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俺が部活を辞めた日  作者: 明戸
1章 Grew Heart
19/59

19.命令は絶対なの

「えー……。というわけで、優勝することができました。」


 そう音頭を取るのはすっかりクラスのアイドルと化した入江開登。


 今日は体育祭の打ち上げ。花園の足も治ってきた1週間後の土曜に決行。優勝したからかもしれないけれども、参加率も41人中33人と上々。


 学校近くのお好み焼き屋が会場なので、テーブルが8席あるバラエティ席を予約してやっているのだが、俺らのテーブルには近藤、渡部、俺、開登がいた。


「ほら、コーラ持ってきたぞ。」

「いやこれ明らかにコーラの色じゃねえ!お前なんか混ぜただろ!」

「ってそこうるさい!俺の音頭を聞くんだ!」


 腐っても開登なので、挨拶をしているときも今、この会話をしている渡部と近藤を始めとして、皆喋る。こんなバラバラなのに本当によく優勝できたなあ……と心から思う。


「えー……。ここまで来れたのもクラスメイト皆が力を合わせたからです。」

「つーかこれ何混ぜたんだよ……。今まで生きていて見たことがない色してんだけど……。」


 俺も同じテーブルなのでそのどす黒さは分かる。渡部がドリンクのお代わりをするときに、ついでに行ってきてと近藤がグラスを渡して、メロンソーダを持ってくるよう言ったのだが、明らかに緑色ではない何かの色をしている。


「えー……。もちろん担任の河辺先生の力もあったおかげでして。」


「メロンソーダにコーラと炭酸水を混ぜて、冷水で薄めた後、烏龍茶とアイスコーヒー入れてきた。」

「よくそんなこと思いつくな!?」


「……うんもうどうでもいいや!乾杯!」


 あまりにも開登以外がフリーダムなので、とうとう吹っ切れたようだ。強引に乾杯の号令をかける。


「かんぱーい!」


 それと同時にクラス皆はそれぞれのグラスを高く上げて叫ぶ。


「なんでそこだけ皆息ぴったりなの!?」



「開登どした。そんな顔して。」


 それから数十分経ってからだった。せっかくの打ち上げだというのに開登が珍しく気難しい顔をしていたのに気づいて、俺が声をかける。


「……違う。違うんだよ。」

「いや、何がだよ……。主語がないから全く分からないんだが。」


 体育祭も終わってとうとう頭がおかしくなったか、と思っていると開登は席を立ってこう言い放った。


「はい皆ちゅうもーく!席替えするぞ!」


 思えば、打ち上げなのにテーブル席は男同士、女同士できっちり分かれている。開登はそれに気に入らなかったようだ。


「いえーい!」


 それに便乗して盛り上げるは、お馴染み近藤、志賀、渡部。さすが開登をリーダーを慕っていただけある。


 女子の方も笑いながらそれを見ている。誰からも反対の意思がないことを知ると開登は番号を振って、スマホのアプリか何かを入れて組み分けを始める。


「栞あの人と一緒になれるといいねっ。」

「こ、ここでそんなこと言うのはまずいって朱音ちゃん……。」


 席替えの瞬間は周りもざわつくもの。そして俺らのテーブルには俺、近藤、香住、菜月の4人が揃った。正直言って俺から見たら全員話したことある人だから問題ないのだが、他3人はどうなのだろうか。


 せっかく男女混合にしても、その中で男子同士、女子同士としか喋らなかったら全く意味のないわけで、案の定、微妙に気まずい雰囲気が漂う。


「どうする?何か頼む?食べ放題だし。」


 そこで先陣を切ったのは菜月。微妙にその笑顔が引きつっている気もしなくはないが気にしない。


「そうだな。俺はチーズお好み焼きが食べたいんだけども、チーズ苦手な人いる?」


 恐らく俺が一番話しているはずなので、俺が会話を受け持つ。


「私は大丈夫!」

「ああ、俺も大丈夫だ。」

「菜月は何でも食べれるはずだからもう頼むぞ。」


 香住と近藤からの返事を聞いた後、俺は強引に頼んでしまう。後ろのテーブルがやたら賑やかなので見てみると、開登が会話の中心で盛り上げている。


 それに引き換え、この気まずさよ。


「お前もっと話せよ。大好きな女子と話せるチャンスだぞ。」


 俺は隣の近藤に耳打ちをする。周りが相当賑やかなので、香住と菜月には聞こえないはずだ。


「いやだって俺前の2人と話したことなくて……。」

「ここまできてまさかのシャイかよ!?」


 開登をリーダーと慕うくらいだからてっきり開登の分身のようなものなのかと思っていたら違うみたいだ。


 そんなとき、俺の渦中の開登がまた立って、こう言い放った。


「はい皆またちゅうもーく!王様ゲームやるよー!」


 ざわざわとしつつも皆、乗り気のようだった。それを聞いた瞬間、クラスはさらに盛り上がりを見せる。同時に俺らのテーブルの微妙な空気も一瞬にして吹き飛ばされた。


「いえーい!!」

「満場一致のようだね!んじゃあ引くよー!」


 開登はそれを聞いてニッコリ笑うと、割りばしを折って作ったくじを皆に見せる。ナプキンを入れてある箱の、ナプキンを取ってそこにくじを入れたみたいだ。


「王様だーれだ!?」


 皆の掛け声と同時に皆ガラガラとくじを引く。そして出てきたのは王様を引いたのは……。


「私じゃん……!」


 菜月朱音だった。それと同時に周りからまたガヤが入る。


「おお!?」

「最初だから軽いやつがいいよね。じゃあ4番の人が辛子をスプーン1杯分食べるで!」

「全然軽くない!?」


 最初っからハードル上げすぎだろおい……。これでか弱い女子が当たったら本物の罰ゲームみたいだが……。


「4番って俺なんですけど……。」


 よかった。開登だった。開登以外の皆がほっとすると共に、開登以外の皆のテンションがどんどん上がっていく。


「はい開登これね。」


 王様の菜月から直接スプーンが贈呈される。が、辛子をよそう小さいスプーンではなくて、デザート用の大きいスプーン1杯分によそっていた。


 鬼だ、この女……。


「ちょ、ちょっと待って。これ食べるって冗だ……。」

「一気!一気!一気!」


 か弱い開登の声は周りの男子の悪ノリにかき消される。もう皆テンションが完全に飲み会だ。


「しゃーねぇ!俺も男だ!」


 そしてガバッと一気に口の中へ。


「かっら死ぬ!」


 でしょうね。というか開登にこれをやらせること自体そんな新しいことでもないのだが、周りは大爆笑。


「はいじゃあ次いくよー!」


 水を飲んでダウンしている開登そっちのけで菜月が第2回戦をスタートさせる。また掛け声と共に皆くじを引いて行って……。


「私王様だあ。」


 2人目の王様は香住優紀。なんとものほほんとした、平和な王様だった。だが皆は菜月のような鬼将軍ではないと知ってほっと一息つく。


「じゃあ、7番の人が16番の人に頭なでなでする、で!」


 なんともメルヘンな世界。辛子の二の舞は起きずに済みそうだ……。ってあれ。7番って


「俺じゃん……。」


 何度自分の引いた番号を確認しても7番。しかも撫でる側とは……。とりあえず男子来てくれ!それこそ開登が望ましい……!


「16って私なんだけど……。」


 撫でられる側に名乗りをあげたのは花園栞だった。


「じゃあ神谷君が栞ちゃんになでなでだね!」

「へ?」


 王様が改めてこう告げて、初めて花園は7番の人が誰だか認知したらしい。


「いやちょっと。だって相手は女子ですし……。」

「そ、そうだよ!神谷君だって嫌だろうし……。」


「王様ゲームにそんなの関係ねえ!」

「ひゅーひゅー!」


 俺らの弁解は周りの馬鹿男子にかき消される。その中にはもう復活を遂げた開登も混じっている。なんだか腹ただしい。女子は女子でこういうシチュエーションが気になるのか、黙って見続けている。


「花園、先に言っておくぞ。ごめん。」


 俺は腹を括った。ここでやらなかったらせっかくの雰囲気が台無しだ。俺はゆっくりと右手を頭上に動かした。もう花園も同じ気持ちなのか、何も言わなかった。


「おお!?」


 そして、花園の綺麗に整えられた、サラサラの黒髪に触った。そして、撫でた。周りもガヤを入れるというわけでもなければ、一切邪魔もなかった。それが逆に恥ずかしい。


 3秒が限界だった。終わるころには俺も花園も今までにない恥ずかしさで顔がショートしてしまいそうだった。


「……私の方こそ、なんかごめん。」


 終わった直後、花園は消え入りそうな声でそう呟いた。

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