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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
2章 Children Voice
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閑話 あっという間な話です

 ピリリリ!ピリリリ!


「うーん……。」


 私、花園栞は寝ぼけ眼をこすりながら、8時半にセットしておいた携帯のアラームを切ります。でも今日は休日。それに部活もオフ。もう少し寝ても、いいよね……。


 そしておもむろに現在時刻を確認します。


「9時……半。」


 よし、これなら後もう少し寝ても大丈夫。そう思って布団をかぶろうとしたその瞬間。私の脳がようやく動き始めます。


「って9時半!?」


 私は跳ね起きます。全く1人で何やってるのでしょうか。なんでアラームの設定時間が1時間遅れていたかは分かりません。謎です。


 でも、今日ばかりは絶対に遅れられない理由があるのです。だからこうして飛び起きて、支度をしているのです。


 私は急いで着替えます。髪型はもうそのまま流していこう。着飾っている余裕などない。幸い、着ていく服は昨日の時点で固まっていたし、待ち合わせ場所も駅だから私の家からは結構近い。


 ロッカーにかけてあった、花柄のワンピースの上にグレーのカーディガンをアウターに合わせ、低めの白いヒールを履いて、いざ出陣。


 朝ご飯は当然抜き、15分で支度して、音速で駅まで向かいます。


 こんなに急いでいる理由なんて、1つしかありません。


「ごめん!待った?」


 私が到着すると、その人は駅の大きな柱に寄りかかって、携帯をいじって暇を潰していました。


修君・・

「ううん。俺も今来たとこだから大丈夫。


 そう。今日はデートの日。進級して、クラスが分かれちゃうかもしれないから、そうならないうちにやってしまおうってのもあったし、何より、学年末テストとかがあってこうして会うのすら久しぶり。


「にしても珍しいな。栞が遅れてくるなんて。」

「あはは……。ちょっと今日は寝坊しちゃって。」


 ま、いいや。と再び駅に向かいます。目的地はここから少し離れた大きな街。待ち合わせがここなのはこの駅の方がその駅に近いから。とはいえ、修君には途中下車してもらわないとなんだけどね。


 今日の修君はジーパンに上は白のシャツを被せるように黒のパーカー。派手でもなければ地味でもない。こういうシンプルなところもまたいいのです。


「今日、修君は何したい?」


 行きの電車の中で私は尋ねます。そう言えば、まだ明確な目的がなかったのです。


「何でもいいよ。栞の好きなものなら。」


 修君はそう言ってくれました。


「じゃあ、お言葉に甘えて……。」



「お、あの熊とかいいんじゃないか?」


 私たちが向かった先はこの周辺でも有数の大都会。都心までとはいかなくても、ここには最先端の店が立ち並んでいるのです。


 で、お言葉に甘えた私が行った先は色々なぬいぐるみを専門に扱っている少し特殊な店。特殊だけあってこの近辺だとここしか店舗が存在しないので、来たからにはどうしても行っておきたかったのです。


「すごい!これモフモフだよモフモフ。」


 そこで修君が見つけた熊のぬいぐるみは、想像以上にふわふわ。一生抱きついていられるかもしれない……。


「すげえな。見てるだけで弾力が伝わってくるわ。」


 修君はそんな私を微笑ましく見守っています。でも、せっかくのデートなのになんだか私の希望ばっかというのもなんだか後ろめたいです。


「あの……修君は大丈夫なの?」

「大丈夫って何がだ?」

「いやだって……。修君はこんなとこにいて楽しいのかなって。」


 私は少しドキドキしていました。もしこれで気まずくなっちゃったらどうしよう。そう考えるとこの言葉は言わない方が良かったのかもしれません。


 でも、修君は違いました。


「何言ってんだよ。俺は栞の楽しそうな顔が見れればそれでいいんだ。」


 嬉しかった。この温かい言葉を聞けて嬉しかった。でも、同時に恥ずかしくもなりました。


 それが顔に出ないわけもなく、私は頬が熱くなっているのを感じ取りました。


「……ありがとう。修君。」



 それからはとても充実した1日でした。一緒にご飯や映画はもちろん、街をぶらぶらしながらも、中身のある1日を過ごせました。


 やっぱり、修君といると楽しいし、落ち着く。私の心の隙間を綺麗に修君が埋めてくれる。幸せってこういうことなんだなって改めて理解できます。


「後は栞、どっか行きたいとこあるか?」


 ショッピングモール内を歩きながらも、修君は以前として私の意見を優先してくれます。私は携帯のホーム画面を開き、現在時刻を確認します。18時12分。


 家も近いわけではないので、出来るなら早めに帰りたい。でも、この幸せな時間が終わってほしくない。


 思えば、今日は私の意見ばっかりだったな……。


「逆に聞くけど、修君は何がしたい?もう時間的にも最後だし、最後ぐらいは修君も自分のしたいことしたいだろうし……。」


 修君の即答しました。それも予想外の。


「じゃあ、あれ、行きたい。」


 修君が指指したのはゲームセンターの横に並んで置いてあるプリクラでした。そういえば、2人で撮ったこと、なかったな……。


「プリクラ撮るってこと?だよね。」

「そうだな!楽しかった今日を写真に収めようぜ。」


 少し意外だったけども、異論はありませんでした。プリクラなんて男子と撮るのは初めてだけども、なんだか新鮮でドキドキする。


 少し並んで、私達はプリ機の中へ。でも修君は何やらキョロキョロしています。


「ええっと、これどうやって進めてくんだっけ。自分で言い出しといてあれなんだけども、あんまり撮ったことないから分かんなくて。」


 それを聞いてふふっと私は笑ってしまいました。こういうお茶目なところ、私は嫌いじゃないよ。


「ちょっ、何笑って……。」

「んーっとね。まずこれは私達の身体のどこを映すか選んで……。」


 少々強引だった気がしないでもないけども、私が手取り足取り教えて、やっと撮影まで進めることが出来ました。


「じゃあ、スタート押すよ!」


 押したら最後、撮り終わるまであっという間。そして撮り終わったらあっという間に帰宅。思えば、今日1日はあっという間だったな。


「おう!」


 修君の返答を聞くと、私はスタートボタンを押しました。撮るチャンスは4回。あれ、でも……。


「ポーズ決めてない!?」

「ポーズ!」


 気づいたのは2人同時。もうシャッターは回ってる。もうアドリブでポーズを取るしかない。それでも、私と修君の息がぴったりだったのか、アドリブでもそれなりのポーズが3枚取れました。


 そして、4枚目。私は無難にピースサインで締めくくろうと思ったその時でした。


 突然、肩に手がのしかかり、気づけば私の体は90度回転して、修君と向き合っていました。


「修……君……。」


 ゆっくりと、私と、修君の唇は近づいていきます。


「3!2!1!」


 そして、キスをすると同時に、進行の機械のボイスがプリクラの室内に響き渡りました。


「0!」




 ガバッ!


 絵に描いたような跳ね起き方でした。そして、私は5秒程ぼーっとして我に返ります。


「……。」


 現在時刻を確認。6時00分。もうすっかり太陽が昇るのも早くなり、もう外は日の出が出ています。


 それと同時に、私は全てを悟りました。


「夢……。」


 そう。今までラブラブなデートをしていた私は全て妄想の中の主人公に過ぎません。それを知ると、突然恐ろしい虚無感が襲ってきます。


 どうか神様、続きを見させてください、と懇願しても神様が私なんかのお願いなんか聞いてくれるはずもなく。


「もう1回寝たら……続き見れるかな。」


 思わずそんなことを口に出してしまうけど、今日はそんなことは出来ません。今日は絶対に遅刻してはいけない日なのです。


 今日は、2年の始業式。どうしても諦められないから、多分夢に出てきたんだ。


 この1年、あっという間だろうけど、その間に絶対、あの夢を正夢にするんだ。


 

 --そう決心した頃にはもう目は冴えていました。

これにて正式に2章は終了です。

次回からは本編の続きに戻ります。よろしくお願いします。

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