28・夏休み
「なあ、拓海も毎日部活?」
「まあ・・部活というか、自主練で来る感じかな。学校の方が心置きなく歌えるしね」
「そっか~・・」
夏休みに入るが、俺も拓海も殆ど毎日学校に行っていた。
体育館で練習している時は聞こえないけど、校庭を走っている時は音楽室から漏れたピアノの音と拓海の歌声が聞こえていた。
拓海の声は透明感のある綺麗な声だ。
(拓海は音大に行くのかな・・)
そう言えば、拓海と進路の事を話したことは無かった。
「なあ・・来週夏祭りじゃん?やっぱり彼女と行く感じ?」
昼の時間、俺は弁当を持って音楽室に来ていた。
「ああ・・どうかな・・」
音楽室に拓海以外の部員はいなかった。
涼平先輩は家の法事があるとかで、来ていなかったし、二人以外の部員は自主練にくる事はないだろう。
「って言うか、お前の彼女来ないの?」
「ああ・・バイトがあるって言ってたし・・」
「ふ~ん・・寂しい?」
拓海の顔を覗き込んだ。
「え?なんで?」
眉を顰めた。
「いや・・だって、会えないの寂しくない?」
「・・・・」
港希先輩は部活に入っていないから、夏休みに学校に来ることはない。
「夏休みの間さ・・港希先輩の顔見れないのすっげーテンション下がるしさ」
って言うか、夏休み中何しているんだろ?
バイト?いや・・バイトしている姿が思い浮かばない・・
「やっぱ・・ずっと勉強しているのかな~」
ハア・・と窓の外に視線を向けながら言った。
「そうかもしれないけど、悪い連中とつるんでそう・・」
「え?なにそれ?そんな事ないよ!先輩はそんな人じゃないし」
「恋は盲目・・なのかな~」
拓海も溜息をつくと窓の外に視線を向けた。
「でも・・やっぱり港希先輩は優しくてカッコいいよ」
「優しい人は、他人に自分の罪を擦り付けたりしないだろ」
「大袈裟だよ」
思わず苦笑した。
涼平先輩の部屋で見せてもらった写真
まだ少しだけ幼さの残る港希先輩の小学生の頃の写真だった
「うっわ・・やっぱり綺麗な顔してる・・」
予想通りというか、当然と言うか・・
切れ長の瞳、そして風になびいたサラサラの髪
どこか大人びた雰囲気の先輩だった。
「でも・・・」
アルバムを捲ると、必ず港希先輩の写真はあったのだが、隣に映る涼平先輩は満面の笑みでも、港希先輩は笑っていない。
「何か・・寂しそうな感じですね」
「ああ・・そうだな~・・」
俺の言葉に、大きく息を吐いた。
「あいつの親は厳しいからさ~・・毎日何かしらの習い事させられていたからな」
「はあ・・そうなんですか・・」
「まあ、勉強は嫌いじゃなかったから、それに対しては苦では無かったとは思うけど・・ね」
そう言って「でも・・」と小さい声で言った。
「でも・・何ですか?」
その後が気になり聞き返したが
「うん・・まあ、それは追々って言うかあいつから直接聞いたほうが良いよな・・うん」
腕を組みながら頷いていた。
「ええ!?何ですかそれ!気になるじゃないですか!」
先輩に何かあたのだろうか・・
もう一度、写真を見た。
「中学の時も部活は・・」
「そうだね・・部活はしてないよ・・合唱部に入れと誘ったけど、勿論断られたしね」
そう言って笑っていた。
・
「夏祭りさ・・港希先輩を行く予定なんだ」
「え!?行けることになったの?」
俺の言葉に目を見開いて驚いた。
「多分、行ける!」
「多分って・・どういう事?」
「涼平先輩が、絶対連れてきてくれるって約束してくれたんだ」
「・・・・・」
涼平先輩の名前を出した瞬間、拓海の眉が微かに動いた。
「ふ~ん・・」
鼻を鳴らして終わった。
「拓海は‥涼平先輩とは行きたくないのか?」
顔を覗き込みながら言った。
「俺は・・彼女と行かないといけないからね」
行かないといけない・・
「仕方なくって感じに聞こえる・・」
本当は、彼女の事が好きじゃないんじゃないのかな?




