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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
最終章 On The Rooftop
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49.出し抜かれた

 なぜだろう、どうしてこんなにドキドキするんだろう……。


 文化祭の終了下刻は全学年同時だ。そして1日目は学校に残る意味もないので終わり次第電車通学のほとんどの生徒が一斉に駅まで向かう。


 俺ら2人もその駅まで向かう集団のうちの1つだった。集団といっても2人しかいないから、集団と言ってもいいのかどうか。


 そんな人込みの中、男女が2人で歩いているのなんて傍から見たらカップル以外の何物でもない。でも今更それを恥ずかしいとは思わない。


 なぜなら、このような状況になるのを分かった上で、俺は菜月の誘いを承諾したのだから。


「……文化祭、どう?」


 でも、1回目に一緒に帰ったあの時とは、状況も、時間も、何もかもが違う。


 こうやって菜月が話しかけてきたのだって、1学期のあの日、菜月と帰ったあの時とは何かが違かった。


「まあまあ、かな。」

「ふふっ、修らしい答え。」

「……そういうお前はどうなんだよ。」


 普通に聞いていれば何気ない会話のように聞こえる。でも、あの日とは何か違う緊張感があった。あの日からはかなりの歳月が経ったからだろうか。


 それとも、好きになったからだろうか。


「つまらない。」


 俺はその言葉を聞いた瞬間、思わず菜月の方を見てしまった。いや普通、この流れは面白い!とか最高!とか言うものだろう。


 そして何より怖いのはそう言い切る菜月の顔が満面の笑顔だったことだ。


「……正気かよお前。」

「あ、つまらないってのは明日と比べるとってことね。」

「……え?」


 俺は菜月の言っている言葉の意味がいまいちよく理解できなかった。昨日と比べるとかだったら全然理解できるけども、不確定な明日と比べる意味が分からなかった。


「……やっぱり修には分からないか。」

「いやどうしたら分かるんだよ……。」

「いいのいいの。さっきのは忘れて。」


 もしかしたら明日、菜月にとって何か確定的なものがあるのかもしれない。でもそれは現時点の俺には理解することが出来なかった。


 明日には、分かるのだろうか。


「……今日のお前、なんか変だぞ。」

「……。」


 それから、俺らの間に会話はなかった。話しかけようと思ったけども、見えない何かに疎外されているような感じがした。


 分厚い壁で隔たれていた、ような。


 そして電車の中も、駅の間も、そして電車を降りてからも。ただ、気まずいだけだった。これなら開登とかと帰った方が良かったと思うほどの。


 でも、後悔はしてなかった。放課後に女子と2人で帰る。誰もが描く理想の青春のはずだ。開登も似たようなことを言っていた。


 俺は頭の中で再確認した。やっぱり俺は、あの人が好きだということを。


「……じゃあな。」

「じゃあね修。」


 そして、そのまま俺らの最寄り駅に到着した。気まずい空気の中、俺から別れの挨拶を告げ、立ち去ろうとしたその時だった。


「……ねえ待って!」


 突然、俺の背中に甲高い女の子の声が聞こえてきた。声の主は他でもない、菜月朱音だ。


 俺の体は一瞬ビクッとしたが、すぐに振り返った。


「……どうしたんだ?」

「また、明日ね。」


 突然の事で、俺を引き留めた意味は明確には分からなかった。でも、菜月の真剣な顔を見るに、本気のようだった。


「……おう。」


 俺は、菜月の顔を真向から見て、返答をした。そして、そのまま不思議な放課後は終わった。




「おい、おいって修!」


 そして、開登のこの一言で俺は現実世界に引き戻された。


「……わっ!?どうしたんだよいきなり。」


 最近、どうも考え事が多いみたいだ。それに一度考え始めるといっきに周りが見えなくなってしまう。現に今も気が付くと目の前には開登の顔が迫ってきていた。


「どうしたってお前……。もう文化祭始まるぞ。」


 開登のその言葉につられて教室の時計を確認すると8時58分。後2分で文化祭が始まってしまう。


「お、おう。」


 今日の17時半。理科講義室。今日の17時半……ひたすらにそれらを反復させる。


 心の準備がまだできていなかった。



 私、明日修に告白する。


 文化祭の2日目が始まってからも私はその言葉がずっと頭から離れないでいました。私は1人で賑やかな廊下を歩いていました。隣に朱音ちゃんはいません。


 朱音ちゃんは恐らく本気。もし、朱音ちゃんの告白が成立してしまったら私の今までしてきたことは……。


 でも、この状況を打破する方法が1つだけある。それは朱音ちゃんより早く告白して、オーケーをもらうこと。


 でも朱音ちゃんがいつ告白するか分からないっていうのもあるし、何より成立するかどうか分からない。私は1回振られているのだから。


 でも、今日を逃したら当分チャンスは来ない。それどころか永遠にチャンスが掴めないかもしれない。


 そう考えると自然と私の手は携帯の液晶へと向かいます。でも、そこから神谷君にラインを送る勇気が出ないのです。


 やっぱりこういうのって口で言った方がいいのでしょうか。


「なーにやってるのっ。花園さん。」

「わわわ!?」


 そんなことを思っていると突然、後ろからポンと肩を置かれ、私は奇声とも言える声をあげながらびっくりしてしまいます。


「入江君!?」


 携帯の電源を急いで落とし、振り返るとそこにはいつもと同じ制服姿の入江君が立っていました。

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