21.休暇なんてありません
2章ではほのぼのした夏休みを書いていきます
よろしくお願いします。
……暇だ。
俺はリビングのソファーに寝っ転がって、意味も無しにスマホをいじりながらそう思った。今は8月、夏休みだ。
もちろん友達はいるので遊ぶときは遊ぶ。柔道部や野球部がオフの日には、体育祭の一件で仲良くなった近藤や志賀、渡部あたりと遊んだりもしたが、基本は帰宅部は暇になる。
開登とは正直言って遊び飽きた。向こうは向こうでどうせ暇なんだろうが、毎日遊ぶというのはさすがにしていない。最後に遊んだのは5日前くらいだったか……。
そうとは思うが、さすがに何もすることがないので、何となく開登に遊ぼうぜと送ってみる。こちらが誘うこともあれば、向こうから誘われることもあるが、悲しいことに予定がないので、遊べる確率は100%……のはずだった。
送ったラインは一瞬で既読マークがついて、その10秒後には返信が返ってくる。向こうも暇なんだなあ、と思って返信を見たのだが、内容は今までとは違うものだった。
わりい。今、亡くなったばあちゃんの墓参り行ってんだわ。また今度な。
その内容とは、男同士の淡泊なやり取りの後、意味の分からないスタンプが送られてきていたことだった。
断られた。どうしてものときの最後の砦、開登までもが崩された。そういえば今はお盆かあ。夏休みですっかり曜日感覚というものがなくなっていた。
「やることねーなあ。」
こんなんだったら女子ソフトテニス部のマネージャー、やっておけばよかったかもしれない……と、思いかけて首を横に振る。
「暇そうだねえ。帰宅部さん。」
ソファーで仰向けに寝っ転がっていた俺の視界に入ってきたのは、我が妹、凛。凛も夏休みとだけあって、もう昼にもなるというのに緑の髪は寝起きのままのボサボサ。どこか生気のない目をしている。
「……今起きたお前に言われたくない。」
「部活も引退したし、これくらいはいいじゃないいいじゃない。」
そういえば中3の今の時期は皆、最後の大会が終わって実質帰宅部なのか。どうりで部活熱心な凛が部活をしに学校に行ってないわけだ。
しかし、そう思うと急に妹に謎の親近感が湧いてくる。
「お前、高校でもバスケやるのか?」
「まあそんな感じかなっ。今日も午後から皆でバスケしに行くしね。」
「……勉強はどうした。」
能天気な凛だが、これでも一応は受験生だ。定期テストの度に順位とかは見せてもらってるのだが、お世辞にも頭がいいとは言えないのだが。
「のんのん。塾の夏期講習が夜に入っております。受験生の本分も疎かにしていないのですよ。」
とりあえず、塾には行っているらしいが、それが凛の成績を上げているのかは定かではない。定期的に分からないところを俺に聞いてくるし、タメになっているのだろうか……。
「それに引き換え、お兄ちゃんときたら、せっかくの高校で最後の遊べる夏休みだというのに、家でゴロゴロしてばっかりで……。」
最後の夏休みって、ちゃっかり高校3年の今は受験勉強で忙しいことを知っているのが恐ろしい。俺は携帯を置いて反論した。
「俺だって遊んでるぞ。開登や野球部や柔道部の奴らと……。」
「そういうわけではありません!」
まだ俺が話しているというのに、俺の顔と0距離で凛は人差し指を立てて、警告のマーク。
「確かに男同士の友情も大事。だけど高校生といったらやっぱり女の子も混ぜた甘酸っぱいプライベートでしょう!?」
「男だけじゃだめなのか?」
「だめです。むさくるしいのは嫌いです。クラスの女の子の1人や2人や10人、その気になれば遊べるでしょう!?」
言われてみれば、野球部と柔道部とバスケ部って字面だけでもむさくるしい。かといって女友達と呼べる女子は菜月と、後は花園がギリギリ入るか入らないかってところだ。
その他に話した人と言えば香住くらいか。
「10人は多すぎるだろ……。」
「まあ10人は多すぎるところもあったけども、チャンスは夏休みの今しかないんだよ!どこかでお祭りもあったと思うし。」
さらに考えてみるが、お祭りなんてガキの頃から男としか行ってなかったな。と、いうか今までは、女子に対してあまり関心を持ってこなかった。
「へいへいっと。」
「そう思ったら今すぐメール!凛も見てるからね!」
「いや行動早すぎだろ!?」
凛の目は乙女の純粋な心を映し出しているが如く、キラキラとしている。漫画の見すぎだ見すぎ。大体、現実は漫画通りに行くものじゃないんだ。
トゥルン。
そんなことを思っていると、まさに漫画みたいなタイミングでメールの通知が来た。
「……あれ、お兄ちゃんもう送ったの?」
「いや、携帯触ってすらいないんだが……。」
そして恐る恐るラインを見てみると、差出人の名前欄には、栞、と書いてあった。クラスには栞さんは花園栞の1人しかいなかったはずだ。
俺は凛と思わず顔を向けあっていた。
「……まさか。」
「まさか、ね……。まさか向こうからなんて……。」
そして俺は、液晶を操作しなはら、本文をゆっくりと読み上げる。
「神谷君、もし暇だったら明日の午後から私の家で泊まりませんか?」
俺と凛は顔を向き合ったまま、動かなかった。そして何が起こっているか分からない2人は、声をシンクロさせる。
「え?」
最後に海岸前駅に来たのは、始業式の前日のあの日だった。そして、今、2回目の到着をしたわけだが……。
「暑い。」
夏真っ盛りの8月中旬のこの日、気温は35度。あの日と違って、海岸では海水浴を楽しむ人々で賑やかだ。
結局あの後は、凛に散々行け!行け!と迫られた後で、ちゃんと行くと返信をした。開登も誘われていたようで、俺は行くけどお前も来るよな?とメールも飛んできた。
行く前提なのが、開登らしいと言えばそうなのだが、俺も暇してたし、思い出作りには丁度いい。しかし、1つ懸念があった。
それは花園がこのメールを送るとは思えないということなのだが、菜月か何かが裏で送ったのだろう。俺と開登の間で勝手にそういうことになっている。
「しかしほんとに暑いな!」
この猛暑の中、なぜか元気があるのは入江開登。ベージュの長ズボンをふくらはぎまで折り返した半ズボンに、白無地のTシャツを着てきている。そしてノリノリのサングラス。
俺も黒の長ズボンに、茶色のTシャツと開登のあまり変わりはないファッションのはずなのだが、ここまで差がつくのはなぜだろうか。
「お前はいつでも元気だなあ。」
「あたぼうよ!女の子の家に泊まれるとなればこっちだって元気が出るってもの!風呂とか寝るときとか……むふふ。」
開登はサングラスの下で無限の妄想をしているようだが、現実は絶対にそうにはならない。風呂も就寝も、全部別々だろう。
「……って痛い!?」
そんな開登に後ろからげんこつを食らわせたのは菜月朱音。紫のショートパンツにベージュのTシャツ。そして腰には水色のパーカーを巻いている。髪型はいつもの青い色のショートカットだ。
「残念だけども、風呂は男女別の銭湯。寝る部屋は当然別々よ。しかも端っこと端っこ。」
でしょうね。分かり切っていたことのはずなのだが、なぜか開登は恐ろしいほどショックを受けている。お前は何に期待をしていたんだ……。
「ね?栞?」
そして、菜月のその言葉で、花園栞がぴょこっと顔を出した。
「お!?」
それを見て、開登が急に元気になる。まあそれも無理はなかった。
花園栞は、上から下まで綺麗な白のワンピースで登場したからだ。




