

「んー、相手が美女ならやる気も出たんだけどな。まぁ、仕事だしな。しゃあないさ」

「分かってるならいい」


 一言告げて、顔を背けるヴィクター。

 不満だと言っていたなら何を言われたのか。それを想像した迅は肩を竦めた。


「それで、どうやって探すんだ? まさか、この街の学校を一個ずつ調べていくなんて言わないよな?」

「そうだな……それはお前に任せる」

「は?」

「僕は別のやり方であいつらを探す」

「いや待てよ、大将」


 大将の言葉に反応したヴィクターが、迅を睨みつけた。


「……ヴィクター。俺が学校を見て回るのはマズイ」

「何がだ?」

「日本の風習をあんたは良く知らないんだろうけどな。世の中、おっさんには厳しいんだよ」

「何が言いたい?」


 心底、理解できないという顔でヴィクターが迅を見る。

 迅はため息を吐いた。


「いいか? 俺はおっさんだ」

「知っている」

「渋さとお茶目さを兼ね備えたイケおじってやつだ。女受けもそこそこ良い」

「それは知らん」

「だけどな。そんな俺でも、学校なんていう異世界に足を踏み入れたら……いや、学校の周辺で張ってるだけでも通報されちまうんだよ。不審者として、間違いなくな」

「ふむ……」


 迅の言葉を受けて、ヴィクターは顎に手を当てながら目を伏せた。


「……お前にしては珍しくまとも論理だ」

「お褒めに預かり光栄なことだ」


 ヴィクターのあんまりな言い方に、迅も嫌味で返す。

 が、ヴィクターは嫌味を言われたことにすら気づかなかった。


「仕方ない。探すのは僕一人でやろう」

「分かってくれて嬉しいぜ」

「代わりに、お前は街に散ってるロボットを回収してこい」

「めんどくせーけど、しゃあないな」


 そうして、今後の方針を決めた二人は歩き出した。

 その後ろを狼のロボットがゆっくりとついていくのだった。

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