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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
最終章 On The Rooftop
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50.それは、涙

「よっ、花園さん。」


 あまりに突然すぎる登場に私は慌ててしまいます。携帯の画面、見られてないよね?神谷君とのラインを開いていたから、見られていると色々誤解が生じてしまうかも……。


「ど、どうしたの入江君突然。」

「いや花園さんが1人でいたから、だる絡みしよっかなってね。俺も1人だったし。」


 口調を見るに、どうやら携帯の画面は見られてないらしい。私はそっと胸をなで下ろします。


「ああそういう……。」

「今日は朱音と一緒じゃないのかい?」


 そして唐突すぎる入江君のこの攻撃に、私はびくっと反応してしまいます。いつも何も考えてないように見えて、さらっと核心を突いてくる……。


「あ、朱音ちゃんは委員会か何かの仕事があるみたい……。」


 咄嗟とはいえ、これは上手い言い訳ではないなあとは思いました。でっち上げるにしてももっと別の何かがあったはず。


「そっか。」


 でも、入江君は入江君で納得してくれたようでした。それでも、入江君は何か引っかかったような顔をしていたけど、いきなり手をポンと叩くと、目をキラキラさせて言いました。


「じゃあさ、このまま俺と文化祭、回らない?」

「……え?」

 

 これも唐突すぎて、私はきょとんとしてしまいます。思えば入江君が何か言い出す時って、いつも唐突な気が……。


「だから、1人者同士で回ればお互い1人じゃなくなるじゃん?」


 この人は一体何を考えているのだろう。私は入江君が考えていることが分からなかった。


 でも、悪い気はしなかった。形はどうであれ、一緒に泊まった中だし、一番仲の良い男子のうちの1人に数えられる。


 仲の良い男子のうちの、1人、だけど。


「じゃあ、そうしよっか。」


 神谷君のことも、朱音ちゃんのことも今は一旦忘れよう。そして入江君のことだけに集中しよう。


「おし決まり。じゃ、早速だけど花園さんはどこに行きたい?」


 何というかデートみたい。学校の中、しかも文化祭中だけど、形は完全にカップルのデート、そう思います。


 でも、私の理想とは何かが違う。入江君だから?神谷君じゃないから?


 それも違う。自分の心境がこんな複雑な状況で、デートはしたくない。ちゃんと告白して、オーケーをもらって、純粋な愛情を捧げたい。


「……お化け屋敷。」


 気が付くと、私は無意識にそう言っていました。何でお化け屋敷と言ったのかは自分でも分かりません。


「りょーかいっ。」


 入江君は短く言うと、一直線に歩き始めました。そもそもお化け屋敷を出しているクラスは私達の2年7組と、後1つしかないはず。


 私は何も言わずにただついていきました。入江君の大きな背中を見ながら。


「ありゃりゃ、結構並んでるね。」


 しばらく経って着いたのは、2年7組のブース。自らデザインをしたお化け屋敷。仕掛けも、内装も、外装も全てを知っている。


「ここって私達の……。」

「そう。自分で遊んでみるのもまた一興、そう思わない?」


 別に嫌な感じはしませんでした。そもそも私の希望を聞いてくれてるわけだし、まだ自分達のアトラクションは入っていなかったし。


「……それもそうだね。」


 入江君はニコリと笑うと言いました。


「じゃ、並ぼっか。」


 

 待っている間は会話という会話はありませんでした。たまにちらりと入江君の方を見てみるけども、入江君は廊下の窓越しにどこか遠くの空を見ています。


 待っている間、私はポケットに入っている昨日、クマさんからもらった券をずっと握りしめていました。男子と女子でチュロスを買うとサービスされるという券。


 せっかくもらったんだから使っておきたい。でも、今、この状況で言うべきかどうか。


「……。」


 だめ。言おうとしても勇気が出ない。というより、入江君と私の間に、何か分厚い壁が出来てしまっている、そんな気がしました。


 でも、こんな些細な事さえも言えなかったら神谷君に告白なんてそんなこと、出来ない。私は息を振り絞って、ゆっくりと言い出しました。


「ねぇ、入江君。」

「花園さんはさ、好きな人、いるの?」


 入江君は私の言葉に被せるように言ってきました。突然すぎて私の体は完全に硬直してしまいます。


「ちょ、何、いきなり……。」

「いや、単純に気になってさ。」


 やっぱり入江君の言葉は唐突。唐突すぎて返答に困ってしまいます。


 本当のことを言うべきなのか、適当にぼかしておいくべきなのか。そんなことを思っていたその時でした。


「6名様、中へどうぞー!」


 最前から数えて6人が中へ入るよう指示されました。前から数えると入江君が5番目、私が6番目。


「……行こっか。」


 何はともあれ、考える時間が出来た。入江君への返答を。でも、ここで本当の事を言う意味はないはず。でも、嘘はつきたくない。


 そんな葛藤の中、入江君がもらったライトで道を照らして進んでいく。早く、早く言わないと。


「……ごめん。やっぱ言いづらいよね。」


 私が悩んでいると暗闇の中、入江君がそう言いました。顔も、表情も見えない。聞こえてくるのは声だけ。


「実はさ、俺、聞いていたんだ。始業式の前日のあの日、花園さんが修に告白しているのを。」


 私はそれを聞くと、胸が矢に貫かれたかのようにぎゅっと締め付けられました。ドキドキと緊張が止まらない。


 入江君が、あれを聞いていたと思うと恥ずかしくて恥ずかしくて。唯一の救いは暗闇の中だから赤面していることがばれないことくらい。


「盗聴みたいなものなんだけどね。しかも今更こんなこと言ったって。……黙ってて本当にごめん。」


 でも、今更本当のこと言ったところで急に嫌いになるわけじゃない。むしろ言ってくれて良かったって感じ。


「……私は、今でもあの人のことが好き。」


 言えた。いや、言ってしまったという方が正しいのかも。あんなに突っかかっていた言葉がまるで何かに流されるかのように、すんなりと。


「つまり、あの日は残念な結果になってしまったって……ことだよね。」

「それでも、私はあの人のことが好き。」


 一度言ってしまったら、なんだか気持ちがとても楽になる。重い荷が取れた気がして。


「何というか、自信もってそう言えるのっていいよね。なんだか憧れる。」


 私は入江君のこの言葉を聞いてクスクス笑いそうになってしまうのをこらえます。私がこの言葉を吐き出すためにどれだけ苦労したか。


 でも、そんな感情は次の入江君の言葉で一気に彼方へと飛ばされました。


「実は、俺、朱音が好きなんだ。」


 私は再び胸が痛くなりました。私に驚くという感情すら与えなかった。それほど衝撃的だったということなのかもしれない。


「入江君、今、何て?」


 入江君が朱音ちゃんが好き?予想の斜め上を行き過ぎて、私の視界は白黒になります。


「俺は菜月朱音が好き。」


 あれだけ自然に話していたのに。まさかのまさかすぎて、私は返す言葉がなくなります。


「でも、これは叶わない。」


 入江君はゆっくりと言います。


「朱音は修のことが好きなんだろ?」


 私は気を失いそうになるのを耐えます。


 思えば、朱音ちゃんは私よりも運動神経がよくて、私よりもスタイルが良くて、私よりも背が高くて、私よりも明るくて、元気で、男子にも人気があって……。


 私は天を仰ぎました。


 あれれ、おっかしいなあ。私が勝てる要素、ないじゃん。


 そう思った瞬間、私の目からポタポタと滴が垂れました。まさかと思ってゆっくりと手で拭くとそれは……。


「花園さん……何で……泣いてるの……。」


 それは、涙。


 だめだよ私。ここで、友達の前で、人前で泣いたら。入江君が泣かせたみたいじゃん。入江君には何の非もない。悪いのは全部私なのに。


 そんな気に反して、涙は止まらない。


「ごめん……本当にごめんね……!朱音ちゃん……!」

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