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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
2章 Children Voice
23/59

22.れすととりっぷ

「……ってまた痛い!?」


 もはや歓声を上げただけでもげんこつが下る開登。やっと少し可哀そうに思えてきた……。クラスメイトの女子がサンダルに清楚な白一色のワンピースを着ていたら声を上げたくなる気持ちは分かる。


「まーた女子をいやらしい目で見てたんでしょ?」

「見てません見てません見てません。」


 そして必死に首を横に振り続ける開登。可哀そうというよりはもう哀れだ。そういう域に達してきている。


「わ、私のことはいいから……と、とりあえず歩こう?」


 菜月に胸ぐらを掴まれてゆっさゆっさと揺れる開登の横の、今日のオーナーの第一声がこれってどうなのだろうか。


「……そだな。」


 そして俺らはゆっくりと歩き始めた。


 


「これはどこに向かってるんだ?」


 俺があの日、花園から告白された場所を通り過ぎて、ひたすらに海岸沿いを歩いていく。駅自体が高台にあるので、その道も標高高く、突き抜ける潮風が心地よい。


「あ、言い忘れてたね。まずは私の家で荷物を置いてもらおうと思って……。」

「てことは花園さんの家に向かっているってことだね?いやあ楽しみ楽しみ。」


 後ろで肩を組んで開登はニコニコと歩いていく。風でひらひらとTシャツが揺れる。


「土足禁止だぞ、開登。」

「いや常識でしょ!?」


 度々入る漫才のようなノリに、4人は笑いに包まれる。やっぱりこのシチュエーションは男子が笑いを取りにいかないと雰囲気が作れないってものだ。


「にしても花園さんがこういうのに誘ってくるって意外だったねえ。」


 そんな流れの中、開登が爆薬とも言える言葉をぶち込む。それを聞くと花園はビクッと反応した。


「いや……あのそれは……ちょうどお盆で暇かなって思ったから……。」


「……って言えばいいんだよね?朱音ちゃん?」


 いやバレバレ!誰の差し金だかバレバレだよこれ!?というかもう隠す気ないでしょうこれ。菜月は苦い顔をして言った。


「うん。グッジョブ。」


 さすがにこの展開は菜月も予想外だったようだ。花園以外の3人は皆、クスクスと笑ってしまう。


 菜月の話によると、あのお誘いのメールは部活帰りに菜月が勝手に送ったメールだったらしい。元々、2人で泊りがけで遊ぼうとなっていたところだったのだが、俺ら2人を誘ったのは菜月の完全な独断だ。


「……なるほど。でもお母さんとかお父さんとかは?」


 開登が相槌を打ちながら尋ねる。既に会話の主導権は入江開登が握っているようだ。


「新婚何年目だかの記念日で、2人で旅行に行っちゃって明日の夜まで、家は私1人だったから……。」


 それを聞いて俺は純粋に羨ましかった。両親の中がいいのはもちろんなのだが、そもそも俺にはお父さんがいない。

 花園栞は根がしっかりとした、真面目な性格だけど、それは両親にたくさん愛情を注がれたからなんだなあ、と。


「ていうか、勝手にライン送られてるのに気づかなかったのかよ……。」

「全く……。というか朱音ちゃんが私の携帯のパスワードを知ってるなんて思わなかったし……。」


 普通は携帯に何桁かのパスワードを設定して、それを知らないと開けられないのだが、菜月恐るべし。


「で、気づいたときには返信が来ていて、後に引けなくなったと?」

「お恥ずかしながら……。」


 そしてまた4人の中に笑いが起こる。そして、海岸沿いと呼ばれる道を歩いていた俺ら4人だが、花園は小道へと左折する。


「でも、花園と菜月は部活は大丈夫なのか?俺らは元からないからいいけども。」

「何言ってんの?今お盆休みじゃない。」

「あ。」


 そう菜月に言われて初めて俺はお盆の存在に気づく。本当に曜日感覚がなくなっているみたいだ。昨日も同じ勘違いをしているというのが、なんとも恥ずかしい。


「ふ……ふふ。」


 開登と菜月の笑いはすぐに収まったのだが、花園だけずっと下を向いてクスクスと笑っている。


「花園さん、もしかしてツボに入ってる?」

「ち、違う!違うけど……。」


 開登の言葉を否定しつつも、花園はまだ笑い続ける。


「栞がここまでツボにはまるというのも珍しい……。」


 そんな平和な会話を交わしていたが、やがて、花園はある家の前で立ち止まった。


 俺がもしやと思って表札を確かめるが、きちんと花園と書いてある。つまりは、この家が花園の家となるのだが……。


「でっけえ。」


 俺は思わず感嘆の声をあげる。赤いレンガのようなもので覆われた外装はとてもおしゃれで、その建物は横にも縦にも広い。


 そしてその建物を囲むかのように大きな庭が広がっている。俺だけでなく、他の3人も圧倒されているようだ。


「全然大きくないよ!さ、入って入って。」


 まず門から家のドアまで20秒くらい歩く。それくらい距離が空いているということなのだが、俺の家なんて2秒だぞ。


 そして花園がゆっくりと家のドアを開ける。思えば、女子の家に入るのなんて何年振りだろうか。もしかしたら小学校時代に菜月の家で遊んだのが最後かもしれない。

 

「おお……!」


 俺と開登、菜月は思わず感嘆の声をあげる。室内は白いフローリングに包まれていて、いかにも現代風って感じの内装だった。


「あれ、驚いてるけど菜月って花園の家入ったことないのか?」

「それが何気に初めてで。にしてもこんなに広いとは……。」


 そしてとにかく広い。天井が高いので奥行きもあって、なんだか遊園地に来ているみたいなわくわく感だ。パッと見るだけでも何個もドアがあって、4人だけで使うのには広すぎるくらいだ。


「だな。というか広い、としか言葉が出てこないな……。」

「元々2世帯住宅だったからね。病気で亡くなっちゃってからは部屋だけ余っちゃってて。」


 そんな説明をしながらも、花園はある部屋の前で立ち止まる。


「じゃあひとまずはこの部屋に荷物置いておいて。」


 花園はそう言ってドアを開けたが、その先に、待っていたのは今までの白いフローリングとは正反対の座敷が敷かれた和室だった。花の入った瓶や、昔ながらの障子や掛け軸が目に留まる。


「ほうほう、和室もあるんだねえ。」

「ここは元々おばあちゃんの部屋だったからね。」


 そして皆は各々、リュックを置く。置いたと同時に菜月が口火を切る。


「よーし!皆の衆!荷物の確認をするぞ!」

「……荷物の確認って何するんだ?」

「何って着替えとかは当然だから省くとしても、水着とかは遊ぶのに必要じゃん?」


 そういえば花園にラインで持ち物を聞いた時、恥ずかしそうに水着って答えたっけ。これも全て菜月の差し金なんだろうが、せっかく海が近いんだからそこで遊ぶのは必然だ。


「……ってことはこれから海かな?」


 察しの良い開登が返事をする。現在時刻は13時半。集合が13時だったので皆、昼は済ませてあるみたいだ。


「その通り!」


 予定とかは全部菜月が立てているみたいだ。そしてそれに全員合点。


「朱音はとーぜんビキ……」

「何か言った?」

「いや、何も……。」


 ビキニ、といいかける開登を菜月は封殺。顔だけ笑いながら怒っているのがまた何とも怖い。それに花園の家の中だからか、菜月も気を遣っているのが分かる。


 そして俺らは海へ飛び出した。

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