たのしくなる夏
コマドリさんは語り出します。
南の島で仲間たちと合流したあと、虹色のタネを持っていないボクに仲間が聞いて来たんだ。
どうして今年はタネを持っていないのかい?って。
仲間に事情をはなしたら、なんでタネがなくなったのか、仲間はすぐに気付いたよ。
森のどうぶつたちが別れを悲しんで、旅立って欲しくないと思って隠したんじゃないかってね。
そして、仲間がボクに聞いたんだ。
毎年タネをもらってきてるけど、キミは森のどうぶつたちになにかあげることはできているのかい? ってね。
その言葉でボクは気付いたんだ。ボクはこの森と森のどうぶつたちからもらってばかりだったってね。
だから、今度はボクがみんなにプレゼントをあげようと思うんだ。
そう言って、コマドリさんは翼を広げてみせます。
「でもコマドリさんなにも持ってないよ?」
クマさんが首を傾げます。
「ふふふ。ボクからのプレゼントはモノじゃないんだ」
そう言うと、コマドリさんはゆっくりと歌い出します。
ピィ ピィピィ ピィ ピィ ピィ♪
それはいつもと違う単純な歌でした。
ピィ ピィピィ ピィ ピィ ピィ♪
コマドリさんは歌を続けます。どこまでも単純なメロディー。
「なんかいつものコマドリさんの歌と違うね」
「いつもの綺麗でどこまでも響くような歌の方が好きだな」
森のどうぶつたちには不評だったようです。
「それはそうだよ。これはボクの歌じゃないから」
どうぶつたちの言葉に、コマドリさんが答えます。
どうぶつたちは意味がわからず、首をかしげるばかり。
「コマドリさんの歌じゃないってことは、誰の歌なのかしら?」
どうぶつたちを代表してキツネさんが聴きます。
「これはこの森のどうぶつたちみんなのために作った歌なんだ」
そう言って、コマドリさんはもう一度同じ歌を歌い始めます。
「ボクらの歌?」
どうぶつたちはそれでもピンときません。
ピィ ピィピィ ピィ ピィ ピィ♪
「ほら、みんなも歌ってごらん?」
コマドリさんが促します。
「え、ボクらも?」
どうぶつたちは驚きます。
いままでコマドリさんの歌を聞くだけで、歌ったことなどなかったからです。
「ほら、簡単だから」
そう言って、もう一度歌い始めます。
ピィ ピィピィ ピィ ピィ ピィ♪
歌い続けるコマドリさんの声に、リスさんが意を決して声を出します。
チュウ!チュウ!
音感も何もないただの鳴き声になってしまいました。
リスさんは恥ずかしくなって、下を向いてしまいます。
「大丈夫だよリスさん。ボクだって最初はヘタクソだったんだよ。ボクがこの森に初めて来た日を覚えているかい?」
コマドリさんが、リスさんに問いかけます。
「覚えているよ。森の奥で一人で歌ってたのを、ボクたちが聞きつけて声をかけたんだ」
「そう、「歌が上手だね」って声を掛けてくれたのはリスさんだったね」
昔を思い出してコマドリさんが目を細めます。
「あの時ボクは仲間の群れから逃げ出して来て、ここで歌の練習をしてたんだ。だってボクは仲間の中で一番歌が下手だったから」
「そんな。あの時も今もとっても歌が上手いのに」
「ありがとう。でも本当さ。ボクは仲間の中で一番ヘタだったから、あの時ボクは初めて歌を褒められたんだ。とても嬉しかった。歌がキライになりかけていたボクを救ってくれたのはあの時のキミの一言なんだよ」
コマドリさんの言葉に、リスさんはびっくりします。だってリスさんは素直な気持ちを言っただけだったから。
「歌がキライにならずに、歌い続けていたから、ボクは歌が上手くなったんだ。たから下手だからって下を向かないで」
そう言うと、コマドリさんはまた歌いはします。
ピィ ピィピィ ピィ ピィ ピィ♪
チュウ チュウ!
リスさんの声。
コンコン……
キツネさんの声も重なります。
ガウガウ
クマさんの控えめの声が続き
キーキー
遂には歌いそうもなかった暴れん坊のアライグマさんも歌い始めました。
まだ、みんな歌は上手くありませんが、それでもみんなの声が重なって、とても楽しそうです。
「どうだい、歌は楽しいでしょ?」
歌い終わった後に、コマドリさんがみんなに聞きます。
「うん。楽しかったね」
リスさんが言いました。
「まだまだみんなヘタクソだけどな」
アライグマさんがそう言うと、みんなは「そうだね」と頷いて笑い合います。
「いっぱい練習して上手くなっていけばいいさ」
コマドリさんの言葉に、みんなは次の日もみんなで歌う約束をしました。
コマドリさんのプレゼントによって、今年の夏は例年よりもちょっぴり騒がしく、そしてとても楽しい夏になりそうです。